第008話 上級生なのに子供に見える

剣術部を見学したあと、最初は面倒だと思っていた見学も楽しめた。

興味をもった部活動は、射撃部と化学部、それと工作部だった。

しかし、当たり前の話だが、真剣に部活をしている上級生の姿を見て、申し訳なさが勝ってしまい入部は遠慮することにした。


途中、手芸部で犬飼の姿を見たが手先の器用さを評価され自作の人形を絶賛されていた。

それと道中で京極とも遭遇したのだが、格闘技系の部活が取り合っていたようなので話かけるのは出来なかった。


結構歩いたなー。

普段はこんなに動くことないから肉体的に疲れた。

どのくらい時間が経ったの携帯を取り出し確認することにした。


P.M  1:10


もうそんな時間かよ。

そろそろお腹空いたし昼食の時間にするか。

いつものようにモノクルの案内のもと学食を目指した。


せっかくなので、最初の学食は1番美味しいを食べよう。 モノノが言うには学園で人気なのは超特盛カツ丼らしいが、メニューの中の天ぷら蕎麦も密かな人気があるらしい。


どれにしようか考えながら学園を歩いていると誰かに声を掛けられる。


「歩いてるそこの君。少し話を聞いて欲しい。時間ある?」


聞いたことのない声だなと思いながらも振り返ると誰もいなかった。

悪戯ならやめて欲しいものだ。


「視線が上すぎ。もっと下を見て欲しい。わざとやっているなら怒る。」


下を見ろだと?

何を言っているのだと思いながら言われた通りにすると、小学生、いや多分中学生くらいの女の子がいた。

いくら面倒だからといって、小さい女の子を放っておくのはどうかと思うので少し屈みながら喋りかける。


「どうしたのお嬢ちゃん。この学園生の妹さんかな?俺、新入生だからお兄ちゃんかお姉ちゃんの名前じゃ分からないし職員室行こうか。」

「わかった。そこを動かないで。安心して。私は気絶させるの得意。」


何か能力を発動させようとしているのでなんとか止めようとする。


「待て待て待て。悪かったです。俺が悪かったです。」


星のついたバッチを付けていたし、こんな日に知らない人が話しかけるのは部活の勧誘と考えられるだろう。

つまり、この幼く見える少女は上級生ということになる。


「許すかは考える。まずは、名前教えて。」

「俺のですか?俺は霧道 歩。1年のクラス・フォースです。」

「覚えておく。私、東源 奏香とうげん そうか。4年、クラス・ファースト。」

 

ファーストということは、この目の前の人はかなりの実力をもっているということになる。

 

すごい人に声を掛けられたと感心していると、あることを思い出す。


「あのー、東源先輩。お腹ー空いてませんか。」


とりあえずご飯が食べたいので学食に移動しよう。



結局、昼食は超特盛カツ丼を食べることにしたが、あまりの量の多さだ。

食べ切れるだろうか。


「で、なんで後輩である俺が東源先輩の分まで学食のお金払ってるんですか。」

 

目の前でステーキ定食を食べている東源先輩。

そもそも、そんなのメニューになかっただろう。


「これ、いつ食べても美味しい。だからさっきのこと許す。」


満足そうに食べているのを見て、今度来た時は絶対注文することを決意した。


「それで、先輩は部活の勧誘に来たんじゃないんですか?」

「あ。学食美味しくて忘れてた。ナイス霧道。」


本題を忘れるんじゃないよ。

見学は今日と明日しかないだろ。


「部活は歴史研究部。部活を維持するの3人必要。だから、声かけた。」


歴史研究部?

あまり聞き馴染みのない部活だな。

授業の歴史も得意じゃないし断るか。


「俺、歴史とか得意じゃないですよ。すみませんけど、他の人に声掛けてください。」

「それは難しい。他の新入生にも声掛けた。でも、誰も立ち止まってすらくれない。霧道が勧誘1人目。」

 

みんな初めて東源先輩のことを見れば、迷いこんだ少女にしか見えないのだろう。


「霧道、もしかして部活決まってる?」

 

決まっているかと言えば決まってはいない。

でも、ここは断る為に嘘をつこう。


「そうですねー。非常ーーーに残念ですが決まっていますね。」

「分かった。霧道、担任誰?後日、部活入ったか聞きにいく。」

「あー。どうやら俺部活決まってないみたいですね。」

 

この先輩、かなりの曲者だな。

他の人なら効くであろう技が効かない。


「霧道、部活入部しないの?なんで?」

「ぶっちゃけ、部活って大変じゃないですか。面倒だしやりたくないですよ。」

 

