第8話「仮面のエトヮール」

「モア!!いる!?」   

ーーえっと、誰だっけ?

「おう、メリィどうした⁈」

ーー身振り手振りしてる。

ソレイュが話を聞いてるからいいだろう…。

「ね?

モア、いいでしょ?!ラヌで的当てやって!!」

ーー!? 

何の話⁇

「知ってる人で身のこなしが軽くて、的当てが得意な人モアしかいないの!!」

ーーさては、ソレイュ話したな…。

「ね!お願い!!」

ーーすごい期待の目…何故、ソレイュまで?

あぁ、面倒な事なってしまった。

断りにくい…この状況。

はぁー。

 いいよ。

「ありがとう!!助かるわ!   

じゃあ、この前あげたカァドを持って2時間後、この前の通りにきてね!」

ーーなんでお前が嬉しそうなんだよ⁈

 わかった。


ーー名前なんだっけ?角でつまんそうに待ってる。

あ、気付いた。

「モア!!来ないんじゃないかって心配したぁ。」

ーー断れるなら断りたかった…。

「さぁ、こっちよ!!」


「着替えて、このショルスを着けてね!

モアは、特別なパァラァって紹介するから!!

着替えたら、みんなのとこに行きましょ!」

ーー手を引かれるまま、ここまできてしまった。

もう…やるしかない。

 着替えたよ。

「やっぱり!  

そのカァドぴったりだと思った!!

ショルスを着けて更に気品が出たぁ!」

ーーまた、手を引かれてる。

だから…引っ張るな‼︎

「オォ!!

ほんとに来てくれたんだ!!ありがとな!

ルイが熱出しちゃって、どうしようかと思ったぜぇ!」

「ワァ!!

あなたがいてくれて助かったぁ!」

「ンン…イィネ!!

じゃあ、流れを説明するよ!

ミュウジィアが奏でられたら、ハンスが誘導するから。

ハンスの合図で…。

踊りながら…3歩進んで跳ぶ、着地したら回る。

ミュウジィアは3拍子だよ。

ハンスの所に来たら、油を塗って火を着けたラヌを渡すから。

的の紙目、掛けて投げて!

的は回るから集中して投げるといいよ。

「これは、あなたしか出来ないの!

きっと盛り上がるわ!!」

 練習しなくていいの?

ーーたぶん出来るけど。

「そんな事したらラヌの達人が知れ渡ってしまうわ! 

みんなの前で初めてやるから意味があるのよ!」

ーーなるほど。 

 わかった。


ーーあ。始まった。  

「君はナナの次で、最後だよ!」

 わかった。 


「ヴォン・ジュゥ!皆さん!!

今日も皆さんに煌めきと驚きを…!

ようこそぉ!ドルチ・ェ・ラタンのパァメントへぇい!!

さァ、この瓶をよぉく見てて!」

ーー肩車したまま用意をしていた瓶を回した。

ついに立って瓶の数も増やして、宙でくるくる回し出した。

瓶には小さな蝋燭が入っていて、回るたびその小さな灯は揺らめいた。

まるで、鳥が低空飛行してるみたい。

1つだけ高く上げるのは、今日はしないらしい。

歓声と拍手…客は満足してそう。


ーー次が、始まった。川の流れの様。

しなやかで時に激しい。

畝って揺れて。

相当、練習してそう。

音楽に合わせて上手に身体を動かてしてる。

歓声が上がる…客は更に満足してそう。


「さァさァア!!皆様ァ!!

今夜、現るはラヌの達人!!

絶対に的は外さない!

その姿、その両眼に焼きつけたはァ!

わあァア、拍手喝采!

拍手喝采ぃぃい!!」


ーー演奏が始まった。

手を掴まれて。

誘われて、掴まれてた手が離れる。 

まるで、ここが始まりの位置と言われてる様だった。

手をこちらに伸ばし、優雅にこっちに向かっておじぎをされる。

踊りながら出て行って、跳んだ瞬間。

驚きの歓声が訊こえた。

回ると観客からはため息が漏れた。

炎が燃え盛る、鋭く尖った刃物を渡される。

ーー的は円形か…。

曲線はいきなり、刺し当てたらやり過ぎだから…。

斜めのは1本ずつにしよう。

直線なら2本投げていいかな?

…やってしまえ‼︎

的が燃えると大きな歓声が上がる。

ゆっくりと的が回り始めた。

ーー言ってたのは、これか。

動く方がいい。  

わざわざ手加減しなくて済むし、この方が退屈しなくて済む。

的が燃えると観客は大喜び、更に大きな歓声が沸き起こる。


演目が終わり全員で横に並んで優雅におじぎする。

「モアなら絶対出来ると思ってた!」

小声で言われる。

観客から拍手喝采が贈られた。


「すごい!すごい!!

モア、最高だわ!ソレイュから聞いたとぉり!!」

「跳んだら、ワッと歓声が上がって。回るとみんなうっとりしてたぜ!」

「的の紙が燃えたら大歓声だった!!」

「2本投げたのもすごかったぁ!」

「回っててもほんとに当てれた!」

ーー盛り上がってる…。

ほっとこう。

「こっち!!」

ーーまた、引っ張ってるッ‼︎

「×××ラタン」と描いてある車の奥側に連れて行かれる。

どうやら、ここで着替えるらしい。

「モアってタンティなんでしょ?タンティってどんな事をするの??」

ーーソレイュの奴、何を話した…。  

 人探しとかかな?

