妹救済編〜青い鳥編
14話 妹のファーストステップ
「ネグロ。ひとつ聞きたいんだけど」
未来の状況改善に向けた意見交換の場。
めずらしく青い鳥、バラッドの応答すらない思索にふける傍らで、ブランが向かいを見る。
「はい、私が答えられることでしたら
ブランの呼びかけに深々と叩頭礼で応えるネグロの姿はまだ年若いものの、成長を進めれば偉丈夫となることはまちがいないだろう。
「ビアンに結婚の約束とかってされたことはある?」
「はい。まだ彼女が四の年を数えたくらいの幼い時分では御座いましたが。」
とはいえ幼い頃の約束です。
かの可憐な姫君が覚えていらっしゃるとも思いませんが。
淡々とした返答は簡潔。
だが反比例するように急速に、ブランの眉がつりあがっていく。
「は、ぁ!?お前絶対ビアンのこと甘くみてるっての! あいつ今でも式典とか訓練の訪問でお前のことみるたびにぽわぽわふわふわしてるんだからな!?」
《ビアン=フォルトゥナ・エッダにとって、幼い頃に交わしたネグロ騎士団長との結婚の約束は心の支えでもあり、同時に彼が崇拝していた兄亡き後はその成婚が叶うはずがないという諦念もありました。
それ故に本編で急速にネグロ騎士団長と距離が近づいていく主人公へと嫉妬し、横暴なふるまいをします。》
そうか……。
そうか…………?
「(いや、成婚が叶うはずがないと諦める理由はどこに……?)」
《ビアンは亡きヴァイス皇太子殿下の妹君として敬愛と忠誠を向けられていることは理解していますが、逆にビアン個人としては特段意識されていないことも理解しています。
作中でも「お兄さまの妹でしかない」「守ってくれるでしょうけれど、彼の中ではそれ以上でもそれ以下にもならない」となげくビアン令嬢の姿に同情を覚えるファンの姿もあります》
「(…………そうか……)」
無機質な回答に切なさすら覚えてきた。
歳の差もあるからそういった対象としてみられないのは理解できる。
だがここまで一方通行の感情を後にも引きずることになるのか……。
《攻略対象が他の女性に実は想いを寄せていて……となると、やりにくいプレイヤーの方も出てきます。製作者としてはその配慮もあったでしょう》
それはそうだろう。
《実際にビアン令嬢との友情ルートでは、彼女の想いを成立させるべく主人公も奮戦することとなります。どちらにも転ぶような余地をつくることで、物語の幅をひろげているのです》
「友情……。」
「?どうかなさいましたか?ヴァイス様。」
小さくつぶやいた声にネグロが反応する。
「いや、望まぬまま結果として悪役として振るまう未来がもしあるとして、それはあの子自身が味方なく、こころ細い状況下におかれるからではないかと推察していていたんだ。」
「さすがの御慧眼です。ヴァイス皇太子殿下!」
「……それはそれでお母さまはなにをされているのかという疑問もありますが……」
「それをいうならば私やブラン殿下も同じでしょう。」
「むぐ。…‥だって僕がそこまであいつを気にかけてやる理由がどこにあるんですか!」
「義務ではないよ。それでもお前たちがいがみ合うような未来を避けたいと思う兄としての気持ちも、理解はせずともそういうものなのだと思ってくれたらうれしいね」
「……わかってますよ。兄さまが心配してくれてるのは。」
「うん、ありがとう。」
ほほえんで礼をいえば、照れ隠しのようにわざと音を立てて焼き菓子をかじるブラン。
本来ならたしなめるべきかもしれないが、身内だけの席だ。それで気恥ずかしさがおさまるというのならやりたいようにさせてあげよう。
「だからあの子……ビアンが、信頼できる相手をたくさん作ってあげられたらと思うんだ。ブラン、そうなってくれそうな相手に心当たりはあるかい?」
「…………今のところないですね。」
「ないかぁ……」
簡潔な返答に肩をおとす。
《グレイシウス皇国の文化では七歳を境に他の貴族との関わりが一挙に増える仕組みです。
ですがビアン令嬢が七歳になるはずの年に皇帝陛下とヴァイス皇太子殿下が亡くなりました。その対応に国がおわれた結果、彼女の社交界入りは本来彼女が得られたであろう華々しさをうばわれたのです》
……それは、あまりにも。
あまりにも哀れすぎないだろうか。
《こちらの情報はゲーム発売後の雑誌インタビューにて掲載されています。掲示板で彼女が批判されるスレッド数も雑誌発売前後でおよそ半分ほど削減もされました》
うん。その情報はいらない。
妹の批判など、兄の立場から聞きたいわけがない。
そうなるとやはり、少しでも多くの人が彼女の支えになる環境を作れればよいのだけれど……。
「……兄さま、これはひとつ提案なのですが。」
「うん、何だい?」
ブランが礼儀正しく手をあげて許可をもとめてから話しはじめる。
「ビアンはまだ幼いので社交界入りは向いていません。ですが早いうちに同じくらいの年の子と知り合えるに越したことはないでしょう。貴族の幼子向けになにか行事をとり行うのはいかがでしょう?」
「行事?」
「はい。教会では礼拝だけでなく特定の年代の方に向けたイベントも行っています。
それ以外を排斥することが目的ではなく、社会との結びつきが薄くなりがちな方が他の方と交流できるようにすることが目的です。」
たとえば病があり外に積極的に出れないもの。
たとえばすでに職を辞し、時間を持て余すもの。
たとえば市井で子を育てている母親。
そうした人々に向けた行事を教会が主導しているのは知っていたし、金銭的な支援をしたことも無論ある。
「皇家主催……という形式だと少々格式張ると思うので、僕のほうで教会と連携して……そうですね。今年六つになる子どもたちを対象になにか催しができないか聞いてみましょう」
「いいのか?」
「兄さまも仰ったでしょう。僕が教会や法学の発展に手を貸すことで、よくなる世もあるかもしれないと。
それを果たし、その上で妹の明日を良くする未来となるのならば願ってもありません。」
前を向いてそこまで言い切ってから、急に言葉を迷わせるように俯いた。
「で、でも。……もしかしたらすこしお時間をいただくかもしれません。時間の限られているなか、申し訳ありませんが……」
「何を気にする必要がある。世を変えるというのは一筋縄でいくものではない。お前が今やろうとしていることを誇りなさい。このわずかな時だけでなく、その先を見据えることにもつながるであろうことを」
「…………!……、はい!」
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