第015話 練と連
「それじゃ、訓練開始していくか。」
「そうですね。それにしれも結構人が多いですね。」
この個人訓練場は2、3人が訓練できる空間が各学年30室用意されており、練習風景を撮影し確認などもできる便利な場所である。
この多さは、ほとんど1年生だろうな。
「どういった練習をしますか。いきなり試合形式の訓練はどうかと思うのですが。」
「そうだな、軽くミニゲームでもするか。」
最初から根を詰めてしまっては途中から疲れがでてしまうだろうからな。
しかし、ミニゲームと言っても何か具体的な案があるわけではない。
どうしようかと考えていると音橋が思いついたようだ。
「こういうのはどうでしょうか。今からホログラムの的を用意するので攻守に分かれて的の防衛をする練習です。」
それなら周りの動きを常に意識する練習にもなるだろう。
「いいんじゃないか。よく考えられてるし。」
「ルールは、リバイブが発動するほどの攻撃は禁止と時間制限1分ということにしましょう。」
確かにリバイブが起動してしまうと数時間危険の伴う訓練ができないし、最後のほうに取っておくほうがいいだろう。
「それでは始めますね。まずは軽くいかしてもらいます。」
確かに音橋の一撃は本気というわけではなかった。
これなら受けるのも簡単だろう。
「これだと的が自由になりすぎですよ。」
投擲でナイフを投げられしまい、1本目はかなりあっさり終わってしまった。
的は自分の後ろにあるので視線外だし、言葉を発しないので意思疎通もできない。
これは思ってたより集中力が必要だ。
思ったことを素直に音橋と共有した。
本来ならば3人いるので2対1で似たような連携の練習ができるが俺達には、それができない。
「次は攻守交代ですね。ちょっと難しそうですけど頑張ります。」
「次始めるぞー準備はいいか音橋。」
大丈夫そうなので、2本目を始める。
能力を使ってもいいのだが、ここで縛りをつけるほうが考えることも増えていいだろう。
そう思いながら、音橋の様子を観察する。
「なるほど、なるべく的の近く陣取って守るのか。それなら投擲は防げるな。」
「先程の経験を活かしてみました。これなら時間を稼げますよ。」
果たしてそう上手くいくだろうか。
まずは、接近。
しかし、音橋のポジショニングが上手く的までの攻撃は通らない。
短剣同士がぶつかりあう鉄の音だけが訓練場に響き渡る。
「これは時間だけが過ぎて私の勝ちですね。」
短剣では、このポジショニングを攻略できないと思い余裕そうだ。
その油断を待っていたのだがな。
バァンッ!
腰に隠していた拳銃を取り出し発砲。
遠距離を頭から取り除いていた音橋が負ける結果となった。
「このミニゲームは難しすぎますね。身体を動かすのにはちょうど良いのですけど。」
「集中して周りの空間を意識できたし良かったんじゃないか。」
その後何戦かしたがどうしても防衛側が難しかったので、訓練内容を変えることにした。
「このAIホログラム戦闘人形ってのはどうでしょう。」
「すごいハイテクそうな名前だな。えーっと、通称ホログラくん。ノーマル、ハード、プロフェッショナルの3択あってそれぞれAIが自動で戦闘訓練の相手を行なってくれるらしい。」
「これなら2人でも連携を意識した練習ができそうですね。」
この施設内では何から何まで用意されているのか。
そう感心しているとホログラくんが現れる。
[これより訓練モードを開始します。難易度ノーマル、スタート]
2対2の戦闘訓練。相手はプログラミングされた連携ということもあり、ノーマルでもかなり苦戦しそうだ。
「音橋、俺が前に出て抑えるから後衛からカバーしてくれ。」
短剣を出し前線まで走る。
しかし、2体目も前衛タイプだった。
終わらない2体の攻撃
激しい連撃の前に、俺はなんとか防いでいた。
「音橋、片方だけ狙って引き剥がせないか。これじゃ1対2できついぞ。」
「すみません!でも、その2体の射線が霧道君と被っていて狙いが定まりません。」
