第7話「ショコラーテ」

「来てくれたのは、嬉しいけど、モア!?

そんな顔してどうした?」

 …雨が…雨が苦手なんだ。

ーー雨…最悪。

あぁ''空気が重くて嫌だ。

「そんなの忘れるくらい良いもの出してやるよ!

待ってな!!」

ーーソレイュ後ろ姿、肩が踊ってる⁇

どんだけご機嫌なんだよッ⁈

雨が降ってるから、その小躍りもいらっとくる。

あ、綺麗な絵のカップを片手に戻ってきた。

??

「これはお前絶対喜ぶぞ!」

?!

「ショコラ〜テだ!!」 

ーー出されたので、飲んでみる…。     

??!

あっ‼︎

あっまぁい‼︎

甘いぃ‼︎

何、この感じ‼︎

「ッ!」

ショコラ飲むとこんな感じなんだ⁈

すごい…甘いっ‼︎

「ど…どうだ?!ぅ…うまいだろ!?

気に入ったか?!」

ーーはっ‼︎ …意識が遠くにィってた。

 あぁ。

「…ッそっか、そっか!

やっぱ、気に入ってくれたか!!

毎日、モアが来たら入れてやる!!」

ーーえっ?毎日飲める⁈⁈

…わぁああ‼︎至極ーーッ‼︎

「その変わり、他の店で絶対飲むなよ!約束だぞ!!」

 …。

ーーはっ‼︎危ない…。話を聞き流すとこだった。

 ?…でも、なんで? 

「とッとにかく、予想通り喜んでくれて俺は嬉しいぜ!…ァ、ァハハ…ハッ!」

ーー???

 あぁ…?わかった。

「サンチェのオルフェスタ〜!

このプリィでアンタっとこも暇か〜!?」

ーー店内左側の客はサンチェの奴か…。

「そうなんだぁ。

だから、フラレンスにしばらく任せて出てきたよ!」

「このドシャ・プリィだしな〜!」

「わたし達もプリィのせいでお店から出れないわっ! 

せっかくゆっくり買い物しようって、約束してたのにィ!

ーーあ。右側の女3人組の1人の帽子が綺麗な羽根飾り。

「あぁ!そうだ!モア、こっち来いよ!」。

ーー子供にするみたいに手招きするなッ‼︎

…仕方ないから行ってやるか。

「こいつはモア!

タンティをやってるんだ!!

気軽に頼んでしてくれよ!腕は補償するぜ〜!」

 ァン・シャンテ。お美しい乙女達。

ーー3人が何か目をぱちくりして、合図し合ってる。

何?

ーー我ながら、心にもない事を言った挨拶…。

3人の身なりが良かったので、つい仕事の時の挨拶が出てしまった。

強いて言うなら、左の女の扇子が美しい。

「美しいモア!よろしくね!!ねぇね?タンティって何??」

「右から、マドマァ・ァンナ、マダァ・ェリィ、マダァ・ァンだ。

タンティは人探しをしたり、情報を集めたり…?

モアは簡単な怪我や病気なら治せるらしいぞ〜!」

「いろいろ出来るのね…ねぇッ!

モアは、どんなトリコルが好き?そうねぇ…モアならブロンかノヮルがいいかしら?

迷うわぁ…濃いカフィもありね!!

それから、髪と同じ鮮やかなブルを締めて!

中には何でも合うから、ノヮル?ブロン?

アレを履く?ソレを履く?うぅん…迷うわぁ!!

脚元は長いのにしようかしら?

短いのにしようかしら?…どっちもありね!!

ねぇ…モアはどう思う?!?」

ーーえ?えぇ⁈

そんな勢いで来られても…。

「あぁ!あなたは逸材だわモア!

ァンとェリィもそう思うでしょ?!」

「「ええ。」」

ーー左側の眼鏡をかけた女はちらっと見て、顔を伏せた。

真ん中の扇子の女は、こっちを見て、さっと顔を扇子で隠した。

「モアならいろんなヴェッタが着れそう!!

頭はアレで、首にはアレ、アレを着て、脚元はそうねぇ…アレがいいわぁ!!

…素敵!」

ーー意見を求めたくせに、こっちが話す隙を与えてくれない。

「ねぇ!モア!!今度、わたくしの所に遊びに来て!」

ーーえぇ⁇どうしよう…面倒だな。

「モアの好きなパティスリィは何?」

「モアは、ショコラ〜テが大好きだ!」

「じゃあ、良いショコラァテ用意するわ!!」

ーーショコラ!……〜ッ‼︎

 いいよ。

「おぉぃ!ソレイュ!」

「はぁあい!」

「ぁ、モアここに座る?」

 いや、自分の席に戻るよ。

「そぅ…。」

ーー右から残念そうな顔が続く。

やっと解放された‼︎

戻って、残ってるショコラ飲み干した。

ーー甘い‼︎


ーーショコラぁ…。

甘い。

甘い。

波が押し寄せる。

捕まって、拐われて。

甘い渦の中。

ただ、漂って…。

!!

うゎ、ショコラに意識が持ってィかれてた。

ソレイュが何か力説してたけど、適当に相槌を打ってた。  

それは、まぁいい。 

「ァビエント! 

モア!!約束よ!遊びに来てね!!」

ーーあぁ、雨止んだんだ…。

手を振られて振り返してたら、いつの間にかソレイュがいた。

こっちを見てにやにやしてる。

ーー何⁈気持ち悪っ‼︎

何がおかしい⁇

「ショコラ〜テおかわりしてくか?」

ーーえ?おかわり⁈

…したい、でも。 

 今日は、帰るよ。

「そっか…じゃあ、また明日な!」

ーー何⁇その嬉しそうな顔。


部屋に帰って灯りを燈す。

右側の扉を開けてベッドがある部屋へ。

カーテンを捲って月眺めた。

ーーあの月の型、何て言う型だっけ⁇


ーーここは基本的に元いた所に似てる。

だから、特に不便はしない。

けど、違う。

わからない単語が飛び交うけど、気にしない事にした。

周りを薄い膜で包まれた様な感じがする。

…今日、ここに迷い込んで初めて味を感じた。

甘かったなぁ。

ショコラかぁ…。

ーー毎日、ずっと退屈だったけど、少し楽しみが出来た。

ここは快楽も苦痛も何もない、空虚な入れ物の中。

どうしようかと思ったけど、あの甘さを知った。

あの甘さは「あれ」に似てる。

それはショコラからしか感じないらしい…。

けど、ソレイュが毎日出してくれるらしい…。

!!

…それはいい。

今、考える事じゃない。

ーーしばらくは、絵の講師と探偵の仮面。

探偵は慣れてるとして、絵の講師の方はどうだろう?

どちらかだけならやった事はあるけど…。

自分を描かれて、それを教えるのは変な気分…。

もし、がっかりする描き方をされたら?

…気が重いなぁ。

…ニラァジュなら大丈夫か…?

ーーまぁ…今、考えても仕方ない。

これからも周りに疑われない様に、合われていけばいい。

…眠ろう。


「……。」

「……。」

「……」

「…コウモリ。」  

「可愛いコウモリ。」

あぁ、あたたかい手が身体を撫でる。

声も心地いぃ…。

心地いぃ。

もっと…。

もっと。


手が、遠く離れていく。

置いて、行かれるのは嫌…。

寒くて、寂しいのは嫌…。

暗くて、寂しいのは嫌…。

嫌……。

嫌……。

嫌……。

ぃ……。

…。

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