第6話


「くれぐれも、飛び込み乗車はしないで下さいね」


僕が降りると再度キツネは念押ししてきた。


「分かっているよ」


未だ少し痛む首をさすりながら、僕はそう答えた。


「あと、砂時計壊しても同じですからね?」


とサラリと初めには言わなかった忠告も加えられた。


「え?!そんなの聞いていないけれど?」


と慌てた声で言うと、


「今決めました。もう一度されたらたまらないので」


とツーンとした感じでキツネは答えた。


「じゃあ、落ち切るまでごゆっくり過ごして下さい」


とキツネは軽く帽子を下げて、別の車両の方へと歩く。

僕はそんなキツネの姿を見つめつつ、今降り立った場所を確認した。


「確か……<星の通り道>……だったっけ?」


と独り言を呟きながら、前に進んでいく。

上を見上げると、キラキラの光が眩く光っていた。


「うん……まごうことなき、<星>だな」


と一人納得した。


僕は星が沢山集まって川みたいになっているところに

近づきたいと思いつつ、前の時の失敗もあって、近づけなかった。


「この前みたいに、本当は近づいたらダメな危険地帯とかだったらなあ……」


と悶々と一人考え込んでいたら、


「ちょっとお兄さん」


と声がした。

僕はその声が聞こえたから、辺りをキョロキョロと見回した。

けれど、どこにも人物らしき人影が見えなかった。

首を捻った僕に向かって、


「下よ、下」


ともう一度声がした。

その言葉を頼りに、フッと下を向いたら、僕の前に人が居た。

いや、人間ではない。

モグラの様な動物が、立っていた。

身長は僕の半分くらいって感じで。どうりで姿が認識できなかったわけだと納得した。


「えっ……と……」


言葉に詰まったら、


「ちょっと手伝ってくれるんでしょ?早くしてよ」


とモグラちゃん(言葉遣いが、小さい女の子にそっくりだったから)は、

グイッと僕の手を引っ張った。


「わわわっ!」


とあまりの見た目からは想像できない強い力に、僕は片足を浮かせて、

ビックリした声をあげて、モグラちゃんになされるがまま、連れていかれた。


モグラちゃんは、僕が気になっていた星の川のところ、ギリギリまで連れてきた。


「入るわよ」


と彼女は言い、ずんずんと進んでいった。

僕はあわてて、


「ねえ!入っても大丈夫なの?!」


と少し素っ頓狂な声で尋ねた。すると彼女は、


「何言っているのよ?入らないと目的の物が取れないじゃない」


と肩でため息を吐いて、そう答えた。

そんな様子に、


「さっきは、入ったら戻って来れない場所に行ったから」


てっきりここもそうなんだと思って……という僕の声は彼女にかき消された。


「別の場所のことは私は知らないから!とりあえず、入って来て!」


と彼女は強引に、僕の手を掴んで、引っ張った。

またもや片足が浮き上がるのを、僕は寸でのところで阻止して、

今度はキチンと自分の足取りで川の中に入っていった。


「そのままでも汚れない?」


と聞くのと、川の中に入ったのが同時で、その僕の疑問は瞬時に解消した。


「冷たく……ない?! 」


てっきり川っぽいから、濡れたりするのかと思いきや、全く水を含んだ感触もしなかった。

周りに見える星の様に光っているものも、僕の肉体を通過して、違和感が無かった。


「濡れないし、それにここは川じゃないわよ?」


とモグラちゃんは、少し冷ややかな目で僕のことを見て、そう言った。


「川じゃなかったら、何なの?」


と聞くと、


「道じゃない」


と当たり前のことを聞くなという風に、キッパリと言い捨てられた。


「道じゃない!と言われてもなあ……」


と頭をポリポリ掻きたくなった時に、


「じゃあしゃがんで!」


と彼女の強い声が聞こえた。


「しゃがむ?」


と疑問に思っていたら、


「もう!どんくさい!」


と言われて、彼女は無理やりジャンプして、僕の頭を押さえた。

あまりの力に僕はバランスを崩して、そのまま星が連なっているところへ顔を埋める形になった。


「うぷっ!」


川じゃない、水も無いとは分かっていても、咄嗟のことに呼吸!と思いハッと息が止まった。しかし、普通に呼吸が出来ることに次の瞬間気がついて、僕は落ち着いた。


「だから、川じゃないって!」


と幾分小声で、隣からモグラちゃんがそう忠告してきた。

声からは、心底めんどくさそうなオーラが感じられた。


「ごめん……。ところで、ここで何をするの?」


と少し落ち着きを取り戻して、僕が聞くと、


「ある物を待っているの」


と彼女は真剣な目をしてそう告げた。

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