第4話 【閲覧注意】海に関する表現があります


そこで僕も鷲の人の見よう見まねで、道具を海の中に放り投げてみた。


「そして一気に引く!」


と後ろから声を掛けられて、僕は力加減も曖昧なまま、道具を自分の元に手繰り寄せた。

すると、先端にはただの石や砂しか引っかかっていなかった。


「初めは大体こんなもんだよ」


と僕の肩をポンポンと叩いて、鷲の人は笑った。

気にするな、と僕は受け取った。


その後も何度も挑戦するが、何度しても教えられたキラキラの玉のような石のようなものを僕は獲れずにいた。


「すみません」


そう口にすると、


「なに、坊主は初めてなんだから当たり前だ。あのな、これを獲るにはコツがいるんだよ。焦るなって」


と鷲の人は、優しくそう言ってくれた。

そう言われると、幾分心は軽くなるのだけれど、申し訳なさが募っていく。

自分から進んでしたいと言ったわけではないが、成り行き上、手伝うことになったのだから、どんな形であれ最低限の働きはしないとな、という気持ちが膨らんでいった。

僕は少しだけ考えて、一歩一歩、海の方に近寄って行った。

もっと海の奥の方に道具を入れられたら、獲れるのではないだろうか?と考えたからだ。

ジリジリ、ジリジリ。

僕は、少しずつ海の方に近寄って行った。

足元を波が触れるか触れないかくらいまで近寄った時だった。


「危ないっ!!!」


大声が耳元に飛び込んできた。

そう思ったのと、自分の体が宙に浮いたのは同時で。

フワリと飛んだ感覚がした後、砂浜に倒れた。

僕の後ろに、鷲の人も一緒に倒れ込んだ。


「??????」


と目が点になって仰向けに倒れていたら、


「あぶないだろう?!何してんだよ!お前!」


と上半身を起こした鷲の人が、そう僕に叫んだ。


「えっ?!」


とまるで交通事故に巻き込まれる寸前だった子供のような、素っ頓狂な声しか僕は出せなかった。

すると、鷲の人は、


「海に近づいちゃ、攫わられて、二度と戻ってこれなくなるんだ!波が体のどこかに触れただけでもアウトなんだよ!」


と僕のキョトンとした状態に、半ば呆れたような表情でそう言った。


「攫われる?」


と僕が繰り返すと、


「攫われた後のことは分かんねえ。でも、戻ってきた奴は居ないんだよ!」


と目を手で押さえながら、肩で未だに息をして鷲の人は、「無事で良かった。」と小さく零した。

僕はそのことに、良かれと思ったのに、逆にまた迷惑をかけてしまった!と恥ずかしくなった。


「す……すみま……」


と少し鼻の奥がツーンとしながらそう口にすると、


「俺たちはこの海と共存してんだ。あるラインで、生かし生かされつつ。俺たちが獲っているコレもな。海にとっては必要なものではあるんだが、あまり多すぎると逆に困るものでもある。だから必要な俺たちが、海にとって丁度いいバランスが保てる量を獲らせて貰っているんだ。海も俺たちが獲ることで、良い状態が保てるようになっているってわけ」


と鷲の人が、優しい目をしながらそう教えてくれた。

その目は、父さんと同じだと僕は思った。


「共存……」


と呟くと、


「持ちつ持たれつつってやつだな」


と笑った。

その笑顔を見て、僕は少しだけホッとした。

怒っていないということが分かったからだと思う。

その時、


「あれ?坊主、砂時計……」


と言われて、僕は慌ててキツネから貸してもらった砂時計に目をやる。

砂時計の砂は、ほとんど落ちかけていて、あと残り僅かしかなかった。


「やばい!落ちきる前に電車に戻らなきゃいけないのに!」


と焦った声を出したら、


「電車に戻りてえんだな?」


と鷲の人が聞いてきたので、僕はコクコクと無言で首を動かした。

すると、鷲の人は僕の体を持ち上げて、


「もしかしたら衝撃が強いかもしれないが、そこは我慢しろよ!」


と言って僕をぶん投げた。

ぶん投げられた僕は、空中を真っすぐに電車めがけて直立の状態で飛んだ。

そして閉まるか閉まらないかのドアの間を滑り込んで、座席に背中をぶつけた。


「っいったあああああああ!!!!!」


と僕は声に出したが、座席のクッションが結構柔らかく、ぶつかった時の衝撃が大分吸収されていて、思っていたよりもそこまで痛くはなかった。

むしろ、そのクッション性が無かったら、僕は今頃ボキンと体が折れていたかもしれない。

外から、


「またなー!」


と言われたのと、プシューと扉が閉まるのは同時だった。

僕は慌てて窓にかけよって、


「ありがとうございました!」


と叫んだ。

窓は開けようとしても開かなかった。

それでも、聞こえるように声を最大限張り上げた。

そこへ、ガラガラと音がしてキツネが入ってきた。


「あら?戻ってきたんですね。お気に召しませんでしたか?」


とキツネは飄々と言った。

僕はそんなキツネに対して、


「まだね」


と言うのが精一杯だった。

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