そんなことまで考えられいるのかよこのAIども。
「能力だ!能力を使えないか!音なら大丈夫だろ。」
「私の能力は聞いた人すべてに効果を与えるので霧道君まで巻き込みます。」
その能力を集団戦闘向けとは言えないが、俺にはそれは問題じゃない。
「”錬金術師 知識の錬成” 音橋、イヤーマフを錬成した!全力で行け!」
「了解しました。”七色の音色 不協和音”!」
キィーーーン
イヤーマフをしている俺でさえ少し音が聞こえて来て辛い。
AIに聞くかどうか不安だったが五感も再現されているようで、その場に倒れこんでいる。
音橋も何事もないような顔をしているので本人に害はないのだろう。
「やりましたー!成功です!」
今まですべて上手くいっていなかったのでこの成功体験が嬉しいのだろう。
しかし、これは実践レベルとは程遠く形にすらなっていないだろう。
彼女があまりに嬉しそうなのでそれは結局心の中に留めておくことにした。
その後か練習したが2対2はプロフェッショナルまで戦えたが本番を想定した2対3を行うとハードでさえ苦戦してしまう。しかも、こちら側は能力を使っているが相手は能力無し。
30分前まであんなに元気そうだった音橋もすっかり疲れ切っている。
「どうすれ音橋。まだ訓練を続けるか。」
少し黙った音橋は何かを決意したようだ。
「やっぱりもう1度、来井君と話してみようと思います。このままでは絶対リングは守りきれません。しかも、それは私だけの問題じゃない。それなら来井君と話し合って分かり合う可能性に賭けます。」
「今の状態で音橋が話しかけて、来井が応答してくれると思うのか?」
「それは、、、。」
やはり現実的では無いと思っているようで言い淀んでいる。
ここは助け舟を出すしかないだろう。
喧嘩の仲裁なんて面倒だし本当はしたくないのだが仕方ない。
「俺の言う条件を飲み込むなら話ぐらいはできるかもな。」
◇◆◇
「呼び出して悪いな来井。」
「お前が確実にptをゲットできる方法を見つけたと言ったからだ。何故そこにその女がいるんだ?まさか、仲良く3人で頑張りましょうとでも言うのか。」
どんだけ協調性がないんだと思い苦笑いしてしまう。
「そのまさかだろうな。話をするのは俺じゃないがな。」
「俺がそれに応じるとでも?」
「安心しろ。条件付きだ。今この瞬間音橋と話せば、この後1週間お前には干渉しない。それとお前の試験中の行動すべてにも口出ししない条件だ。悪くないだろ?」
仕方ないと言った感じで音橋の方に身体を向ける。
「それで話はなんだ。手短にしてくれると嬉しいんだがな。」
音橋は震えた手をぎゅっと握りしめて声を出す。
「朝のことは謝ります。私のことが嫌いというならそれも受け入れます。なので、この試験だけは。それだけは協力していただけませんか。」
しばらく続く沈黙
「確かにお前のことは苦手なタイプだ。だが、それで駄駄を捏ねるほど子供ではない。俺には、チームで戦闘ができない理由がある。そして、それは他の誰にも言えない理由だ。だから、他の奴とはつるまないと決めている。例えそれでこのptを失うことになってもだ。」
「私はそれでも信じたいです。あなたがクラスメイトに心を開くことを。あなたが馬鹿だと言おうとも。周りが愚かだと言おうとも。いけませんか?」
「勝手にしろ。話せることはここまでだ。約束は守れよ霧道。」
そういうと背中を見せたまま振り向くことなく去っていく。
「これで本番で協力していただけるでしょうか?」
そんな問いを投げかける。
「100%無理だろうな。ああ言う人間は自分の殻から出られない。自分でより強固にしていくから。」
「そ、そんな。それじゃ、分かってて話をさせたんですか。来井君は自由にさせちゃいますよ。」
「そうだろうな。そうじゃなきゃ困るからな。」
こうして、俺達は帰りながら作戦を共有し合った。
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