…他には、役を演じきって情報を集める仕事かな。

男性、女性、夜会に出席する客とか?

ーー何?この輝いてる眼。

「すごい!すごい!!そんなに演じわけるの!?」

 格好で演じ分けれる、意外と簡単だから…。

ーー…普通の女と食いつく話が違うなぁ。

「じゃあ!このカァドいつか着て!

絶対、似合うと思うわ!」

 ありがとう。

ーーいきなり何…⁈

なんか妙に自信があるみたいで、押し付けられた。

また、いろいろ貰ってしまった。

 じゃあ、帰るよ。

「ほんとありがとねぇ!」

「楽しかったぁ!」

ーー早く帰ろう‼︎

隣りと合流されたら、しばらく帰してもらえなさそう。

逃げる様に急いで帰った。


ーー結局、巻き込まれてしまった。

でも…今日は少し面白かった。

刃物はたくさん投げてきたけど、今まで魅せる刃物はなかったな…。

歓声が沸き起こった瞬間のあの感じはなんだろう?

また誘って来そうだなぁ……まぁいいか。

少し面白かったし。

赤い空を眺めながら、駆け抜けていった時を思い返した。


ーーこれから何しよう?

本の続きでも読むか。



…ラヴェルの為に着替えるジョルジュ。

「僕にこんな格好、似合うのだろうか…?」

鏡に映る自分を見て疑問に思う。

今夜はショルス・スヮリィ、必ずショルスを着けなくてはいけない。

そして、絶対に名乗ってはならない。


煌びやかなスヮントにたくさんの人が集まっている。

「ねぇ、素敵じゃない?」

「あの人とお話してみたいゎ!!」

「断わられたら、どうしましょぅぅ…。」

どうも、慣れないな。

ビサァレを片手に、クルクル踊る人達を見ていた。

スヮントが、とてもキラキラしている。

僕は、今までスヮリィに参加した事はなかった。

これまで、こんな煌びやかな景色は見た事がない。

なんだか視線を感じるが、悪目立ちでもしているんだろうか?

「アナタさっきから暇そうね。ねぇ、私と踊りなさい。」

ノヮルのレェスのショルスを着けた美女が周りを踊りながら誘ってくる。

カァドがフワフワ、ユラユラ…そのたびに揺れる。

なんて綺麗なんだろう…。

まるで、蝶のようだ。

「ほらぁ!早くしなさい!」

持っていたグラァラァを奪い取るようにテッチェルに置かれた。

「…?アナタ、もしかしてスヮリィに参加するのは初めて?!」

どうしていいかわからず、困っていると美女が訊いてきた。

僕ははちょっと恥ずかしくなって、照れながらはい…と答えた。

「ぁあ、そうなの…ふぅん。脚、踏まないでよね!」

と言い放ち僕の手をとった。

回るたびに美女のカァドがヒラヒラ空舞っている蝶ように見えた。

美女は甘いロゥジァの香りがした。

「…初めてのクセに踊るのは上手いのね!」

そう言うと美女はフィッと違う方を見た。

「最初に誘ったのが、わたくしでよかったわ!アナタ、周りの子達が踊りたがっているの、知っているの?」

「まさか!!知りませんでした。」

美女は気付いてなかったの、と呆れた様子でそう言った。

この美女の笑顔は、きっと綺麗なんだろう。

心が見てみたい思いでいっぱいになった。

「いい?アナタは狙われてるんだから…踊る相手は慎重に選びなさい。

わかった?」

「わ、わかりました。」

とりあえず、悪目立ちしていたわけではないみたいでよかった…。

僕は胸を撫で下ろした。

踊り終わると、美女はビサァレを2つ取って振り向いた。

「少し、話ましょう。」

この美女の笑顔を見るまで離れる気はなかったので、丁度良かった。

壁側まで来て舐めるように彼女を見た。

「そのカァドとてもお似合いですね!ロゥジァがお好きなんですか?」

美女のカァドはブランにロゥジァが色とりどり、彩られている。

レェスのショルスによく似合っていた。

「ロゥジァは好きよ!家でたくさんロゥジァを育てているの。」

急に表情が柔らかくなって、微笑み出した。

あぁ、この顔が見たかったんだ…もっと、もっと。

この美女はどうしたらもっと笑ってくれるだろう、僕の心はその思いで溢れそうになった。

「僕もロゥジァは好きです!いい香りなんですよね。

いい香りだけど、単純ないいではなくて…あったかい気持ちになります。」

「そうなのよ!アナタ意外にわかるじゃない!!」

彼女が近づいて来た時、フワッとロゥジァの香りがして来た。

彼女にとても似合っている少し甘い香り。

「他には何がお好きなんですか?」

「犬を飼っているのだけれど、この前…仔犬が産まれたのよ!」

「そうなんですか、さぞかし可愛いでしょうね!!」

「そうなの!!すごく懐いていてね、わたくしが庭に出ると集まってくれるのよ!」

「わかります!!すごく嬉しいですよね!!」

アァ、やっぱりなんて美しい笑顔なんだろう。

そこから、ノヮルの美女との会話は大いに盛り上がった。


「ありがとう。意外に楽しかったわ!」

そう言い残し彼女は去って行った。

少し寂しく思っていると、服の裾引っ張られた。

「ぁの…。」


ーーこの辺りでやめとこう。

明日、何もなければいいけど…。

そう思いながら、クロスに包まった。 

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