東源先輩は何か納得したように話を続ける。


「そんな霧道に良い取引ある。聞きたい?」

「良い取引ですか?確かに聞きたいかもしれないですね。」

「それじゃあ、素敵で大人な女性の東源先輩。どうか教えてくださいって言って。」

 

やっぱりこの人さっきのこと許してないのではないだろうか。

他の部活見学するか。


「ご馳走様でした。じゃあ、俺は他の部活見学してきますね。」

「待って霧道。わかったさっきのは無しでいい。聞くだけ聞いてほしい。」


アワアワと焦っている表情を見て少し悪いことをしたように思えてきた。


「冗談ですよ。冗談。取引ってどんな内容なんですか。」

「私は、どうしても部員がほしい。でも、霧道部活は面倒。だから、部活来たい時だけ来ればいい。それと、部室に冷蔵庫とふかふかなソファーがある。昼休み使うとすごい快適。」

 

ふむふむ、悪くない提案だな。

来たい時だけでいいなら楽でいいな。

しかも、今日で部活決めてしまえば明日は休みになる特典まで付いてくる。


「そこまで譲歩していただくと断る理由もなくなりますね。俺で良ければ入部しますよ。」

「霧道、実はいいやつ。今から部室まで案内するよ。ちゃんとついてきて。」


◇◆◇


 

学食を美味しく食べ終わり、東源先輩の案内で部室まで移動した。


「着いた。ここが歴史研究部。」


さっき言ってた冷蔵庫とソファーだけでなく、真ん中には広めの机、周りには歴史に関する資料が保管されている本棚やホワイトボードが設置されている。


「そういえば歴史研究部って具体的にはどんなことをしているんですか。いまいちピンとこないのですが。」

「日本史、世界史、芸術や宗教、それから神話や童話なんかも研究する。昔のことならなんでも調べる。温故知新がこの部活のモットー。」

 

思ってたより幅広いことを研究しているんだな。

神話とか童話などは少し男心くすぐられるな。


「昔の部員の中には、歴史から能力の謎を紐解こうとしてた人もいた。結局、最後まで完成はしてないけど。」

 

能力の謎か。

確かに今となっては当たり前のように使用している能力も分からないことが多い。

解明されれば世界的にも注目されるだろうな。


「そういえば、部員って3人必要なんですよね。あと1人どうするんですか?今からもう1度勧誘行きます?」


ガラガラ


 

部室の扉が開かれた。

もしかすると、ちょうど見学者が来たのではないだろうか。


「あ、あのー。歴史研究部ってここであっていますか。」


恐る恐るこちらの様子を伺っている。

どこかで見たことのある顔だな。


「き、霧道くん!?しかも、奥にいる人ってもしかして、あ、あの東源 奏香先輩じゃないですか。」

「霧道、この子と知り合い?」


少し雰囲気が変わっていて分からなかったがこの声を聞いて思い出した。中学の時の同級生だった女子生徒だ。


「確か、 月野 小鳥つきの ことり さんだよね。中学1年の時に同じクラスだったよね。今は眼鏡かけてないんだ。」 

「霧道君がわ、私のことを覚えてくれてるなんて!今日はいい1日かも。」

「霧道、今思い出したって顔してる。」


余計なことを言うな東源先輩。

幸い、考え事をしている月野には聞こえてないらしい。


「そういう東源先輩こそ知り合いみたいですけど。覚えてないんですか?」

「知らない。まず、この子とは初めまして。会った人は忘れない。」


東源先輩と話していると月野が小さな声で俺に説明する。


「霧道君知らないの?幻惑の魔女、東源 奏香先輩。彼女に目を付けられた人は見えないものが見えるようになったりするって噂。」

 

もしかして、部員が集まらないのは、、、。

考えないでおこう。


「安心しろ月野。この先輩、そんな恐ろしい人じゃないぞ。多分な。」

「霧道君がそういうなら、そ、そうなのかな。あの自己紹介が遅れました1年クラス・サード、月野 小鳥です。日本史が好きなので入部希望で来ました。」

「小鳥、良い名前。入部は大歓迎。」


 

こうして俺たちは、部活として成立する3人を確保することができた。

談笑しているなかで月野の誤解も解けたらしいから、今後部活中にギスギスすることもないだろう。

 

そろそろ下校の時間が迫る時に東源先輩が一言。


「そういえば、霧道、小鳥、入部届出さないの?出さないと明日休みならない。」

 

2人で顔を見合わせて急いで職員室に駆け込んだ。

そのあと、慌てて提出したことを注意され下校が遅れたのは言うまでもないだろう。

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