第11 話 ルロァ篇03「赤く甘い夜」

「モア様、よろしいでしょうか?」 

ーー?

夜会から戻ってるって訊いてきたのか…? 

メモは明日渡す予定だったけど、頼んで仕舞おう。

 入ってくれ。

「今夜は、楽しまれましたか?」

 そんな事より、ここに書かれた事を使用人達に聞いてきてほしいんだ。

ーー指の間にそっと指を入れ、手を掴む。

壁に追い詰める。

 ねぇ、できる?

ーー小首を傾げて、指先からそっと腕を撫でる。

 …?

「ぁっあ…。は、はい。」

 じゃあ、「これ」

ーー優しく頬を撫でて、髪を耳にかける。

耳元で息をして、囁く。

 お願いね?

 はぁ

「ぁっぁっ…。」

ーー吐息を吹きかけ、耳元でそっと甘く囁く。 

 『頑張ってね。可愛い私のマ・シェリ。』

「は…はい。」

ーーなんて便利な女…。

惚けた顔をしながら、女は部屋を出て行った。


ーー明日は、魔術の痕跡を調べて、解決策を見つける。

ァリシアティリィーヌが眠った原因を調べる。

で、後はじっくり時間をかけて。 

ーー2か月分、魔術が濃くかかっていたかのように。

魔術を解くのが、いかにも大変かを見せかけるだけ。

それまで、図書室の本を3日読んで時間を潰そう。

……今日を除いて3日が、限度じゃない…?

ーーよし‼︎

仕事を終えて、3日後には帰ろう。

今日は「犬」についての本。

…犬の起源は狼か。

…初めて飼った奴食われなかったの⁇

…なるほど、仔狼の頃からね。

…そして、犬が初めて家畜化した動物かもしれないんだ?

…へぇ。

…あ、収拾癖があるんだって?

ーーなんか集めたくなる気持ちはわかるかも。

…へぇ。

…ふぅん。

…尻尾の振り方にそんな意味が。

…ほぉ。

…知らなかった。

ーーあ、朝日が昇りそう。

もう眠ろ。

紙に書かれた事ちゃんとできるかな?


「モア様、宜しいでしょうか?」

 どうぞ。

ーーァリシアティーヌの部屋に行く約束だったなぁ。

「さぁ、モア様行きましょう!」

ーー…浮かれてる?

主人が目覚めるかもしれないから浮かれてるんだ?

主人想いだな…。

 診てみましょう。

額に手を当てる。

ーー…ん?

深い。

深い。

静かで暗ぃい。

水の中。

身体は沈んでく。

いつまでも水面に出れない。

何故だろう?

手を伸ばしても、伸ばしても、煌めく水面は遠いまま。

あれ?脚が動かない。

いつ間にか、何かに下半身を覆われて…。

囚われた⁈

!?

ファロン家って恋のまじないをかけたかったんじゃないの?

これは眠りの呪い。

どう言う事⁇

…駄目だ、頭が混乱してる。

仕切り直そう…。

どうしよう?

どう丸め込もう?

 徐々に術を解くので、明後日までかかりそうです。

「そうですか…明後日。明後日には解けるんですね!?」

 ええ、身体に影響が出ないように時間を解く必要があります。

ーー…情報待ちか。

仕方ないな。

ァリシアティーヌに手を翳す。

静かに風が起こり出した。

その風はやがて、カーテンを激しく揺らす。

ガラスが震え始め、ァリシアティーヌのレースのクロスが波打つ。

ーーほんとはゆるやかな風を徐々に強くしただけ、けど術を解いてる様に見えるだろう。

ーー…今日は、この辺りでやめとこう。

 また。明日の夕刻、また術を解きます。

「…わかりました。」

 図書室の本を読んでも?

「はぃ。どうぞ。」

 ありがとうございます。

ーーよし。

これで心置きなく本が読める‼︎

次は、何を読もう?

知らない事についての本は、あるかな?

こればっかりは読まないとわからない。


図書室までこんな晴れやかな、足取りで行くのは初めて。

通う事になるなら、初めから入室許可をもらって置けばよかった。

……昨日みたいに部屋全てに灯りを着けたら誰かに見られた時、言い訳するのがのが面倒くさい…。

ーー指を弾く。

指先にだけ炎が灯る。

興味がある本だけを照らそう。

ーーん? 

この本⁇

「Le magi nolwr et blan」

……えぇ‼︎

ここには魔術について書かれた本があるんだ⁈

隠されて来た文化だったから知らない‼︎

この本にしよう‼︎

楽しみ過ぎる‼︎

白魔術は、ほぼ関わり合いがないから。

神と呼ばれてる者の反対側としては。 

これまで、精霊とか天使とかに出て来れたら面倒だったし。

何が書いてあるんだろう…?


「モア様、よろしいでしょうか」

 入ってくれ。

 可愛い私のマ・シェリ。情報は持ってきた?

