第001話 入学式での校長の話は大体長い

今日は、白ヶ峰しろがみね学園の入学式である。


俺、霧道きりみち あゆむは、試験を最下位ながらもなんとか入学することができた。


「やっぱり国が創設した学校なだけあってすげー大きな敷地だな。」


これだけ広ければマップを開かなければ、当然迷子になってしまうだろうな。

俺はポケットから携帯を取りだして学校から配布された学園生活支援アプリ モノクル を起動した。


[学園生活支援アプリ モノクル 起動します]


「ご利用いただきありがとうございます霧道様。私は、AI学園マスコットのモノノと申します。」

 

AIを搭載しているのか。

技術力まで高いのはこの学園のすごさを物語っているな。それにしても、猫とも犬とも言えないこのキャラクターは何をモチーフにしているのだろうか。


「本日は入学式があり霧道様は新入生でございますので、この時間のご利用は学園マップを表示すればよろしいでしょうか?」

 

そこまで提案してくれるのか。

しかも、ここまでピンポイントに提案してくれるなら今後の学園生活に必要不可欠になるのは間違いないだろうな。


「それで頼む。たしか場所は、体育館までだからよろしく。」

「ナビゲーションを開始します。」

 

それにしても広いな。

学生寮や娯楽施設なんかも揃ってるし、ここだけで生活するのも難しくないな。長期休み中実家に帰るのも躊躇いそうなぐらい快適そうだ。


しばらく歩いていると、おそらく同学年であろうピンク髪の少女が道端にしゃがみこんでいる。

ここで話しかけられても面倒だしなるべく見ていない振りをしながら通りすぎるか。


しかし、なんでこんなところでしゃがみこんでいるのだろうかと思い、一瞬少女の方を向くと彼女はこちらの方を見ていた。


「ねぇー。もしかして、同じ新入生ー?おーい。」


すごくおっとりとした喋り方で話しかけてくる。

一瞬歩みを止めたが体調は悪そうな感じでもないし、面倒な事になる前にすぐさまここから離れよう。


「疲れたからぁー。むぅーのこと体育館まで連れてってー。」

 

可愛い少女に頼まれたら普通ここで案内するところだろうが、俺はそこまで親切ではないぞ。

最低限の情報だけ渡して逃げるか。


「学園からアプリが配布されているだろ。それを使えばAIが優秀だから俺よりも完璧に案内してくれるぞ。じゃあな。」

「あぁー。待ってよー、ここで置いていったら、むぅー大きな声で叫んじゃうよー。」

 

そう言いながら彼女は、俺の腕を掴んできた。

こんな状況じゃなければ喜ばしいのかもしれないが、先を急ぎたいので腕を振り払うことにした。

 

と思ったのだが、この女かなり力が強いぞ。


「お前のどこにそんな力隠しもってんだよ!元気そうだし1人で行けよ!」

「お前じゃないもん。むぅーだもん。これはむぅーの能力アビリティの力なんだよー振り解けないでしょー。」

「そんなことに能力を使ってんじゃねー。てか、なんで1人で行かないんだよ。」

「むぅーの能力はエネルギーをたくさん使っちゃうから、なるべく節約したいのー。だから、なんも考えずについていくだけがいいのー。」

  

こいつ、どんだけ面倒くさがりなんだよ。

これ以上は連れていく以外の選択肢しかなさそうだな。


無言の時間があるのは気まずいので少し話しかけてみることにした。


「俺じゃなくてもよかっただろ。俺の前に何人か通った奴らがいただろ?」

「それはね「それは拙者達が同じクラス・フォースだからでござるよ!!!」

 

いきなり話の間に入ってきたのは、侍のような格好をした男だった。

誰だよこいつ。


「2人して誰だよって顔はへこむのでやめてほしいでござる。拙者の名は、王馬 銀丸おうま  ぎんまると申すでござる。」

「むぅーの名前は、大柏 夢衣おおかし むいだよぉー。よろしくねー。」

 

そういえば、自己紹介すらするの忘れてた。


「俺は、霧道 歩きりみち あゆむだ。それより、なんで俺たちが同じクラスってわかるんだよ。」

「それは「制服についてるバッチの星の数だよぉー。」

 

先のお返しと言わんばかりに大柏は被せて説明した。

子供かお前は。


「お、怒ってるでござるのか。」

「まぁ、大丈夫だろ。てか、このバッチそういう意味があったのかよ。」

 

制服ではなく袴を着ている王馬でさえ、しっかりバッチはついている。


「クラスは、下からフォース、サード、セカンド、ファーストに分かれているでござる。そして、入学当時に決められて5年間変わることはないでござる。」

「それじゃ、同じクラスがいい説明にならないだろ。」

「このクラス分けにはある程度の法則があるのでござる。強い力をもっていて素行が良いものから順に上のクラス振り分けられるのでござるよ。つまり、拙者達のクラスは最弱のクラスとして一部生徒からは蔑まれる対象なのでござる。」

「王馬はそういうの詳しいんだな。」

 

素直に感心していると横から大柏が、


「どちらかというとぉー、霧道君が知らなさすぎかもー。」

 

核心をつかれてしまい、少しショックを受けた。

俺たちのクラスが最弱なら何を希望にこの学園に通うんだ。


「なぁ、最弱ならここ通う意味あるのか。」

「自分のことでもあるのにヒドいことを聞くでござるな。確かにフォースの人達は、能力特殊防衛部隊、通称 特防 に入ったことがあるのは少ないでござるし、学園内ランク5位に入る 5つの希望ファイブホープ にも入ったことがあるとはあまり聞かないでござる。でも、それでも可能性が0じゃないなら頑張るしかないでござるな。」

「王馬君意外といいこというねぇー。」

「全く同感だ。」

「意外は余計でござるー。」

 

少しこの学園の情報交換をしながら3人で体育館に向かった。


◇◆◇


程なくして入学式は始まった。

やっぱり学園長の話って長いよな。眠くなりそうだな。


「ーーーーーこれで私からは以上とさせていただく。」


やっと終わったのか半分以上は頭に入ってこなかったな。


「続いては、生徒会長から新入生へ。」


生徒会長か。さっきの情報だと学園ランク1位の男だと聞いたな。この学園最強か興味があるな。


しかし、壇上には女子生徒が上がっていた。


「本日は、生徒会長が不在のため副生徒会長である森野 瑠美もりの るみが代理をさせていただく。」


森野か。


たしか先祖に最初の能力発症者がいて、その実力もほとんどが特防に入隊しているエリートの家系だったはず。

その人でさえランク2位なのか、厳しい世界だこの学園は。


「新入生の皆様、入学おめでとう。私の言いたいことはほとんど学園長がおっしゃていたので省略させていただく。この学園は、国家を担う生徒を育成する機関であり私達はその自覚を持つ必要がある。国家専属能力特殊防衛部隊では、年齢や肩書きなど関係ない。強い者だけが必要とされている。

それは、この学園でも同じだ。学年やクラスなど関係ない。自分自身耳が痛いがそればかりを気にしていると足元をすくわれることになる。私たち上級生はいつでも君たちの挑戦を待っているぞ。」


流石、副生徒会長だな迫力と余裕が違うな。

周りの新入生のほとんどがその副会長の言葉を静かに熱い闘志を宿しながら聴いていた。

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