04 血の繋がり

 目覚めるとシアラはいなかった。リビングに行くと、キッチンに立って何かを作っていた。


「おはよう兄さん。ウインナー焼いてるの」

「うん。ありがとう」


 シアラと食卓を囲み、食べ終えてベランダでタバコを吸った。その間にシアラは白いニットに黒いパンツに着替えていた。


「兄さん、今日あたし大学なの。これ、兄さんのために作ったカード。足りないものがあったらこれで買って。こっちはここのキーね。夕方には帰ってくるから」

「わかった」


 シアラはリュックを背負い、出ていった。さて、特にやることはない。冷蔵庫をあさると、冷凍食品がいくつかあったので、昼はそれで済ませればいいかもしれない。

 しかし、せっかくカードを貰ったのだ。旨いメシが食いたくなった。俺は新しい服に着替え、イーストゲートの通りをうろついた。

 本当にこのカードが使えるか試したかったので、適当なサングラスを買った。問題なかった。

 ステーキの店に行き、一番高い昼のコースを堪能した。シアラと出会ってから三食しっかり食べられている。いいことだ。

 路地裏に行き、こっそりタバコを吸っていると、見知った顔に声をかけられた。


「……ユーリ? ここで何してるんだ?」

「ああ……まあな」


 何度か俺を買ってくれたことのある若い男だった。男は近寄ってきて俺の尻を撫でた。


「久々にやらせろよ。ホテル代しか払わないけど」


 シアラのカードさえなければそんな条件お断りだ。ただ、いいものを食っていたし、俺は気をよくしていた。


「いいよ。行こうか」


 俺は男とホテルに行った。部屋に入った瞬間、靴も脱がずに男はキスをしてきた。


「ユーリ、今日は生でさせろよ」

「嫌だよ……腹痛くなるんだよ。それに今は客じゃないだろ」

「ちっ」


 俺は男の服を脱がせて丁寧に尽くした。こっちは十五歳の時からやっているんだ。経験が違う。男を散々鳴かせてやった。


「はあっ、ユーリ、もうぶちこんでいい?」

「いいよ……」


 俺は四つん這いになって男のものを受け入れた。深く呼吸し、快感を味わった。


「あっ、ユーリ、ユーリっ」


 荒っぽい動きだが、若者らしくていい。奥をこすりつけられ、腰がくだけた。


「ふぅっ、ふぅっ……」

「ははっ……最高だよ、ユーリ」


 頭にちらついたのは、シアラの顔だった。俺が彼女を抱くことなどあるのだろうか。男に突かれて満足しているような俺が。


「いくよっ、いくっ」


 男が達した。俺はベッドに仰向けになり、呼吸を整えた。


「ユーリ、また抱かせろよな。金は出さないけど」

「ああ……気が向いたらな」


 男はなおも俺の肌を離さなかったので、そのままのんびりしていたら、眠くなってきた。とうとう本当に昼寝をしてしまったようで、気付けば男は消えていた。ホテル代は払ってくれていたようだった。


「まずい……」


 日はとっくに傾いていた。シアラは帰っているだろうか。俺は彼女のマンションに急いだ。


「もう、兄さん。遅いよ」


 シアラは顔をしかめた。そして、玄関で俺の身体の匂いをかいできた。


「……やってきたでしょ」

「何をだよ」

「セックス。あれの匂いがする」

「そんなことわかるわけ?」

「頭は平凡だけど、五感は鋭いんだから。もう、兄さんったら、身体売る必要なくなったっていうのにさ」


 どうやらシアラに隠し事はできなさそうだ。まあ、別に隠さなくてもいいんだが。キッチンからはいい匂いがしていて、シアラが何か作ってくれていたのだとわかった。


「今晩何?」

「パスタ。ミートソースなら食べれるよね?」

「うん。ありがとう」


 シアラとの夜もこれが三度目。彼女の端正な顔立ちにも見慣れてきた。勿体ないな、と思う。これほどの美貌なら他の男たちが放っておかないだろう。パスタを食べながら、俺はシアラに尋ねた。


