第5話 赤龍挑門
僕の瞳が写している赤い門には西洋の竜が彫られていた。生きている訳ではないのに、僕に威圧感を感じさせていた。
「この刻まれてるの、竜と言うより、龍……?」
僕が心の奥で思っていた言葉がつい自然と出てくる。この言葉は誰も聞いていない筈。この場には誰もいない筈。それなのに見られている感覚が身を襲う。誰かに聞かれている感覚が身を襲っているのだ。
それは気のせいだ、と自分に言い聞かせて体を動かそうとすれば、赤い門に刻まれている龍の片目が門よりも更に赤く光り始めた。龍の口が大きく開き、何もない広場のような空間に笑い声が響き渡る。若々しい声では無く、長き年を生きた古の龍と分かる声であった。
困惑の感情が脳内だけではなく、体全体に広がっていく。そんな僕の困惑に気づいたのか、龍は門から飛び出し、僕の目の前に降臨した。
「ふっはっは。すまんのぉ、人の子よ。久方ぶりの龍の全門に挑む者であり、儂の正体を竜ではなく龍と見破った。それ程の実力者……いや、才ある者は八万年振りなんじゃよ。話は変わってしまうが、お主……ミネリアと知り合いか?」
「え、あ、はい。知り合いといえば知り合いです」
「何じゃ、歯切りの悪い言い方じゃのう。ミネリアの事は嫌いか?」
「大好きです!」
赤龍さんの言葉に何が何やら、と混乱をしていたのだが、赤龍さんの『ミネリアは嫌いか』と言う言葉に思わず勢いよく答えてしまった。
ミネリアさんを好きになった自分に嘘を吐きたくない、と言う考えの一心で勢いよく答えてしまったが、後悔は僕の中には存在していない。少量の羞恥は確かに僕の中にあるのだが。
赤龍さんは僕の言葉に瞳を何回か瞬きした後、先ほどの比ではないくらいの大笑いがこの空間に鳴り響く。人とは違う龍という種族である為か、人間では不可能な声量を出していた。
「わっはっはっはっはっは!あの者を好いているのか。どこが、どこが好ましいと思っているのだ?並大抵な英雄では歯が立たない圧倒的な強さか?一度熱くなれば何処までも行ける熱度か?」
「最初は一目惚れでした。華奢な体にも関わらず、制服の開いている手首には筋肉が確かにあって、手には鍛錬を一生懸命した証の剣ダコがあるんです。それなのに自分だけじゃ無くて他人を意識の中に入れている」
「ほう……それは特別な事なのか?」
「それ、分かっているでしょう?」
一般の人達からしてみれば当たり前というかもしれない。けれど、僕からしてみれば、ミネリアさんの意識は特別な事だ。普通の人だって自分や自分以上に他人を大切にできる人なんて限られてくる。心の底からこの人を助けたいと思うのは特別な事だと思っている。
どの人も、一番に信じるのは基本的に自分だろう。だからこそ、思うのだ。だからこそ、思ってしまうのだ。自身の命が危機に迫ってしまった時に何が何でも生きようとする。それは決して悪い事では無い。
迫り来る現実に今という生を諦めきれない。絶望を、諦念を出せない。それは決して悪い事では無い。最初から全て諦めてしまう人よりも全然良い。全てを捨ててしまった人よりもずっと良いのだ。けれど、それが時偶醜くなってしまう。
何が何でも生きようとするから、生きようとしてしまうから周りを犠牲にしてでも生に縋りついてしまう。それが僕の考える人の本質。だから、ミネリアさんのような自分と同じかそれ以上に大切にできる人が居るのは素晴らしいのだ。
「そしてそれが強者であるのならば、尚更」
「なるほどのぉ……確かにそれを可能とする者は少ない。例え上っ面で取り繕うとも、もしその時になってしまえば絆を崩壊するのを待つのみ。強者として降臨しているのであれば、それは難しくなるじゃろう。他の人間よりも何倍も強さを渇望した奴等じゃからな」
人間よりも長く生きれる龍の赤龍さんだからか、見て来たように語る。僕の考えは中々理解されないので、此処まで話し合えたのは故郷に居る家族以来だったので話し込んでしまった。
だから、心の内に抱いていた夢を口にした。
「赤龍さん、僕には夢があるんです。僕は誰かに憧れるてもらえる人になりたいんです。そして…」
『「少しつづでも、暖かい世界を作りたいん
「……!そうか、そうなのか。その夢、本当に良い夢じゃな」
「はい!ありがとうございます。僕、頑張ってみせますから!」
「そうか、がんば……はあ、すまん。お主をこのまま外に出すにはいかなくなった。儂達竜や龍を統括、管理をする代理人がおるのじゃがな、其奴が試練者なのだから試練が終わるまで出すな、と」
「えぇ、僕来たくて来た訳じゃありませんよ?」
「それでも、らしいのじゃ」
赤龍さんのその言葉に自然反応で顔を顰めてしまった。ため息を吐きながら鞘に収めていた剣を抜く。試練が終了する条件は僕には分からない。この赤龍さんを倒したらなのか、何方かの敗北が決定したらなのか、赤龍さんに傷を付けたらなのか。全てに可能性がありそうで、分からない。
しかし、全てに共通する事が一つあるのだ。今の全力を赤龍さんに教えなければ分からない。もし何方かの敗北が終了条件ならば降参をすれば良いのでは、と脳裏に浮かぶが、即座に拒否をする。早く終わらせる為に手を抜く。そんな事をしてしまえば、未来の僕は今の僕を愚かだと言うだろう。
「そして何よりも、手を抜いてしまえば……僕は僕を信じられなくなる!」
神話の勇者の次は宮廷魔導士、その次は? 鋼音 鉄@高校生 @HAGANENOKOKORONINARITAI
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