第29話「紅い衝動」

月が観たかったので、散歩に出た。

けど、月は雲にしっかり隠れてしまって出ていなかった。 

今夜は新月らしい。

帰り道、隣りの通りからこっちを観てる男がいる。

ーーあれは…。

コメット?

あ、誰かと1つ先の角を曲がって消えてった。


ーー店先にソレイュがいた。

「おう、モア!」 

 店閉めるんだ?

「今日、暇過ぎて…もう閉める事にしたんだぁ〜!」

 ふぅん。

ーー本の続きでも読もうかな。

「モアはどうしたんだ?」

 別に。仕事ない日くらい息抜きしないと。

「モア、なんだかんだ忙し…。」

!!!

 ぁ''ッ!!

「どうした!モア?!」、

 ぁぅ''っ!

ーーなんだこれ?

頭が、くゎんくゎんする。

こんな感覚は初めて。

苦しぃ…。

ぁ''あ''ぁ''あ''ぁ''あ''。

 …は…は。

「ど、どうしよう…!ちょ!ちょっと待ってろ。」

…は、ぁ。

 …ぅ''ゔ。

「辛いか?

おぶって帰るから心配するな。」

 は、ぁ…。

ーーソレイュの背中あたたかぃ…。

血が脈打つのが伝わってくる。

体の奥が熱い。

どこからか、甘い匂い。

まるで、「あの日」みたい。

何?月光が…紅い…⁇

ーー欲しい。

 …はぁ、はぁ。

ーー欲しい。

…駄目ッ‼︎

殺してしまうッ‼︎

「モア〜?鍵ぃ。」

 …ぅ、鍵。

「ほら、着いたぞ。お前の部屋ほんと何もねぇなぁ。」

ーー欲しい。

殺したくは…ない‼︎

堪えろ…。

 …はぁ、はぁ、は…。

駄目だ、あの甘い匂いが邪魔して来る。

…ぅ、自分を抑える自信がなくなってきた…。

あ''ぁ''あ''ぁ''あ''ぁ'あ''。

…独りになって、落ち着きたい。

「モア?大丈夫か??寝かせてやるから待ってろ。」  

 …はぁ…ぁ…。帰って…。

ーー欲しい。 

ま、まずいっ。

 は…はぁ…はぁ。

「よっ、と大丈夫か⁇」

 …はぁ、はぁ。ソレイュ…も…帰って。

「モア?うぉッッ!?」

ーー欲しい。

 …はぁっはぁ…ぁ

ソレイュを押し倒してしまった。

もう、駄目だあぁぁぁぁ…。

ぁ''あ'' 爪が伸びる。

ぁ''あ'' 牙が伸びる。

ーー欲・し・い。

 …ハァッ…ハァ…。

「…ハァ、ァ。ンゥッ。」

 …ハァッ…ゴクリ…。

ーー首か?

駄目‼︎痣が目立つ。

ーー腕か? 

ここも駄目。

ーー腰?

「ンンッ、ハァ…ぁ、モァ。」 

 …ッ、…ァッ…‼︎

駄目ッ…、意識が…。

*:*


…あたたかぃ。

 ハッ⁈

ーーソレイュ⁈…生きてる‼︎

よかった…。

記憶も跡も消して、痣はしばらく残るけど。

…起きろ‼︎

…起きないな。

…起きろっ‼︎

ーー腕真っ赤…。

これだけ叩かれてどうして起きない⁈

さっさと帰って欲しいのに…面倒くさいッ‼︎

…起きろっっ‼︎

「んぅ…ん、なんだ?」

 朝、店、行け。

ーー早く行け。

「何かあったのか?夢⁇」

 さぁ?

ーーもう‼︎さっさと帰って‼︎

「…あれからどうしたっけ?」

 さぁ?

ーー帰れっっ‼︎

 ほらっ!立てって!

ーーやっと扉を開けて、ソレイュを外に出せた。

「…モア…今日も店、来いよ。」

ーーぃや…去り際に微笑まれても…。


ーー…やっと落ち着ける。

うあぁぁあ…‼︎ャってしまったぁぁあ‼︎

…不覚。

でも、殺してなくてよかった。

…記憶は、曖昧になる暗示をかけたし…。

…都合が悪い事があったら、また暗示かければいい。

ーー大丈夫なはず…。

こっちも覚えてない事にしよう。

とりあえず、夕方まで眠ろう…。

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