第007話 上級生は大人に見える

「昨日の通り、本日は部活の見学を自由にするように。しっかり入部用紙もっていけよー。先生は職員室にいるから決まったら持ってくるんだぞ。」


どうしたものかな。

昨日少し考えてみたのだが、結局見学をする場所は決めていない。


「それじゃあー私達は決まってるから先に行くけどぉー、霧道君はどうするのー?」


とりあえず最初は誰かと一緒に見学したいな。


「えーっと、そうだな。王馬はどの部活から見学しに行くんだ?」

「拙者は剣術部でござるよ。霧道殿も一緒に見学するでござるか。」

「そうだな。別に見たい部活も決めてないからそうさせてもうよ。」

「じゃあ、2人とはここでお別れだねー。ばいばーい。」


大柏はいつもより軽やかな足並みで教室を後にした。


「拙者達も行くでござるか。それにしても部活の種類が豊富でござるな。」

 

俺達もモノクルを起動して剣術部まで移動した。


昨日の話で盛り上がりながら移動していると、気付けば剣術部の場所まで着いた。


「見学をさせていただきたいでござる。1年クラス・フォースの王馬 銀丸と申すでござる。」


ザワザワ


王馬が挨拶をした瞬間に周りの剣術部員がざわつきだす。

やはり、俺達フォースの生徒は嫌悪されているのだろうか。


少し会話が聞こえる。


「本物の侍かな?」

「ござるって言ってたよ。本物かも。」

「だよね、だよね。拙者は確定でしょ。」


王馬が個性的な生徒であることをすっかり忘れていた。

安心していると部長らしき生徒がこちらにくる。


「こら、君達こそこそ話をしちゃいけないですよ。新入生に失礼じゃないですか。

部員の者達が失礼したね。僕は5年クラス・セカンドの新庄 悟しんじょう さとるです。よろしくね。

そこでクラスフォースだからと心配した様子で伺っている君も見学者かな。」


やべっ!

そこまで顔に出てたのか。


「霧道 歩です。クラスは王馬と同じフォースです。見学しに来ました。」

「自己紹介ありがとう。それと霧道君の心配は問題ないと思うよ。昔までは確かにクラス差別があったけど、今は生徒会長の影響でそこまで表立って陰湿なことはされないよ。それにそんなことがあったら僕達も力になるよ。」

 

生徒会長の影響か。

どうやら生徒会長とフォースには深い関わりがあるようだ。

それにしても、この部活は暖かい雰囲気なんだな。


「それではようこそ剣術部へ。君達が最初の見学者だよ。誰も来ないのではないかと思っていたから嬉しいね。見学の内容なんだけど、僕がそういうの慣れてなくてね。基本的には、普段の稽古の様子を見ながら質問等は受け付ける感じにしようと思っているよ。」

「霧道殿やっぱり上級生はすごいでござるな。年齢が大きくは変わらないのに大人っぽく見えるでござる。」


数分間、普段の稽古を見せてもらった。

見る限り部長の新庄先輩は他の生徒よりも頭ひとつ抜けて強いようだな。


一旦、稽古の休憩に入るらしく。新庄先輩が話しを振ってくれる。


「どうだい2人とも。稽古ばっかりで見学の2人に構えてなくてごめんね。」


こちらに気を使ってそう言ったのだろうが、見ているだけでも案外面白いものだ。

王馬なんて目をキラキラ輝かせて少年のような表情をしている。


「それじゃ質問してもいいですか。」

「構わないよ。どんな質問でもしてよ。」

「名前から想像していたんですが、やっぱり剣道部とは違うんですね。」

 

感心した表情で質問に答えてくれる。


「良い質問だ、霧道君。なぜ、僕達の部活が剣術部なのかと言うとね。学園や特防で行う試合を想定したルールで稽古を行なっているから少し名前が違うんだよ。実践形式だし、この経験は絶対近い将来役に立つと思うね。」

 

実践を想定した稽古になっているのか。

確かに、この部活で戦力の強化が見込めるのは間違いないだろうな。


そんな話をしていると新庄先輩が何か思いついたようだ。


「そうだ!見ているだけじゃつまらないだろう。ハンデもつけてあげるから、どちらか僕と試合形式の稽古をしてみないかい。」

 

新庄先輩との試合形式の稽古か。

上級生の実力を見れるのはありがたいな。


「いいのでござるか!それなら拙者やらせていただきたいでござる!」

 

稽古まで実際に体験させてもらえるのは王馬にとって入部の良い判断材料になるだろう。


「よし決まりだね。それじゃ準備しようか。」


 

準備も終わり2人はフィールドの真ん中に集まる。


「どうやらリバイブも身につけてるみたいだし説明はいらないね。ハンデはどうしようかなー。」

  

考える素振りを見せながらその辺をウロウロしている。


「それじゃこうしよう。僕は技の使用を禁止するのと、この場から動くのも禁止にしようか。」

 

ありえない。

いくら実力に差があるとはいえ、そこまでのハンデをつけてしまえば王馬の方が圧倒的に有利に決まっている。

しかし、自らそのハンデを申し出るということは相当な自信の表れなのだろう。

 

王馬も舐められているとは感じていないようだ。


「わかったでござる。今もっている全力でどこまで届くか試させていただくでござる。」

 

両者の合意が得られたタイミングで審判をする部員が合図をかける。


「それじゃ始めるね。試合開始!」


新庄先輩はその場から動けないので王馬はいきなり大技を繰り広げる。


「最初から奥義でいかせてもらうでござる。”竜王の時間りゅうおうのじかん 上級 飛翔一撃ひしょういちげき”」


大柏戦で使っていた技か。

この一撃は技なしでは防ぎきれないだろ。


「へぇー、話している雰囲気と違って随分荒々しい技だね。でも、それじゃ僕には遠いよ。」


新庄先輩はハンデを一切感じさせることなく、戸惑いや焦りもない余裕さで王馬を無力化する。

そして、訓練用の剣を王馬に向け、


「はい、これで僕の勝ちだね。」

 

これがクラス・セカンドで最上級生の実力。

それは、上が見えないほどのあまりに大きな壁だった。


「こ、これが上級生の力でござるか。師匠、これがもっと世界を知るということでござるね。」

 

いろいろ見学したいと言っていた王馬だったが恐らく部活は決まったようだな。


「王馬君だったね。君、新入生にしては才能あると思うよ!ぜひ、うちの部に入部してほしいね。もちろん、そこの君もね。」


俺は返事に困り、とりあえず苦笑いで返した。


しばらくすると見学者の数も増えてきた。

俺は、剣術部に入らないのでこれ以上長居するのも良くないと思い、王馬に一言声を掛ける。


「王馬、他の部活を見学したいって言ってたよな。俺は移動するけど、お前はどうする。」

「霧道殿すまないでござるが、拙者はもう少しここで見学させてもらうでござる。」

 

真剣な眼差しで見学している王馬の邪魔をするのは申し訳ないので静かにその場を離れた。


なかなか面白いものが見れたな。全く部活には興味なかったがいろいろ見学するのも悪くないな。

そう思い、どんな部活があるのか見るためにモノクルを起動して学園内を歩き出した。

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