【英雄採用担当着任編】第1話 嘘
「・・・若いからって情報感度高いと思っちゃだめだな。」
「いや、ほんとすみません・・・、」
真夏の日差しがクーラーに宣戦布告するよう容赦無く照りつける中、
芳賀
額に汗を滲ませた中年刑事が呆れたようなため息をつく。汗がぽたりと滴り、手元の調書の文字を滲ませた。
「・・・君さぁ、なんというかその・・・なんで怪しいと思わないの?ほら、世間でも割と認知されてる犯罪でしょ?こんな古典的な詐欺に引っかかるなんて、よっぽどの世間知らずというかなんというか」
「いや・・・ほんと・・・ぐうの音もでないです・・・はい。」
刑事は被害者である芳賀を慰める気はないらしい。面倒な仕事を増やすなと言わんばかりの態度だ。
「それにさ、両親のふりしてたんでしょ、犯人。でも君両親はもういないんだよね?
大変な人生歩んでそうなのは感心するけど、そこでおかしいと思うでしょ普通。」
「今思えば・・・めちゃくちゃおかしい話です・・・はい。」
「そこからどう転じれば50万も振り込む流れになるわけ?というか50万の価値わかってる?俺の給与で言うと・・・。あぁ虚しくなってきた」
黄昏れるように遠くを見つめる刑事に対し申し訳なさそうに芳賀は事情を説明した。
説明を聞き終えるや否や刑事はとてつもなく深いため息(体感でおよそ10秒ほどだろうか)をついた。
「警察30年やってるけどさ、パニックになって両親の振りをする同級生なんて見たことないよ。ツチノコレベルの出現率だよ。弁護士費用立て替えてくれって言ってそれを鵜呑みにするなんで馬鹿というか間抜けというか阿呆というか頓珍漢というか」
その後も延々と説教をされながら、1時間ほど拘束された後、ようやく芳賀は自由の身になった。
「取り敢えず今日は帰っていいけど・・・ホラ、とっときな」
そういうと刑事はポケットからくしゃくしゃになった千円札を取り出し、芳賀に握らせた。
「一人暮らして50万を失うのは中々しんどいだろ?俺が同じ目にあったら、妻になんて言われるかわかったもんじゃねぇ。せめて今日はこれでしのげ。牛丼ぐらいは食えるだろ?」
「あ、いやそんな悪いです・・・それに僕お金は」
「おい、あんまり恥をかかせるんじゃねえぞ。刑事の恩は黙って受け取っておけ。」
半ば強引にカッコつけた刑事は芳賀を見送ると執務室へ戻った。
「やれやれ、今日の昼は味噌汁だけだな。」
刑事は調書をスキャンしデータベースに取り込むと、よっこらせと重い腰をあげインスタントコーヒを慣れた手つきで用意する。再び席に戻るとPCには《error》が表示されていた。
「ったく、暑さでやられちまったか?・・・ん?写真と名前が一致しない?」
エラーの原因を探るため、全市民の顔写真と氏名、住所などの個人情報が登録されているデータベースを調べ直す。原因はすぐに特定できた。
「芳賀 蓮は偽名だな・・・コイツは確か・・・」
芳賀と名乗る青年の写真に記載された本当の名を見て、刑事はコーヒーを一気に飲み干した。
「長いこと見ないと思ったら、世の中わからんなぁ。あぁくそ千円返して貰えばよかった」
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