第39話 暴走美少女 ハラマ・ロザリア
魔法学校の
「と、いうわけで、彼女はエリア810への赴任を強烈に志望しておりまして……どうしたものかと」
「わが校始まっての優秀な生徒です。戦場などに送り込まずに、是非本国の発展に寄与して欲しいと思いまして、こうして相談にお越し願ったのです」
先生方がハンカチで汗をぬぐいながらミールさん達にそう懇願する。ハラマさんは卒業を待たずに卒業生十席のイスが内定しており、エリートの象徴である赤い魔女服を手に入れて、このまま本国で上級国民として過ごしていける未来が確定しているらしい。だけど……
「甘いですわ先生! 機械帝国の男どもを殲滅しない限り、我が国に安寧は無い! そう教えているのがこの
バン! と机を叩いて力説するハラマさん。まぁこの国に流布している帝国兵の噂を考えればそう思っても無理ないんだけど……その
ミールさん達は頭を押さえて「ハァ」とため息をつくばかりだ。
反面、彼女の物言いに嬉々としてるのが僕の頭上にいるナーナだ。「おーおー」と両手を上げて興奮気味に彼女にエールを送っている……見えてるのは僕とダリルさんだけだけど。
「幸い、このカリナ先輩はこれからエリア810に帰還するとの事。卒業なんて待つ必要はありません、今すぐにでも戦場に赴き、にっくき帝国兵どもを我が炎の消し炭に変えて御覧に入れましょう!」
凛としてそう発言する彼女。成績トップクラスなのもあって相当な自信家だ……でもなんかさっき僕に見せた、興奮した凶戦士のような顔がちらついていまいち安心感に欠けるんだよな。
というか彼女みたいな人に810に来られるとちょっと困る。普通にあの場所に馴染んでくれる人ならいいけど、彼女はどう見ても帝国兵となぁなぁになるようには見えない。
まして魔法で先走った攻撃をして誰かを傷つけたりしたら、もう関係の修正のしようもないしなぁ。僕やカリナの時みたいに戦争や殺し合いの恐ろしさを味あわせても、彼女ならなんか開き直って乗り越える気がする。
何より彼女が810の事情を知ったら、本国にその事実を宣伝して批判する可能性すらある。そうなれば810や隠し村にいるみんなが大ピンチだ。
なのでここは、当たり障りのない理由を付けて、やんわり彼女を説得するのがベストだろう。
「随分な自身ね、ハラマさん。ならそのお手並みを少し拝見したいですわ」
ちょっと高飛車な先輩を気取ってそう告げる。ここはひとつ彼女の魔法にイチャモンを付けて、最前線に来る資格なしとの判定を下せればベストだ。
「望むところです。先生、修練場をお借りしてよろしいですね」
そう先生方に向けて返すハラマさん。でもそう告げられた先生は青い顔をして「ひ、ひええ……」と顔を引きつらせている。
あ、あれ……なんか対応間違った?
◇ ◇ ◇
修練場は学校の裏側の広い空き地だ。あちこちに攻撃魔法を当てる的が設置してあり、敷地の外周には魔法陣が描かれている。これで結界を張って、外れた魔法が外に飛んで行くのを防ぐらしい。帝国の運動場のネットみたいなもんだな。
なんか大勢のギャラリーが見守る中、先生方が気合一閃してフィールドに結界を張る。青いバリアのようなものが修練場全体を覆い、まるでドームのような閉鎖空間を作り出す……凄い!
「じゃあ、まずは
自信満々で僕にそう宣言するハラマさん。
炎の魔法に
ただ、大きくするほど魔力消費が激しいうえ、命を宿すと言ってもまっすぐ飛んでいくしか出来ないので躱されると魔力の無駄遣いになる。なので結局小鳥のツバメ程度の物が一番実践的なのだが……。
「
そう彼女が叫んだ瞬間、彼女の手の平から火炎が吹き上がり、一羽の鳥の形をかたどっていく……なんというケタ外れの魔力、そして、この鳥はッ!?