「は、はぃ。持って来ました。」

ーー熱を与えれば、言う事を聞いてくれる。

…便利な女っ。

 ちゃんと紙に書かれた事が調べてある…。

『いい子だね。ちゃんと、ご褒美を上げないとね…。』

ーー使い勝手が良過ぎ。

囁きながら、そっと手を撫でる。

 『ありがとう。』

続けて耳元で囁く。

 『今夜、ご褒美をあげるから後でこっそり、私の部屋においで。』

ーー去り際に喜んでいる声が聞こえた。


ーー早く頭をすっきりさせてくれ。

今回は、ファロン家がァンに恋のまじないをかけたのに、ァリシアティーヌに眠りの呪いがかかってるんだったな…。

紙に書かれた事によると、ァン宛だった「それ」がァリシアティーヌの部屋にあるらしい。

ァリシアティーヌに話しかけてた配達員がいたらしい。

そいつは、おそらく魔術師だろう。

ーー明日は「それ」を調べるか…。

原因はやっぱり「それ」かな。

今回は厄介な術じゃなかったし、よかった…。

ーー…本を読もう‼︎


…白魔術。

…術者や願者に害を与えず、幸福を与える。

…雨乞い、開運成就、豊作祈願。

…幻灯、ヴィジャボードなどを使って降霊の儀式を行う。

…精霊などを憑依させ力を借り、警告や予言を語らせた。

…序列は、ミカィル、ラファィル、カブィル、ウリィル、精霊、妖精、白魔術師、信仰者。

ーーここでも魔術に白と黒があるとは…気を付けよう…。

薬草学や錬金術はどっちに入るんだろう?

黒魔術が相手でよかった。

白魔術が相手だったらもっと大変だった…。

…へぇ、霊にも格があるんだ。

…ふぅん。

ーー魔術の中でも白と黒は、相反する物なんだ…。

知らなった、魔術を使う者は普通の人間にはこう思わてるんだ…。

人間を助けてもこう思われるんだ…。

頑張ってるのになぁ…。

あいつらが言う通り黒は、悪かぁ…。

黒魔術にもいろいろあるし、術師もいろんな奴がいるけどなぁ…。


「…モア様…ょろしいですか⁇」

!!

ーー気持ちを切り替えないと…。

 入って。

「失礼しまぁ…。」

 待っていたよ。可愛い私のマ・シェリ‼︎

ーー嬉しそうな顔。

腕の中に飛び込んできた。

抱きしめて、手を絡めて、唇を重ねて、押し倒す。

深く深く唇を重ねたら、首筋に舌を這わせる。

「ぁっあぁ。」

楽器を奏でるように下から撫で上げる。

「はぁっぁん。」

女からは喜び声が聞こえる。

ーー次はどこ攻めてやろうか?

どうせ、この夜は夢に変わる。

だから、できるだけ良い夢を。

ーーここが好きなの? 

片方の乳首を弄ぶ。。

「はぁ、はっぁっぁ!」

硬くなってきた乳首を甘噛みする。

左手でもう片方の乳首を可愛がっていく。

太ももを撫でて身体の中心へ指先を滑り込ませる。

「…はぁっあ、モァ…さ…まぁ…。」

ーーここかな?

女は一生懸命、声が漏れないよう口を覆ってる。

「…ぁっう…あっぁ…。」

 マ・シェリ…こっちを向いて。

深く口づけしながら、激しく指先を動かす。

「…ぅうッうんぅッうんッうぅ!」

絶頂と共に意識は彼方に堕ちてィった。

 『いい子だね、堕ちる時間だよ…。』

そっとクロスをかける。


ーー黒魔術についても読んでおこうかな。

大体、同じなら知らない事はないと思うけど…。


…黒魔術。 

…降霊をウジャボートや陣を使って儀式を行い、悪魔や悪霊などを召喚しの力を借りる。

…物や人を探したりも出来るが、主に願者や術者にも害を与える。

…自己の欲求・欲望を満たす為に行う。

…よって黒魔術は迫害を受けるべき存在。

ーーやっぱりここでもそうか…。

どこに行っても悪者なんだ…?

序列がルシフェル、アズラィル、ベルゼル、悪魔、悪霊、黒魔術師、信仰者。

ーールシフェル⁇


「ぉ、ぉはようございます。モア様。」

……!!

ーー忘れてた‼︎

考え込んでる場合じゃなかったぁあ‼︎

 おはよう!マ・シェリ!良い夢を見ていたんだね?寝顔が微笑んでいたよ。

ーー嘘で味つけ。

「はい!気持ちのいい朝です!」

ーーヤメロ‼︎

あぁ''っ。

開けるなッ‼︎

!!

やめっ‼︎

…あれ⁇

…⁇

「モア様!!いいお天気ですよ!」

ーーどう言う事…?

状況が把握できない‼︎

独りになりたい‼︎

 もう部屋に帰りなさい。

「え。」

 もう下がっていいよ。

「はい…わかりました。」

ーー悲しそうな顔。

でも、早く独りになりたいし。

早く帰れ。

お前なんか大嫌い。

「では…失礼します。」

ーー少し泣きそうな顔、面倒くさい。

もう会う事もないだろうし。

知らん。

今は、こっちの問題の方が大きい‼︎

なんともなってない⁇

何故?

空が赤いから…?

ーーとりあえず、眩しい。

閉めよう。

ーー調子が狂う…。

術を解くのは難しい事じゃない。

でも、意図がわからない。

……夕刻を待たないと。

…疑問の答えには辿り着けない。

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