「なんでシアラは俺にこだわるんだ?」

「兄さんだから。血が繋がっている人がいるって知って、驚いたけど嬉しかったんだ。兄さんならあたしを幸せにしてくれると思った」

「俺は見ての通りただの男娼だよ。金も力もない」

「それはあたしが持ってるから安心して。大学卒業したら、父さんのコネで航星局に入れるようになってるから。兄さんのこと養ってあげられる」


 俺は咳払いをした。


「……いつか父さんにバレるだろ。どうするんだよ」

「だから、既成事実作ろう? あたし、兄さんの子供欲しい」


 パスタが喉に詰まった。俺は水で流し込んだ。


「今、何て言った?」

「兄さんとの子供が欲しいんだってば。遺伝子操作しない、自然な子供がね」

「どこが自然なんだ。シアラとはまた別の重荷を背負わせることになる」

「あたしは父さんみたいなことはしない。のびのび育てるよ」


 シアラはけっこう……まずい女だ。その無茶苦茶さは生まれによるものか、父の育て方によるものか。俺は考えた。折を見て他の星に移ろう。本当に子供を作らされては敵わない。


「シアラ、ごちそうさま」

「はぁい。食器置いといたらいいよ」


 俺はベランダでタバコを吸った。シアラが大学に行っている間なら隙がある。行くならできるだけ遠くに行きたい。惑星ソルダンはどうだろう。あそこの移民船は、金を積めば一般人でも乗れると聞いたことがあった。

 部屋に戻ると、シアラが俺の手を握った。


「兄さん……一緒にシャワー浴びよう?」


 シアラの奴、ぐいぐい押してくるな。


「嫌だ」

「カード返してもらうよ? それと今まで払ってあげたお金も。シャワー浴びるだけだってば」

「……はぁ」


 渋々俺は服を脱いだ。バスルームに入ると、シアラは後ろから抱きついてきた。背中に控えめな胸があたった。


「兄さん、洗ってあげる」


 シアラはシャンプーを手につけて俺の黒髪につけた。丁寧に地肌を揉みほぐしてくれた。正直気持ちいい。

 次はボディーソープを出し、背中に塗ってくれた。


「兄さんの背中、広いねー。父さんと顔は似てないけど、身体は似たんだね」

「父さんの話はやめろよ」


 シアラの手は肩、胸、腹と伸び、その先に行こうとした。


「そこは触るなよ……」

「いいじゃない」


 また金の話を出されると負けるので、俺は耐えることにした。シアラは明らかにそういう動きをしてきた。


「おい」

「男の人の、初めて触った」


 ゆっくりと動かされ、さすがに反応してきてしまった。


「シアラっ……」

「また貧乏暮らしに戻りたい? 今度は借金もつくよ?」

「うっ……」


 俺は身体をゆだねた。拙い指の動きだったが、俺を満足させようと心を込めてくれているのはわかった。


「シアラ、もう……」

「出しちゃいなよ」


 俺は情けなく果ててしまった。シアラは俺の身体の泡と一緒にシャワーで流した。振り向いて彼女の顔を見ると、褒めて欲しそうにニヤニヤと笑っていた。


「妹の手でいかされた気分はどう?」

「ちょっと屈辱的だな……」


 俺はシアラの髪と身体を洗ってやった。絹のようになめらかな金髪。これを保つには並々ならぬ努力が必要だろう。


「兄さん、あたしのこと抱く気になった?」

「ならねぇよ」

「試してみればいいのに」


 本音を言うと、シアラの身体を知るのがこわかった。快楽には弱い俺だ。溺れてしまうかもしれなかった。

 その夜も、シアラを抱き締めた。キスを求められたのでそれは許した。日々確実に段階を踏んでいた。このままだと流されてしまう。俺は策を練った。やはり惑星ソルダンに行こう。明日からはその準備だ。


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