第012話 弱者の戦い方

いつまで基礎訓練やらされるんだよと思っていると、ついに俺が呼ばれる。


「おーい、次の子どうぞーッス。君で最後ッスよ。」


やっと呼ばれたので嬉しくて小走りで移動する。


「霧道です。よろしくお願いします。」

「正直疲れたッスねー。でも、指導はしっかりするッスよ。

準備できたら合図してほしいッス。」


そういうと時永さんは位置についた。

準備して良いらしいので遠慮なく準備させてもらうことにした。


「”錬金術師アルケミスト 知識の錬成”」


煙玉にフラッシュバンや拳銃を予め多めに錬成しておく。

そして、合図を送る。


「じゃ始めるッスよー。」


そういうと先行を譲ってくれるらしいので遠慮なく煙玉を投げようとする。

が、いきなり距離を詰められる。



「反省点その1、そもそも身体能力が低いッスね。」


煙玉を投げようとした手を弾かれるが、すぐさま拳銃を構えて煙玉を狙う。


「それも錬成しているのは把握してしているッスよ。」

「しっかり拳銃の対処もしてくれると思ってましたよ。」


プッ


俺は口の中で錬成した小さな針を煙玉目掛けて発射する。

今までの指導を見ていたが、彼女はなるべく能力を使用はしない。

身体能力がいくら高くても、蹴り技中心の彼女は拳銃を狙っていて小さな針を防げない。


煙が辺りに充満していく。


「何か隠しているとは思っていたけど、まさか口の中とは驚きッス。もしかしたら、ウチに勝っちゃうかもしれないッスね。」


俺は相手の話に答えない。

視界の有利を取ったのに場所がバレては意味がない。


「声を殺すのは賢い判断ッスけど、移動するときの音が殺しきれてないッスね。」


やばい!!!

そんな小さな音まで聞き逃さないのかよ!

彼女の的確な攻撃が俺の手にヒットする。

先程も拳銃を持った手に受けたので痛みがひどくなる。


「反省点その2、攻め数が少ないッス。自分のダメージが増えていく一方ッスね。」


俺の攻撃方法は既存の物を作ったりする以外にない、だからこそ手数の少ない今、攻撃のタイミングが重要。


「”錬金術師 血の契約”」


生命の錬成。

代償として血が必要になるが今は躊躇ってられない。


百獣の王 ライオン


少しでも時間の余裕が欲しい。

獣相手でも恐らく稼げる時間は数秒程度だろうが、


「生物まで錬成できるッスね。ペットに欲しいライオンちゃんッス。」


ガォォオーーー!!!


その咆哮はあまりにも無意味なものだった。

蹴り1つでライオンがダウンする。

しかし、少しの時間は稼げたようだ。


「少しはお手柔らかにしてほしいけど、無理な相談みたいですね。”錬金術師 代償の錬成”」


大きな固定砲台。


キュイーーーン!!!


大きな音と光を出しながら、闇雲に砲撃を連射する。が、どれにも手応えがないようだ。

アドバイスしながら彼女が目の前に飛び出してきた。


「反省点その3、自分の有利を活かしきれていないッス。音や光で固定砲台は避けやすいし、あからさまに攻撃の無い箇所があったのでそこに自分がいるって言ってるようなもんッス。」

「全くその通りです。ですが、大きな隙には注意しろでしたよね。最弱の戦い方だぁーー!!!」


煙がだんだんと晴れてくる。

俺の目の前には代償の錬成で生まれた落とし穴がある。

これで体勢を崩した時永さんを倒すのが俺の作戦。


「安心して欲しいッス。自分の言ったことは守るッスから。」


彼女には、こんな穴が通用するわけがなく飛び越えて、勝負を終わらせにくる。

3つのアドバイスをした後必ず勝負を終わらせてきたのを見ていた。

ここでの攻撃は明白、これが授業であるが故に生まれているハンデ。


俺は、自分から時永さんに近づき、なるべく威力を抑えるよう金属装備を錬成する。

目の前まで来ることはできたが、蹴り技が命中する。

彼女の攻撃はかなり重く、身体に響く。


「痛てぇー! だけど、まだ意識はある!!!」


そういうと彼女に抱きつく。そして、簡単には解けないように鎖を巻きつくように錬成した。

そして、予め用意してあった落とし穴に身を投げる。


「ちょちょちょ、待って待ってほしいッス。」

「俺からのアドバイス 最弱の戦い方に注意しましょう!」


この落とし穴は結構深く落ちれば一溜りもないだろう。

さらに、底の方には地雷をいくつも設置してある。

つまり、捨身の一撃ということだ。

ちゃんとした勝利ではないが相手に一杯食わせることができるだろう。


俺、渾身の策


しかし、彼女が喋り出す。


「面白い案だったからちょっと多めにハグさせてあげったッス。反省点その4、女性の本音に気を付けようッス。」

さっきの焦りは演技だったのかよ!!


「”制限された時計リミットオブクロック ループスロータイム”」


俺の動きが遅くなる。

抵抗しても、その能力には無力のままだった。


ゆっくりと落ちていくのを感じながら確信していた勝利が逃げていくのを感じる。


俺の策はちゃんと決まったはずだったが、彼女は物ともしていない。

鎖は、いともたやすく破壊されてしまう。

そして、空中で身動きできない俺を踏み台に上に登っていく。



ズドォーーン


俺のリバイブが起動したところで俺の訓練は終了した。


訓練が終了したあと、時永さんが話しかけてくる。


「お疲れ様ッス、メンヘラくん。最後の戦い方は面白かったすね。なかなかセンスはあるほうッスよ。頑張って特防を目指せば、ウチのナイスなバディにまたハグできるかもしれないッスね。」


最後の策があれだったのでメンヘラくんと呼んでいるのだろう。

最後の魅力的な提案につばを飲み込む。

本気にされたと思い彼女が顔を赤くして照れる。


「じょ、冗談ッスよ。本気にするなッス変態メンヘラ!」


なんだその属性モリモリ野郎は。


「人をからかうからそうなるんだろ。」


そうしていると、頭に手刀が直撃する。


「人の後輩を何口説いてるんだ霧道。終わったなら基礎訓練に戻れ。」


そもそも誤解だし、そうだとしても頭を叩くことはないだろうが、未婚者。

何故かもう1度手刀を喰らい大人しく基礎訓練に戻る。


◇◆◇


30分後に倉谷先生が全員に集合を掛ける。


「今日は、わざわざ講師をしてくれた時永隊員に拍手を。」


パチパチ


「どうだったお前ら自分でも気付かなかった課題というのが、現役隊員のアドバイスで知ることができただろう。」

「ウチがしてあげたアドバイスは3つだけど、まだまだ課題はあると思うッス。今後の訓練の際には、思考を止めることなく、常に意味を探して行うことが重要ッス。覚えておくように。」


俺のアドバイスは4つだったぞ。


今日の特別授業は、貴重な経験だ。

客観的な意見は他人だからこそ気付けるものだ。

ましてや、現役隊員の意見は簡単にはもらえないだろう。


学園生活から1ヶ月もたった。これからどんどんランク争いが激化していくだろう。

俺はこのスタート地点から最強になれることを証明してやる。

俺が、俺自身が自由であるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る