05 兄妹の罪
ぴちゃぴちゃというキスで起こされた。シアラはにんまりと微笑み、俺の頭を撫でた。
「おはよう兄さん」
「おはよう……」
シアラはクロワッサンを買ってきたのだと言い、温めて出してくれた。今日も大学だという。好都合だ。
「兄さん、別に何をしててもいいけどさ。ちゃんと夕飯までには帰ってきてよね?」
「ああ、わかってる。行ってらっしゃい」
俺はブランド品や宝石をカードで買い、ネオクーロンで売りさばいて現金にした。それを持ち運ぶためのキャリーケースも買った。そして、偽造IDを購入し、惑星ソルダンに向かう移民船ナリシスの乗船申請を行った。上手くいけば一ヶ月後の便に乗れる。
タバコも買い貯めした。ナリシスの中でも買えるようなのだが、好きな銘柄が売っているかどうかまでの情報はなかったのだ。
俺はシアラに従順になった。キスやハグを求められればしてやり、シャワーも一緒に浴びた。シアラの手で導かれることにも嫌悪感がなくなり、楽しみだとすら思ってしまった。
しかし、ここで情を持ってしまうといけない。シアラの最終目的はおそろしいものだ。絞り取れるだけ絞ったら、俺はソルダンで慎ましく暮らす。向こうは肉体労働者が足りないようで、職には事欠かないらしい。
そして、無事に乗船許可がおりた。偽造IDが通ったようだった。ちなみに日系人のものを買った。俺はノア・スズキとしてこれからの人生を生きていく。
全てが順調に思えた。しかし……甘かった。
「兄さん。最近コソコソ何やってるの? ナリシスに乗るつもり?」
隠していたはずの端末を突きつけられ、俺は頭を垂れた。そして、白状させられたのだ。
「ソルダンに、行こうと思った……」
「あたしから逃げたかったんだね。そうはいかないよ」
「金も暮らしも世話になった。裏切るようなことをして済まない」
「兄さんが、ソルダンに行きたいのなら……あたしも行く」
俺はシアラの琥珀色の瞳を見つめた。それはとても透き通っており、強い意思を宿していた。
「あたしも偽造ID買って、兄さんの妻になるね。それならいけるでしょう?」
「それからは……どうするんだよ」
「夫婦として暮らそう。父さんに怯えなくても済む。そうだね、それがいいよ」
そこからのシアラの動きは早かった。彼女はレイチェルという女性の偽造IDを買い、法律上は結婚した。ナリシスの申請も通り、俺たちは夫婦としてソルダンに移ることになってしまったのだ。
ここまで固められてしまったのだ。俺にはもうどうすることもできなかった。それに……俺はぐらついていた。シアラに触れられるたび、敏感になっていったのだ。
「はぁっ、はぁっ」
その夜も、俺はバスルームでシアラにしごかれていた。彼女は巧くなっており、的確に攻めてきていた。
「兄さん、可愛い。早く身体全部許してくれないかな」
「俺たちは……兄妹だろ……」
「ナリシスに乗ったらもう夫婦だよ。しがらみは捨てて男と女になるんだよ。兄さんがソルダンに行くって決めてくれてよかった。あたしにはその考えなかったもん」
俺は余計なことをしてしまったのだ。しかし、もう遅かった。俺はもうじき、シアラの手に堕ちる。いくら引き延ばしたところで結果は変わらないだろう。
「あっ……いくっ……」
もう何度目だろうか、こうするのは。シアラは俺のアゴをさすり、口づけてきた。
「あたしだけの兄さん。絶対に離さないからね」
俺はシアラの身体を洗った。しかし、その手つきは段々卑猥なものになっていった。小さく膨らんだ乳房をなぞり、突起を指で弾いた。
「兄さんっ、兄さん……」
女性の身体というものもわかりかけてきた。優しく扱ってやるにこしたことはない。男とは違う柔らかな感触に俺はのめり込んだ。
ナリシスの乗船まであと数日に迫っていた。俺は部屋を引き払っており、シアラも家財道具をほとんど処分していた。
