第4話 勇愛堕子

「昨日ぶりです、ミネリアさん」

「あっ、レイくん。昨日の怪我は大丈夫?……大丈夫そうだね。せっかくギルドに来たんだし、何か受けてく?」

「はい!受けます。何かお勧めとかは……」

「お勧め、かぁ……だったら薬草取得がお勧めかな。魔物退治の依頼と違って危険性はあまり無いし。でも薬草を間違えないようにね。間違えちゃったら依頼達成料金が無いどころか、依頼不達成でで罰金になっちゃうから」

「罰金、ですか」


私が罰金の事を言うと、レイくんは体をソワソワさせ始めた。そっか、レイくんって薬草が分からないんだ。だったら罰金を取らせちゃうだけになっちゃうかも……しょうがない、あれをあげるか。


「レイくん、君って薬草の事が分からないんでしょ?だったらこれをあげるよ。私の薬草図鑑」

「え、えぇ!?流石に悪いですよ!」

「いや、レイくんが罰金になった方が私の心傷ついちゃうから。だから、ね?受け取って」

「う、うぅ、わ、分かりました。受け取らせてもらいます」

「ふふ、よろしい」








「行ってきますね、ミネリアさん!」

「いってらっしゃい、レイくん」


私はギルドの入り口前で大きく手を振っているレイくんに対して、私は小さく手を振る。レイくん、昨日と同じで可愛かったなぁ。私は昨日の事を思い浮かべ、上機嫌になっていると、同僚であるケイニから話しかけられた。


「聞いたんだけどさ、あの子の告白を断ったんだって?なのになんなの、あの距離の近さは」

「断って……保留にしただけですよ。私とレイくんは会ったばかりですから。だけど、誰にも渡すつもりはありません」

「そんなに想ってるのなら告白を受けても良かったんじゃないか?」


私とケイニとの会話にギルド長が混ざった。


「ダメです」

「いやダメですって……」

「だって今告白を受けたら揺らいでしまうかもしれませんよね?」

「揺らぐって何がよ」

「美しい娘を見たら一目惚れしてしまうかもって事です」

「そんな事ないと思うけどなぁ」

「知ってますよ、そんな可能性が極めて低い事も。しかし少しでも可能性があるなら完璧に潰すべきです。魅了魔法も圧倒的な恋か愛かがあれば効果が無くなりますから」


私がドスの効いた声でそう言うと、ケイニとギルド長は一歩退がる。私は何かやったかな、と思い、首を傾げれば、ギルド長から叫び声が飛んできた。


「いやいやいや!そんな可愛らしく首を傾げても無駄だからな!?ミネリアが好きな奴を自分の物にしようとしている事実は変わらんからな!?」

「失礼な言いようです、私はそんなつもり毛頭ないのに。ギルド長の髪みたいに」

「いきなり失礼だな、おい!?あと俺はハゲじゃねえよ!」

「先に失礼を言ったのは其方ですから。それと言っておきますが、私はレイくんを自分のものにする気はありません。ただ、愛し合いたいだけです。そのためには、邪魔をされないために土台が必要、というだけで」


私がそう言うと、ギルド長とケイニは一歩後ろに下がった。何でなんだろ、私のこの想いは決して異常では無いと思うんだけど。スター・ウォーリア時代はこれくらいの想いは普通そのものだった。


私よりも想いが重い英雄なんて、片手で数えきれない程存在していたし。自身の記憶を辿って尚、ギルド長とケイニが一歩後ろに下がった理由が分からない。そんな私の様子にギルド長は「マジかよ…」と信じられないような声色を出した。


私は不満そうな顔を全開に出しつつも、お話をこのまま続けれないので書類を瞳に映す。レイくんが依頼に行った場所はパリア草原。そしてこの依頼内容はパリア草原に出現した赤飛竜レッド・ワイヴァーンの調査。パリア草原には低級の魔獣しか存在しない。中級の魔獣である赤飛竜が存在する訳がない。


レイくんに聞いた話となるのだけど、レイくんがミラージュへと来たのは約三月前。そして赤飛竜が此処ミラージュのパリア草原に出現したのも、丁度約三月前。数時間によるズレはあるものの、日は同じである。


最悪が、私の頭を巡る。


厄災ワーリミットとしての記憶が、選択を、答えを語る。


勇者として歩んだ者の忌むべき記憶が、レイくんの危険を示している。


もし、私の考えが本当だったとしたら、レイくんに降り掛かる試練が龍の全門だったとしたら。パリア草原が存在しているであろう方角に瞳を向ける。


(何で、何で……何であんな事をするの。何でレイくんを私達側に引き込むの、永遠の竜神グレイ。今の平和の時代にはそれは関係無いでしょ?それは)













「あー!見つけた。確か、依頼での薬草はこれで終わりだった筈だよね。……うん、これでお終い」


薬草図鑑以外にも、ミネリアさんから貰った物は複数ある。それはアイテムボックスが付与されている小袋。このサイズの小袋にアイテムボックスの魔法を付与するとなると、中々に強力な布を使用する必要があるので、大きさは縦三メートル、横三メートル程になっている。


こんなに初心者の僕を見ていただけれる事に内心感謝をしつつ、帰ろうとパリア草原の草の大地を踏もうとするのだが、踏めなかった。思わず「へ?」というマヌケな声が出てしまうのだが、それを恥じている暇は無い。


地面に暗闇が生じ、落ちているのだから。


恐怖で体が震え、怯えの叫びを出そうとするのだが、上手く声が出せない。落下をしているからだろうか。


このまま地面に衝突してしまえば、僕が血に染まってしまうのは火を見るよりも明らかだ。体が震えてしまって上手く動かせないように感じるが、勇気を振り絞って、ミネリアさんから貰った剣を振るう。昨日、ミネリアさんが使用していた魔力技術を頭に浮かべる。


模倣、再現は不可能。更なる技術と力量が必要な改造も不可能。けど、今の僕でもある程度の学習は可能だ。僕は繊細な技術などを得意とする理論派では無い。けれど、ミネリアさんも理論派では無い。元より自身が持ち合わせている才能型。つまり感覚派だ。


同じ感覚派ならば、通じるものもある。僕は完璧な技の再現は望まない。僕が今、渇望しているのは中途半端な再現。


「勇緋流!」


『威烈鴉』


僕の『威烈鴉』はミネリアさんが使ったような魔力を一切使用していない剣技では無い。中途半端と言えども、『威烈鴉』を再現する為には魔力が必要不可欠。


斬撃が地面に衝突する事で、血塗れになる事で回避した。


「うぅ、危なかった。危うく死んじゃう所……何この赤い門」

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