第18話 成長した我が子
アイリスが知る限り、アンデッドの打倒には、三通りの方法がある。
一つ目は、回復魔法「
アンデッドは、人間であれば体の損傷を治療してくれる回復魔法で、逆にダメージを受けてしまう。
どうやら白魔法が死霊秘術を無効化するらしく、死霊秘術で支えられているアンデッドの命は、白魔法を受けると完全消滅し死亡してしまうのだ。
ただし、完全消滅させるには、全身を粉々にするほど念入りに、白魔法で徹底的に潰す意識が重要だ。一撃でも運が良ければ死ぬことはあるが、一部を残せば時間経過で蘇ってしまうこともある。
しかも、敵のアンデッドが強力なほど、簡単には攻撃を喰らってくれない。
二つ目は、回復に相当程度の時間を要するほど大ダメージを与えること。
この場合、完全消滅させることはできない。
だが、攻撃の威力が高ければ高いほど、その分、長い期間アンデッドを行動不能にすることが可能だ。
エリナが喰らった雷撃や、アイリスが放った火炎系呪文などはアンデッドに特に有効である。
さらには、アンデッドに効果がある武具などを使用した場合、うまくいけば百年単位で眠らせることも可能だ、とアイリスは習った記憶があった。
三つ目は、「コア」を破壊すること。
ネクロマンサーの死霊秘術でアンデッド化した者の「コア」は、言わば術者であるネクロマンサー自身であると言える。自分をアンデッド化したご主人様が死ねば、アンデッドも死亡するというわけだ。
しかし、この世には、自らをアンデッド化する魔術師が存在する。
それが、アンデッドの王・リルルに代表される「
リッチは、主人となるネクロマンサーがいない反面、自らの生命の源を、「自らの体以外のどこか」に移す必要が生じる。
すなわち、リッチは体外に移した「コア」を破壊されると完全消滅することになる。
コアは基本的に物品であるため、自ら動いたり身を護ったりすることはできない。
リッチを倒すには、「何が」コアで、「どこにあるか」が重要なのだ。
これらのことを総括すると、普通のアンデッドであろうがリッチであろうが、「白魔法で叩き潰す」という手段が、全てのアンデッドに有効な滅殺手段となっている。
だが、今現在、アンデッドとなったリュカとアイリスは白魔法が使えない。
白魔法を使う戦い方をするなら、リュカやアイリスがカーティスに大打撃を与えて行動不能にし、レオか、もしくはアステカの聖騎士たちがとどめを刺すしかないだろう。
が────。
「くっくっく。お前らがこの僕を倒すことなど、できるはずがないのさ!」
首のないカーティスの体が動き、右手の人差し指がレオへと向けられる。
まるで湯気のように立ち昇った紫色の魔素オーラは、直後に風へと成り変わってレオを目指して飛んでいく。
レオとカーティスの直線上をカバーするリュカは異常なほどに早く反応し、疾風の如き剣撃で紫の風をかき消した。
峡谷から雪崩れ込んでくる大量のアンデッドは、カーティスを避けるように左右に分かれ、カーティスのいる場所を越えてとうとうリュカへと纏わりついてくる。
カーティスは勝利を確信した笑みを浮かべて叫んだ。
「これで終わりだ、クズどもが!」
リュカは、レオを狙い続けるカーティスの紫風を、何度も剣で弾き返す。
同時に、二百を超える峡谷側のアンデッドを、一人で食い止めなければならなくなった。
アイリスは、周囲を囲むアンデッドどもを火炎魔法で焼き払って、レオとエリナを護る。
カーターとアレンたちは、森から出てくる大量のアンデッドを薙ぎ倒すので精一杯だ。
敵の数が多すぎる。白魔法によってカーティスを倒すどころか、このままでは、いくらも持たないことは明白だった。
「お父さん! 僕のことは気にしないで。自分の身くらい、自分で護れる!!」
一瞬だけ交錯する
リュカは、覚悟を決めたようにカーティスへと向き直った。
カーティスは、薄ら笑いを浮かべてリュカへと忠告する。
「くっくっ。いいのかな。後悔することになる」
「レオっっっ!!」
アイリスは、悲痛な声で叫んだ。
あの紫の風は、アイリスの出す炎をいとも簡単に防いだのだ。
その紫風で攻撃されれば、アイリスにはもうレオを護る術がない。
せめて我が身を盾にして、少しでもレオを護らなければ──
そう思った時には、すでに我が子の詠唱が聞こえていた。
「魔力の深淵より生まれし結界よ、我が身を包む鉄壁の守護となれ──
詠唱とともにレオの足元へ現れる美しい魔法陣は、いつものように紅蓮に光り輝いた。
カーティスは、両手の全ての指を裂けんばかりに開いて頭上高くにあげ、引っ掻くような動作で振り下ろす。
今までで一番の紫風が吹き荒れた。
カーティスの放つ
が、息を呑んだアイリスの前の前で、キャイン、キャインと高い音を鳴らして、紫の色が消えていく。
レオが作る魔法陣の領域内に侵入しようとした紫の風は、魔法陣の縁から立ち昇る真紅のプロテクションによって、全て弾き返された。
リュカは口元を緩め、成長した我が子を誇らしげに見つめる。
「バカな……。くそっ、や、奴は一体……」
「お前程度では足元にも及ばない、稀代の大魔導士さ。俺たちは、お前らの親玉であるリルルを消滅させるために来た刺客だ、カーティス」
リュカのセリフに、カーティスは目を見開いて叫んだ。
「あり得ない! リルル閣下が敗れるなど、決してあり得ない!! そうか。お前たち、閣下を狙う勇者の仲間か!!! この場で殺す。何をおいても、絶対に、この場で殺す!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます