第011話 自分のことを知るのは難しい

初の休みの後から本格的に始まった授業は意外普通のものだった。


月・水は、基礎的で実践を想定した身体を動かす訓練。

火・木は、普通の高校などでも行われる座学授業。

金は、能力や特防などについて座学授業。


特別なことがない限りは1週間をそのカリキュラムで行われた。


そして、数週間が過ぎた5月中旬頃。その特別な時間がやってきた。

クラスはいつものように賑やかだった。そこに、担任が入ってくる。


「お前ら、静かにしろー。お前らが入学して1ヶ月が経過したわけだが。想像していたより授業が普通で退屈だったんじゃないか?どうだ、今も退屈そうにしている霧道。」


この人本当に俺を恨んでたりしてないよな?

こういう時には必ず俺が注目の的にされる。


「まぁ、そうですね。能力を使用できるのも限られた授業のみですし。」

「そうだろうな。ここまでの授業のカリキュラムが何故このようになっているか、理解できていない者も多い。」


本来の目的は戦力の向上だけではないのだろうか。


「もちろん、座学に関してはみんなが想定している通りだが、戦闘訓練に関しては他の狙いもある。そうですね。」


倉谷先生が廊下のほうに声を掛ける。

すると、特防の制服を来た女性が入ってきた。


「先生の言う通りッス。始めまして、1年クラス・フォースの皆さん。ウチは、時永 希乃ときなが ののッス。君達が目指している特防の現役隊員をしているッス。」


これが、現役の特防隊員。

制服を着ていることからも本当なんだろうが、もっと厳格な人が多いのかと想定していた。


「えーっと、そうそうこれまでの授業の意味ッスよね。君たちが2日間でこなしている訓練。あれは、特防隊員が1日で済ませる量ッスね。しかも、その後に自ら追加で訓練をする隊員がほとんどッス。」


あの量を1日でだと。

ただでさえ、俺達は1日で疲れている者が多い。

今、目の前にいる彼女もそれをこなしているということだ。


「説明ありがとう。希乃、いや今は時永隊員だったな。」

「やめてほしいッスよー。倉谷先輩に言われると変な感じがするッス。」


どうやら彼女達は学生時代に先輩・後輩の関係だったらしい。


「すまない。それでは本題に移るとしようか。今から行うのはお前らにとって重要となる特別授業だ。今回はなぜ特防隊員が来ているかと言うとだな。お前らは、能力使い方が分かっていない。弱点も多ければ、技もワンパターンしかないので、鍛え直しというわけだ。」


そういうと倉谷先生は、第2訓練場に集まるようにと指示をした。


◇◆◇


「ウチ説明するのは苦手なんでまずは実際に身体を動かすッス。てことで、クラスで1番強いのは誰ッスか?前に出てきてほしいッスよ。」

「俺です。対人戦でもしてくれるんですか?」

「おぉーー。これは結構な戦闘狂が来たッスね。君で解説していくことにするッス。」


京極が前に出ていくが、どうやら時永さんにとっては能力の使い方を説明する教材でしかないらしい。

俺はそのことに対して怒りだすかと思ったが冷静に準備をしている。


「よーし、準備できた見たいッスね。いつでも仕掛けてきて良いッスよ!」


軽くウォーミングアップをしながらいうと同時に油断している時永さんに斬りかかる。


「”瞬間移動テレポート ワープ”」


一瞬にして懐に潜りこむ、技の発動が以前よりも早くなっている気がする。


「反省点その1、攻撃するタイミングが分かりやすいッス。フェイクを混ぜると良いッスね。」


京極の一撃目は、腕を掴まれて防がれる。

身動きが取れない状況なのでワープで逃げると思ったが京極は果敢にも攻める。


「本当に強いか半信半疑だったけどアンタ強いな。”瞬間移動 ゲート”」

「それは嬉しいッスけど、反省点はまだまだあるッスよ。その2、敵の見せる隙に簡単に反応しすぎッス。こんなに大きな隙なのになにも無いのは学生の世界だけッスよ。」


隙だらけの背中に迫る短剣。


ダンッ


しかし、時永さんは能力も使わずに回し蹴りだけでいなす。

武器を失った京極は、もう1度取り戻すために能力を使う必要があるだろうが簡単な話ではないだろう。


「あんた、お節介がすぎるな。アドバイスばかりで攻撃がないのは精一杯だからじゃねーのか?」

「そう思うのは勝手ッスけど本当に君がこのクラス最強ッスか?もしかして、本気じゃないとか?」


この人は明らかにわざと挑発している。

冷静さを保てるかどうかを見ているのだろうな。

でも、今の京極にそれが気付けるほど余裕がないようだ。


「俺はいつだって最強じゃなきゃならないんだよ。どんな手段を使っても。”瞬間移動 カットエンドホール”」


入学当初は見なかった技だ。


空中には複数のゲートが開かれており、時永さんをロックオンして追っている。

何かを感じたのか時永さんは身に付けたグローブを投げる。


シュンッ


その瞬間1つのゲートが閉じ、グローブは木っ端微塵に切り刻まれる。

確かに当れば強いかもしれない。でも、それじゃ勝てないぞ京極。


俺から言わせればお前の反省点その3 自分のことを理解していない、だな。

「なかなか良い技ッスけど反省点その3ッスね。自分自身をよく知っておくべきッス。」


そういうと時永さんは、素早い身のこなしで全てのゲートを避けていく。この量を当たることなく移動できるのは俺じゃできない芸当だな。


京極もまさか全てを避けられることはないだろうと思っていたのか能力のコントロールが乱れる。すぐさま、能力を使おうとする。


「君が能力を発動するまでに掛かる時間をおよそ5秒ッスね。今回はそれが命取りッス。”制限された時計リミットオブクロック スロービジョン”」


結果は京極のリバイブが発動して解説が終了した。


「今からの時間は1人1人の課題なんかをウチが軽く手合わせしながら教えるていくッスから、それまで各自倉谷先生の指示に従うようにッス。」



そこから俺達の特別授業が本格的にスタートした。

京極からスタートしたこともあり、指導はランクが上位のものから行っていくらしい。

ということは、俺が最後ということになるな。それまで基礎訓練かよ。いくらなんでも面倒だ。

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