第7話
「待っているって?」
と再度僕が尋ねると、
「来たら言うから!」
と彼女はそれ以上の言及を許さない!と言った感じにピシャリと告げた。
僕はあまりにも彼女の迫力が怖くて、そのまま口を閉じた。
これ以上彼女を怒らせたら、次は何をされるのか分からないと感じたからだ。
待つこと数分だったと思う。
砂時計のことを少しだけ気にした時に、
「来たわ!手を繋いで!」
と彼女が小声で僕の耳元で言った。
それと同時に彼女の手が僕の方に伸びていた。
思わず肉球みたいな手を僕は急いで握った。
「両手!」
と付け足されて、もう片方も繋ぐ。
「いい?いっせーのーで!で腕を上に上げるからね!」
と早口で説明されて、僕はコクコクと首を縦に振った。
しかし、
「返事!」
と彼女は僕の方を見れていなかったのでそう大きな声で注意されて、
「は……はい! 」
と僕は急いで声を出した。
それから、すぐに、
「いっせーのーで!」
と彼女の声がして、ブンと勢いよく腕を振り上げた。
振り上げる瞬間に、腕に何かが当たる感触がした。
「よし!」
とモグラちゃんが言い、
「急いで確認しに行くわよ!上がるわよ!」
と続けて言われて、僕は急いで彼女の後ろをついて上がった。
「何が取れたの?」
と彼女の後姿に向かって聞くと、
「大物よ」
と彼女は言って、放り出した物の傍に行って、それを僕に分かりやすいように見せた。
腕に当たった感触があった物は、大きな大きな岩のような物体だった。
けれど、星の集まりにあるみたいに、その岩は光っていた。
「岩?」
と訝しんで聞くと、
「岩じゃないわよ。原石よ」
と彼女は答えた。
「原石?」
と更に僕は意味が分からずに聞くと、
「これは星の元となる原石。あそこで流れている星たちも、元はこんな風に大きな岩だったの。それを私たちが獲って、星の形にまで磨いているのよ」
と得意そうに彼女は言った。
「磨く……?」
こんな大きな物を?と僕が疑いの声をあげると、
「まあ、見ててよ」
といつの間に取り出したのか、モグラちゃんの手には、削り出す工具が握られていた。
「え?危ないよ!」
と僕が言うよりも早く、彼女はその工具を岩めがけて振り下ろした。
金属と金属がぶつかった時の様な重い音がしたかと思ったら、岩からそこにあるみたいに小さな星がいくつも転がっていた。
「ねえ、これをまた戻してくれない?」
とこれまたいつの間に用意したのか、近くには籠があって、モグラちゃんは僕に向かって、籠に取り出された星を集めるように指示をした。
僕は驚く心をどうにか納めて、散らばった小さな星を、空の籠の中に集めていった。
「分かっていると思うけれど、くれぐれも丁寧にね!乱暴に扱わないでね!」
と注意事項が飛んだ。
「分かったよ!」
と僕は慌てて籠の中に投げ入れようとした手を止めて、そっと放り込んだ。
小さな星は籠の中でぶつかるたびに、小さく光ったように見えた。
「どんどん磨くからさ、急いで戻して!」
と彼女の指示はひっきりなしにとんだ。
「分かったよ!」
と僕は彼女の叩く音に負けないくらいの大きな声をあげて、そう応えた。
そして、籠を星で一杯にしたら、急いで星の川のようなところまで行って、またそっと丁寧に籠を傾けて戻していった。
籠を一杯にしても一杯にしても、星の原石と言われる岩からは、大量に星が現れた。
「一杯あるんだねえ」
と言うと、
「まだまだ。こんなの序の口よ!」
と彼女は何でもない風に答えた。
そんな彼女の答えに、僕は不安になって砂時計を見ると、まだ半分以上も残っていた。
「こっちもまだ大丈夫みたいだな」
とボソリと声を出すと、
「手を休めないで―!」
とモグラちゃんの注意が飛んできた。
急いで僕は作業に戻った。
あらかた星を戻すことが出来た頃だった。
「あなたなかなか筋がいいわね」
とモグラちゃんに褒められた。
「ありがとう」
素直に嬉しく思った。
「このまま、ここで私の手伝いして欲しいくらい」
そう彼女に言われて、キツネの言葉を思い出した。
「ここに居ついた方が、良いのかな?」
とふとそんな考えが頭をよぎった。
「どうなの?あんた、何か予定でもあるの?」
とモグラちゃんが僕の顔を覗き込んできた。
そのいきなりの彼女のドアップに僕は驚いて、思わず後ろにのけぞった。
「うわあ!」
そんな僕の様子に、モグラちゃんは半目の冷ややかな視線で、
「そういう態度、傷つくわ……」
とボソリと言って、作業に戻っていった。
彼女を失望させてしまったと思って、僕は少しだけ自分の行いを反省した。
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