第013話 忘れて覚えてを繰り返す

昨日、俺達は能力の強化のために現役特防隊員の指導を受けた。

全てにおいてまだまだ未熟なのだと現実を突きつけられた。

今は経験が必要だ。

戦術や行動の予測、そして勝ちへのビジョン。


「どうしたお前らー。授業始まってのに元気ないぞー。」


倉谷先生がランニングをしている俺達に声を掛ける。

あんたは、元気そうでいいけど俺達は昨日のことがあるから居ても立っても居られないに決まってる。


それを代弁するかのように秋鹿が声をあげる。


「先生、確かに私達はこのカリキュラムの必要性には十分理解できました。しかし、本来の目的は特防に入隊することです。それを考慮すると能力の発動を許可した対人訓練が増えるのが自然ではないでしょうか。」


まさにみんなが言おうとしていることだろう。


それに対して倉谷先生は憤りを感じるかと思っていたが、意外にもあっさり承諾してくれた。


「いいぞー、対人訓練だったな。ちょうど良い時期だし2つ説明をしておく。

まずは、ランクファイトについてだな。」


倉谷先生が言うことをまとめるとランクファイトの概要はこうだ。


1.両者が合意している場合でのみランクを変動させることのできる勝負を行うことができる。(ランクの変動はポイント制であり、1〜100で変化する。)


2.基本的には特防で行われる試合を参考にしたルールで試合を行うが、両者がルール追加等を合意の場合はその限りではない。


この2つだけだった。

しかし、これだけで上手くランクファイトがまわっているとは思えない。


需要と供給が合っていなさすぎるからである。


例えば、学園最弱の俺が学園最強の生徒会長に勝負を挑むとする。そして、ありえないが俺が勝った場合100ptを貰え、負けたとしても失うポイントは1pt。そうなると強ければ強いほど勝負をする意味がなくなるということだ。


「それじゃあ、拙者達はお得でござるが5つの希望ファイブホープは誰も勝負したがらないでござるよ。」


王馬にしては珍しく的を射た発言である。


「それは安心して欲しい。このランクファイトは勝負の時にpt以外にも他のものを要求できる。つまり、強い者と戦いならその代償が必要というわけだ。」


それなら納得だな。

それで少しはランクファイトに参加する生徒は増えるだろう。


「そうそう、それと2つ目は中間実技試験のことだがな。」


わ、忘れてたー!

この学園には中間と期末にそれぞれ変わったルールでの勝負を行う試験が存在し、今回の中間は1年にとっては初の試験となる。

しかも、このテストではランクが大きく変動することがある。


決して油断ができないし、大きなチャンスになるから万全の体制で挑む必要がある。


「それじゃあー説明するぞー。しっかり覚えておけよー。」


おいおい、今メモするものないぞ。

大事なこと2つも説明されたら忘れる箇所も出てくるぞ。


「まず今回の中間試験はなんだがな、この学園の近くに森が見えるだろ。実はあれも学園の敷地ないなんだ。そこで試験が行われる。人数は同じクラスでランダムに3人1組が組まれて1年生全体で試験を行う。」


ここまでで重要なことは同じクラスとはいえランダムに3人1組を組まさせることである。

一定の法則で組み分けされるとすればランク等の平等性が保たれる。

1ヶ月と少ししか経っていないのでほとんどのクラスメイトが交流は狭いので、ランク最下位の俺は煙たがられる存在なのは明らかである。


「ルールは意外と簡単だ。1人1つのリングが配布される。1チームに配られるリングは10pt、50pt、100pt分の価値がある。それを試験終了まで死守すればいい。」


ptの貰える大事な試験なだけあってそんな簡単なわけがない。


「先生、それは3つ以上持ってたら勿論ptがその分追加されるだろ?」


京極が組み分けすら始まっていないのにバチバチに闘志を燃やしている。

言葉を発することなく倉谷先生はただうなずいた。



「組み分けについては今からと言いたいところだが、今日はそろそろ授業が終わりの時間だな。また、明日ということで。号令を。」


あんたテキトーすぎるだろ。

こっちは大事な試験だというのに、どこからか情報を仕入れる方法はないだろうか。


◇◆◇


そういえば、忘れていたが先輩がいたじゃないか。そう思い部室に足を運ぶ。


「お疲れ様です東源先輩。」

「霧道、部活来た。どうせ、中間試験の情報が欲しくて来た。薄情な奴。小鳥には教えたけど、霧道には教えない。」

「何言ってるんですか。週3回は顔出してるでしょうが。」


そんなやりとりをしていると喧嘩していると勘違いしている月野がオロオロしている。


「霧道君、奏香先輩はいつも来て欲しそうにしてるんだよ。たぶん寂しいんだよ。」

「小鳥、余計なことは言わなくていい。それに中間試験の情報は残念ながら何もない。すべての試験が全く違うもので一緒のものは1つもない。」


それだけ聞ければ十分だ。

せっかく部室に来たんだし、何か活動でもしておくか。

そう思いながら気になる本を手に取った。


東源先輩と月野は俺が何を研究するか興味があるらしくこちらの様子を伺っている。


「霧道、それ神話の本?神話好きなの?」

俺が取ったのは北欧神話の本だった。

部室に何回か来ているなかで興味を持ったので1度読んでみようと思っていたのだ。


「俺は神話の研究にしようかなと思ってますよ。かっこいいし、男なら1度は憧れるもんですよ。」

「良いと思う。私は、能力の歴史。先輩の研究を受け継いだ。」

「あ、私はね。日本史を研究してるの。昔から好きだったし。」


その後俺は、2人の研究内容を聞きながら本で調べた内容をそれっぽい感じにまとめることにした。

意外と神話を読んでいると面白い発見があるのでこの部活も悪くないと改めて実感した。

部活に夢中で本来考えるべきことを忘れている気がするが大丈夫だろう。

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