第四章「サラサーテの盤」

第四章「サラサーテの盤」1

「うーん、道具に異能に魔術、オールスターのフルコースって感じだね」

「楽しそうに言うなよ」

 帰り道、ファーストフード店でハンバーガーを賀茂に奢ってもらい、人気のない夜の街を歩いていた。

「いやいや、こういうケースに当たることは滅多にないからね。儲けものといえば儲けものかな。仕事は仕事」

「他人事みたいな」

「他人事だよ、僕はね」

「それもそうか」

 芹菜の失踪にあえて構う必要もないのだ。

「まあ、これですべてが終わったら僕にも益するものが出てきたわけだ。そういう意味では無駄ではない」

「それならいいけど」

「それはともかくとして、彼には彼で気をつけておいた方がいいかもね」

 賀茂が指で唇を触る。

「え、なんで?」

「僕が言うのもなんだけど、魔術師の家に保管されている道具だ。時間を経ているもの、つまりは価値が高いものである可能性が高い。そんなものをそう易々と他人に譲るなんてことは普通はしないのさ。大抵の魔術師は嘘つきで利己的だからね」

「いや、譲ってくれと言ったのはあんたじゃないか」

「それはそうだけど、金銭で替えられるものでもないかもしれないし、相当吹っかけてくるとしても、うーん、まあ、それはあとで確認すればいいか」

 言い出した賀茂が加耶に即答されたのが一番不思議らしい。

「まあ、これでちょっとやる気が出てきたかな」

「捜し物は?」

「うん?」

「付き合ってくれるのは正直ありがたいけれど、それで、あんたは何を探しているんだ? まだその話をしていない」

「ああ、そうだったそうだった。うーん、説明が難しい」

「今までより難しい設定があるのかよ」

「設定とか言わない」

 駅に向かっている道すがら、賀茂が路地を指さす。

「こっちに行こう。近道だから」

「うん」

 二人が大きな道を折れて、路地に入る。電灯はないが、月の明かりがほのかに道を照らしている。

「それで?」

「もうそれは忘れても良いかもしれないなあ。砂漠でダイヤを探すような話だし、あんまり一度に多くを求めると全部逃がす可能性も高くなるし」

「そう、か……」

 なんだか要領を得ない言い方に、優斗も曖昧に返す。

「まあ、目先のことを、おっと」

 賀茂が胸を抑えた。

「ちょっと電話」

 賀茂が足を止め、胸から携帯電話を取りだして耳に当てた。

「ああ、若菜か」

 少し明るい声で賀茂は電話の相手に言うと、優斗に向けて手のひらを向けた。少し待ってくれという合図だろう。それに従うように、優斗が距離を取る。賀茂も今来た道を戻っていった。

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