【英雄採用担当着任編】第10話 拘束
魔人ゼットフォーが芳賀の存在に気がついたのか視線を向けた。
体から汗が吹き出しそうになる。それは重圧から来るものではなく、興奮から生じているものだった。永遠のように感じる時間の中、芳賀はゆっくりと足を進める。
この10年間、1日たりとも忘れた事はない。己の大切な家族を奪った存在を。
朝めを醒ます度に思い出す。あの日の事を。殺してやりたい。心の底からそう思う。
だが芳賀はゼットフォーを直ぐに殺めるつもりはない。結果的にそうなるかもしれないが。
一歩また一歩と近づいていく。
魔人よ、目の前に手ぶらの獲物がいるぞ。武器も持たない愚か者がいるぞ。
どうだ、襲えばいいじゃないか。四肢をもぐか?首から上を跳ねるか?どんな手段を取るべきか考えろ。さぁ、こっちを見ろ。
そんな狂気に囚われた芳賀は次の瞬間、ゼットフォーの思いがけない行動に怒りで満たされることになる。
「———おい、ふざけるなよ。」
ゼットフォーは見向くどころか芳賀に背を向けその場を離れようとしたのだった。
まるで道端に落ちている石頃程度の興味しかないような様子だった。
「———けんなよ。ふざけんなよ!おい!!!どこいくんだよ!!人間はお前らにとっての遊び甲斐のあるオモチャだろ!?子供だろうがなんだろうが容赦無く殺す癖に慈悲深いフリしてんじゃねえよ!!どうした!?向かってこいよ!!!逃げんじゃねえよ!俺の家族を返せよ!!!俺の顔を忘れたのか?ガキだったとしても面影ぐらいあんだろ!」
当然ながらゼットフォーには人間の言葉は届かない。
ただの人間が何かを訴えるように喚いているように見えるだけだろう。
本当に都合がいい存在だ。命乞いも、恨み節も、悲しみも、憎しみも魔族の中では等記号でしかないのだから。
怒りで爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。
どんなに叫んでもゼットフォーは振り向かない。だがもういい。好都合だ。
「——ナビ。」
「は、はい起動します」
芳賀が右手の中指につけられた指輪に触れる。
すると指輪は青白く発光し、芳賀の指先から解き放たれるように宙に浮び拡大する。
まるで巨大な天使の輪のように30mほどの大きさに達した。神々しい情景だった。本当に天使が或いは神が光輪したかのような。
ゼットフォーも背後に違和感を感じたのか、歩みを止め振り返る。
「八英雄サマ監修の超特注品だ。この星最高レベルの拘束具ゆっくり味わえよ!!!」
次の瞬間、光輪となった指輪は超高速でゼットフォーの頭上まで到達する。
思わずゼットフォーも上空に意識を奪われ身構える。
だが、もう遅かった。光輪はゼットフォーの胴体付近まで高度を下げると同時に収束する。ゼットフォーは縛り上げられるように身動きが取れなくなった。
ゼットフォーが足掻く。だが、足掻けば足掻くほど拘束は強まり、そして雷撃がゼットフォーの身を焦がすように走る。
「さぁ苦しめよ。まだまだ序の口だぜ」
雷撃は激痛のはずだがゼットフォーは決して声は出さない。
その態度が心底気に入らなかった。
だがまぁいい、1番の関門はクリアされたのだ。
正直に言って成功確率は6割程度だった。拘束機会は一度きり。それを逃せば使い物にならない。最も懸念の残る段階をクリアしたことで、芳賀は少し安堵する。
「フェーズ2だ。お前の体の隅々まで調べ尽くしてやる」
芳賀はそう言って屈むと足首に巻きつけてあったナイフを取り出す。
柄についたボタンを押すと、刃の周りが拘束回転を始めた。
「特殊な合金で精製した刃を使った電動ノコギリだよ。竜の鱗なんて紙を挟みで切るようなものさ。お前らの世界にもこういうのあるのか?初めて使う相手はお前って決めてたんだ。ちゃんと新品だ、感謝しろよ。」
優しさの欠片もない憎悪と悪意と喜びに実た表情で芳賀はその刃を振り下ろした。
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