怠惰な俺が最強になる証明

風野唄

第000話 恐ろしいあいつに要注意

2030年12月下旬 


私はホームビデオを撮影するためにカメラを起動した。


「今日は家族で山にキャンプをしにきました。外は寒くて昼でも薄暗いので不思議な感じです。」

「お父さんビデオは後でいいからこっち手伝ってよ。」


撮影を始めたばかりだが娘に呼ばれてしまったのでテントを建てに行く。


「あなた、ここ少し怖くない。なんか幽霊とかでてきそう。」


嫁は、心霊系が苦手で怖がりなので少し帰りたそうにしている。

私も少し怖かったが安心させるため、強がって見せた。


「そんなに怖がることないって。テント準備してれば気も紛れるさ。」

「お父さーん。まだー、1人じゃ準備できないよ。」

「ほら、真穂も呼んでるし準備しに行こう。」

 

キャンプは頻繁にしている訳ではないのでテントの設営には少し時間が掛かった。思ってた通りには進めることができなかったが、娘も嫁も夕食の話で盛り上がりながら楽しそうにしていたので幸せな一時を過ごしていた。


テントも建てたのでホームビデオの撮影を再開した。


「そろそろ、日も沈み始めたし晩飯の準備でもしようと思います。今日のBBQのために良い肉を奮発して購入しました。」

「やっとご飯だ。お肉めっちゃ美味しそうー!お母さん早く準備してよ。」

「楽しみなのはいいことだけど、真穂あなたも手伝うのよ。」


女性陣は、わいわいと喋りながらも手際よく食材の下準備を始めた。

私は、黙々と火をつけた。木炭をあらかじめ買っていたので、苦戦することもなく早めにつけることができた。

少しすると娘が過剰に疲れた表情を見せて戻ってきた。


「食材切ったから運ぶのはお父さんがしてね。」


火をつけるしかしていなかったので少し娘に甘い気もしたが言われた通りにした。

日が沈みきったので辺りはより一層暗く不気味な雰囲気を出しているが、美味しい食事と暖かい火の光のおかげなのか少しも気にはならなかった。


「星綺麗だな。普段の生活では観られない特別感がいいよな。」


ご飯も食べ終わり、星を観ながらのんびりとした一時を過ごすことができた。


ガサッガサガサ 


近くの方から何かが動く不気味な音。夜の暗い山なので不安と緊張が伝わる。


「あなた。今動いた音聞こえたよね。や、やっぱりいるのかな幽霊。」


嫁が始めに口を開いた。余裕のないようすで身体を震えさせて怯えている。

娘は喋りこそしなかったが、すぐさまこちらに駆け寄り辺りの様子を伺っていた。


何かかが近く音は次第に大きくなり、私たちの不安も大きくなっていく。


「安心しろ。なんかあった私がなんとかするから。」


怖がる2人をなんとか落ち着かせようと声を掛けたと同時に、それは姿を表して大きな唸り声をあげる。


 グゥオオオォーーー!!!


突如現れた大熊の黒の毛皮が夜の闇に溶け込み、爪と牙は一瞬見ただけでわかるほど鋭く尖っている。

私は冷静さを失いながらもここから逃げるように指示を出した。


「ゆっくり逃げよう。焦らずに背中を向けないようにすれば大丈夫なはず。」


獲物を捕らえたようにこちらを見つめるあいつに、この対処が適切かどうか不安で仕方ない。

しかし、私が犠牲になっても2人の命を救わなければいけない。


山を少し下りたところにある駐車場に車を停めているのでそこまでたどり着きたい。


一歩、また一歩と進みだす。


どこかであいつが山の奥へ戻らないだろうか。そんなことを願っていたが、願い虚しくあいつがこちらに向かい走り出してきた。


「駐車場まで逃げろ!!!」


私は人生で一番の大声を出した。このまま逃げても3人全員が助かることはないだろう。ならば私、少しでも数十秒でも時間を稼ぎ、家族を逃すほかないだろう。


私は恐ろしく速いスピードでこちらに向かってくる獣の前に立ち、目一杯両手を広げた。

娘は、泣きながら私を呼んでいるが、嫁が私の意思を汲み取り娘を連れていく。


それを確認した瞬間目の前にはあいつがいた。


グゥオオオオオォーーーー!!!


私は一瞬にして吹き飛ばされてしまう。私が時間を稼がなければならないのに数秒も耐えることができなかった。

あいつは既に2人に追いつき今にも襲い掛かろうとしていた。


やめろ。やめてくれ。私の大切な家族に手を出すな。残った気力で叫んだ。


「やめろぉーーーーーーー!!!!」


ガキィーーーン


その音ともに熊は振りかざした腕を弾かれて体勢を崩していた。あいつと2人の間には青色の半透明の何かが見える。

それを何度か壊そうとしているが、獣の力をもってしても壊すことができないらしい。諦めたらしく熊は山の奥へ帰って行く様子が見えた。それを見て私は安心して目を閉じた。


◇◆◇

「彼は、その後病院に緊急搬送され一命を取り留めた。そして、不思議な力を記録したホームビデオを動画サイトに投稿した結果、他にも似たような現象が発生していることが発覚した。我々に取って必要不可欠とも言えるその不思議な力が、現在では 能力アビリティという名で知られている。ちなみに熊に襲われた男性が得た能力は、家族の守護者ファミリーガーディアンというもので、家族と認めたものを守る防衛壁を生み出すことのできるものだったことが明らかになった。


能力が発見された当初、世界各国がそれらを使い戦争の道具として扱うことで全世界で被害や亀裂を生み出してきた。それを重大に受け止め世界会議では、以上の3つの制約を取り決め均衡を保つこととした。


1. 戦争の廃止に伴い、国同士の衝突は能力を持った者が予め決められたルールの下試合形式で行う。

2.試合は両国同意の上でのみ行われ、事前に申請したもののみを正式に認める。

3.試合を行う者については、国が指定した専門課程を履修しているもののみとする。


である。これにより日本は新たに国家専属能力特殊防衛部隊を設立し、いくつかの指定校を設けた。


我が白ヶ峰しろがみね学園もそのうちの一つである。君達は、国家の未来を担う若者だ。この学校に入学した以上は、その役目を全うしてもらう義務がある。そのことを肝に命じておくように。


それでは、授業の続きを・・・」


キーーンコーーーンカーーンコーーーン


「キリがいいな。よし、ここで授業を終了とする。今日はかなり基礎的なことを学習したが、明日以降は本格的に学習していくから遅れることのないように。以上、号令を。」


やっと授業終わった。やぱっり授業はめんどくさい。

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