第13話


キツネが言った意味、月歌が言った意味、僕が列車に乗り続けている理由。

そのことが僕の小さな頭の中で、グルグルと回っていた。


「あれ?貴方が……」


そんな時、いきなりヌッと僕の前が暗くなったかと思ったら、目の前に別の車掌が居た。

その人は長い耳を携えていた。


「ウサ……ギ?!」


と小さく僕は驚きを隠せないままそう目の前の人物について口を開いた。


「ウサギってまあ、ウサギですけれど」


と目の前の人物は自身の長い耳を触りながら、そう答えたが、どこか不服そうだった。


「えっと……キツネは?」


と聞くと、


「そっちも呼び捨てですかー?オオミヤさんは結構図体がデカいんですねえー」


と言われたので、


「それを言うなら、態度がデカいとかじゃ……?」


と正すと、


「まあ、細かいことは置いておいて」


と軽く受け流された。

あまり突っ込まない方がいいのかなあ?と思い、そのまま受け流すと、


「もうすぐ終点なんですよ。オオミヤさんが、あーんまりにも決めてくれないから、終点まで着ちゃいましたよ?」


とウサギは、キツネと同じように、フーやれやれ、と首を左右に振った。


「終点……なの?」


と僕が問うと、


「ええ。終点です。アナウンスする必要も一人なんで、直接来ちゃいましたよ」


と彼女が言うので、


「今までアナウンスしていたのって、君だったんだ!」


と言うと、


「今気がついたんですか?!遅くないですか?」


と目を真ん丸にして言われたので、少しだけ凹んだ。


「終点って……、じゃあ僕はそこに居着くしかなくなるってことになるの?」


と少しだけ凹んだ精神を戻して、聞くと、


「難しいですねえ。オオミヤさんがそこも嫌だとおっしゃると……、

また別のところを我々は探さないといけなくなるんですから」


とウサギは困った困ったと腕組をして答えてくれた。

その様子があまりにも、本当に困っている風には見えなかったから、

僕はプッと声に出して笑ってしまった。

そんな僕の様子を見て、ウサギは、


「……暢気ですねえ。それとも余裕なんですか?」


とピンと耳を直立に立てて、怒っていた。

思わず僕は、


「あ……ごめんなさい」


と謝っていた。


「まあ、いいですけれど。ちゃんと分かっているのなら」


とウサギは意外にもすぐに許してくれた。


「まあ、降りる覚悟はしていてくださいね」


とウサギに言われて、僕は月歌に言われた言葉を思い出した。


「どうして、降りているの?」


その時の彼女の表情、声音、今目の前で言われているかのように。

だから僕は、


「ねえ。それって、降りないって選択は出来る?」


と聞くと、ウサギは目を真ん丸くして、


「出来ません」


とキッパリと言った。

その言葉の力強さと潔さに、だよなあーと肩を落としたら、


「でも、オオミヤさんがそんなことを言うとは驚きです。絶対あなたでは出てこない答えの様な気がするのですが」


僕では絶対出てこない答えってところに、カチンときたけれど、


「どこの誰からの助言ですか?」


とズイと顔を間近に寄せられて、僕は思わずのけ反った。


「そこまで言わなくても……」


と言うと、


「いいえ、気になります。どこのどなた様ですか?あなたにそんな知恵を与えたのは?」


とウサギが僕をどう思っているのかが、知りたくなかったけれど、知ってしまって、悲しいやら虚しさが広がるのを一人感じていた。


「いいじゃん、誰でも。そこまで君には関係ないだろう?」


と少し下を向きつつ答えると、


「君ではありません!私には、『アイキ』という立派な名前があります!」


といきなり名前を宣言された。


「え?」


と驚いていると、


「更に、オオミヤさんはキツネ、キツネとおっしゃりますが、彼にも立派な『ソウシ』という名前があります!」


と言われて、僕は更に目を見開いた。

だって、その名前は……


その時、キツネ、いや『ソウシ』の声が流れた。


『次は~再会の砂場~、再会の砂場~お降りのお客様は~』





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