俺たちはナリシスでの暮らしを動画で研修することを強いられていた。航行期間は約三ヶ月。船内時計があり、午前八時に紫外線が照射され、起床を義務付けられていた。三食きっちりと取らされ、生活リズムを崩さないように訓練されるのだとか。
「兄さん、ジムとかボウリング場もあるんだって」
「ボウリングか。玉を転がすやつだよな。やったことないよ」
「映画館もあるみたいだし、退屈しなくて済みそうだね」
何だかんだで俺はナリシスを楽しみにしていた。ネオクーロン、そしてシアラのマンションでの暮らしも悪くはなかったが、新しい人生を送るということに希望を見出だしていたのである。
子供はともかく、俺はシアラと共に生きること自体は覚悟が決まっていた。あのまま年老いた男娼として汚く生きるより、血を分けた存在と一緒になることの方がいい。
「おっ、シアラ。ショットバーもあるのか」
「あんまり飲みすぎないでよね。兄さん、お酒好きだけど強くはないってわかったから」
動画を見終わって、シアラとベッドに入ったのだが、なかなか寝付けなかった。俺は彼女に尋ねた。
「本当にいいのか。順風満帆な人生を捨てて、他の人間として生きるなんて。今なら引き返せるぞ」
「あたしは兄さんと生きられるなら何でもいいの。航星局に行けば、身分もお金も保証されるけど……父さんの管理下におかれるのは変わらない」
「ん……そっか」
「それよりさ……そろそろ、いいでしょ。しようよ」
シアラは俺の手の甲にキスをした。ぱっちりとした二重の目が俺を捉えて離さなかった。とうとう、俺は観念した。
「避妊はするぞ……そもそもナリシスに妊婦は乗れない」
「それっていいってことだよね。兄さん、優しくしてね」
シアラは俺のルームウェアのボタンを一つずつ外していった。あらわにされた胸にシアラは自分の頬を寄せた。
俺もシアラを脱がせた。二人とも裸になり、素肌をすりつけた。
「兄さん、触って……」
「うん……女の子は……こんなんになるんだな……」
シアラの準備はすっかりできていた。俺たちは抱き合って舌を絡めた。まだどこかで、妹を抱いてしまっていいのかというためらいはあった。
「兄さん、震えてる?」
「やっぱり、こわいよ」
「あたしは生まれてきたこと自体が罪の子なの。一緒に背負ってよ、兄さん」
シアラは俺のものを口にくわえた。ややぎこちないが、それでも俺を高めてくれるには十分だった。シアラは俺にコンドームをつけた。
「兄さん、これでいいのかな?」
「ん……大丈夫。まあ……俺も初めてなんだけどさ」
「ふふっ、初めて同士なんて嬉しいな」
俺はシアラを仰向けにさせてゆっくりと挿入した。彼女が処女だったのは本当のようで、目をぎゅっと瞑って痛みに耐えていた。
「シアラ……やめておこうか?」
「ダメ。奥まで。お願い」
理性を飛ばさないよう必死だった。俺にとっても新たな快感だったから。シアラの表情を見ながら、俺は慎重に進めた。
「……兄さん、入った?」
「多分」
シアラは繋ぎ目を触った。
「これで兄さんも罪人だね。あとは一緒に堕ちるだけだよ」
シアラの身体が心配だった。彼女は不満そうにしていたが、じっと動かず、ある程度満ち足りたところで引き抜いた。
「兄さん、まだいけてない……」
「いいんだよ。焦るなよ。俺たちは共に生きるんだから」
床に散らばっていた服をかき集め、俺はベランダでタバコを吸った。シアラもついてきて、一口吸ったが、やはりむせた。
それから、毎晩俺たちは交わった。一度やってしまったのだ。二度も三度も同じ事。罪の意識は次第に薄れ、快楽と安息だけを俺は求めるようになっていった。
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