「ひ……ヒヨコ?」
出来上がったのは高さ10mはあろうかという、丸っこいヒヨコだった。愛らしい丸々とした体形に、巨体を覆う火炎のギャップがあまりにもシュールすぎるよこれ。
「ふはははは! 死ね、焼けろ、消し炭となれ帝国兵、うりゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
いつの間にかまたプッツン顔になってる彼女が、標的である敵兵の人形に向かって手を豪快にかざす!
ずんずんずんずんずんずんずんずん……
『ぴよぴよ、ぴよぴよぉ、ぴよぴよぴよぉっ!』
バカン! と音を立てて帝国兵の人形を踏み潰して薙ぎ倒し、そのままエリア境界の結界に体当たりして、そのバリアをひたすら押し続ける。
「さぁ行け、我が
『ぴよぴよぉ! おんどれぇ! このワシの進路を塞ぐとはええ度胸じゃのう、』
えーっと……何と戦ってるんだ、この二人、いや魔女と魔法生物は。
「ひいぃぃぃぃ、ハラマさん、ストップストップぅっ!」
先生方が必死になって結界を重ね掛けしている。カベの向こうは申し訳程度の林があり、その先には住宅が軒を並べているので、この結界が破られたらもはや大惨事は避けられないな。
「やれやれ、相変わらずね……
ミールさんがそう発した瞬間、結界の向こうの林の木が数本、束ねるように纏められて、一匹の巨大生物の形を取る。
四本の太い脚で四つん這いになったそのゴレム。頭の先にある大きな角を突き出して、巨大なイノシシのように突進してくる。ハラマさんのヒヨコの向こう側から結界に激突したそのゴレムが、間にある結界をぱりぃん、と粉砕する。
そして当然のごとく、巨大な火炎ヒヨコとイノシシ龍ゴレムの相撲が始まった。体格はほぼ互角だが、実体のない炎のヒヨコと燃えやすい木でできた龍の対決は……
ただただ、シュールだった。なにこの戦い。
「ふんぬぬぬぬぬ、ぬりゃぁっ!」
ハラマさんがその顔をシワまみれにして気張り、生み出したヒヨコに気合を入れている(多分)。あーあ、美人台無しだよ。
対してミールさんは自分の杖をかざしつつ、わりと余裕でゴレムを操作している。ゴレムの腰からお尻の方、つまり下半身から次々に新芽や枝をニョキニョキと生えさせ、焼けて炭になる上半身を再生し続ける。
つにいに巨大火炎ヒヨコは龍ゴレムによって地に押さえつけられ、そのまま消火されて消滅した……ううん、さすがミ-ルさん。伊達に四聖魔女を名乗って無いなぁ。
「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ……さ、さすがは四聖魔女、ミール・ロザリア。私の母だけの事はありますわねっ!」
足をガニ股に広げ、両手でこぶしを握ったまま大口を開けて呼吸を貪るハラマさん……清楚系が一気に体育会系になっちゃったよ。
ちなみに先生たちは精も根も尽き果てた様子で地面にへたり込んでいる。あー、ここを使うって言った時に、顔を引きつらせていたのはこういうコトね。
「で、どうですかカリナ先輩! さすがに四聖魔女の母には及ばなかったけれど、この魔法を持ってすれば帝国兵など、あのようにアリの如く踏み潰せますわよ!」
まぁ確かに単純に戦争するなら、彼女の力はそりゃ戦力になるんだろうけど……僕は覚えているよ。あの戦場には魔女側に縛りがある事を。
「不合格」
「な!? な、なんでえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
僕の言葉に、彼女はまた落ち着きかけた表情を歪めてずずいと迫り、抗議してくる。
「エリア810の森は魔力を生み出す神聖な森です。それを焼き尽くすつもりですか?アナタは!」
「ああああっ! そうだったあぁぁぁぁ!!」
驚愕の事実を知って動転するハラマさん。っていうかそういうコトを魔法学校で教えてないの?
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