第33話
考えられないほどの成長を遂げていた。
この短期間では、かなりの成長速度だ。それもすべては《極・経験値倍加》のお蔭だ。これのお蔭で、取得経験値が十倍加する。
つまりスライム一匹を倒すだけで、中盤初期程度のモンスター並みの経験値を得ることができるのだ。これで時短が可能になり、たった五日で八レベルも上げることができた。
これは驚異的な速度だ。まるで『勇者』を何人も続けて討伐したような結果である。
そして、簡単に貯まるSPを使用し、戦闘や探索などに有利な〝極意スキル〟をゲットしたのである。
「うん、次に手に入れるスキルは――コレだな」
さっそく30SPを消費して手に入れたのは、《極・隠蔽》だ。これは自身のステータスを他人に確認されないようにするスキルだ。
支援系のスキルに《鑑定》というのがあるが、これは見たものの情報を得ることができる効果を持つ。また、対象のステータスも覗き見ることができる。
これを防ぐには《隠蔽》が必要になるが、《極・隠蔽》を破れるのは、すでに十束が入手している《極・鑑定》だけ。
つまり裏技を知らなければ、絶対に十束のステータスが見破られることはないというわけである。
「誰かにステータスを見られるのは面倒事しか呼ばないしな」
それは相手に情報を与えるだけであり、特に十束のは特別過ぎて、見破ぶられるのは困る。だからこそ、できれば早めに取得しておきたかったので今回ゲットした。
「お、しかもレアドロップもゲットしてるじゃん!」
先程倒したモンスターから手に入れた素材を確認するため《袋》を見ると、新着カテゴリーのところに、レア素材があるのを発見した。
――《
これは以前、戦ったレッドコッコが落とすレアドロップ。確率的には百分の一くらいだが、出ない時は何匹倒しても出ない。
だが、十束はすでに《紅核》を十個も所有している。
それは《極・経験値倍加》の次に取りたかった《極・ドロップ率倍加》の恩恵だ。このスキルのお蔭で、まだ三十匹程度しか倒していないが、もう十個も手に入った。
これからは率先してレアドロップを持つモンスターを討伐していきたい。
ちなみに《紅核》というのは、【隠遁の館】で加工してもらえて、ワンランク上のアイテムや武具などを得られる。
(これで基本的には、十二分に攻略を進められる程度のスキルは手に入れたかな)
当初、どうしても欲しかったスキルは入手できたと思う。
戦闘経験も積み、大分慣れてきたこともあり、ここらのモンスターなら、たとえ複数現れても無傷で処理できるくらいになった。
(素材も大分集まったし、そろそろまた【隠遁の館】に行くか?)
《極・ドロップ率倍加》のお蔭で、ほぼ確実にモンスターを倒せば、何かしらの素材やアイテムなどを複数ゲットできるので、すぐに貯まってくれる。売れば金にもなるので、このスキルを早めにとって本当に正解だった。
そんなことを考えながら〝グルメエリア〟を出て、同じように食材調達で一緒に来ていた海東たちと合流して〝ベース〟へと戻った。
手に入れた食材などは、すぐに井狩に報告する。ただし、レアドロップについては一切報告していない。
手に入れたモンスター素材なども、海東たちは井狩に報告しているが、貴重なものに関しては、十束は黙っている。当然譲りたくないからだ。一人で活動している理由もここにある。
本来なら集団で行動するべきなのだが、実績を残している十束だけは、単独行動を許されている。
今日も大量に食材をゲットできたことで、〝ベース〟内は喜びに満ちている。それに、ここ数日でまた人も増えて、『民』だけでなく『勇者』も追加できた。
先日、失った戦力も補充できて、大分生活にもゆとりが生まれている。
まだまだ発展途上の〝ベース〟だが、確実に規模を増して強いコミュニティへと成長していた。
ホームの方も、徐々に戦力を注いで安全開拓に努めている。ホームや線路道を〝ベース〟として開拓できれば、より多くの人を収容できるし、土砂などを処理して、外へと繋がる道としても利用できるようになる。
本日のノルマを終えた十束は、これからのんびり外を探索しに行こうかと思っていると、改札前にある作戦本部周辺が慌ただしいことに気づいた。
それはデジャヴのように思え、もしかしたらまた誰かが死んだのかと想像してしまう。
すると、外へ通じる階段の上から、勢いよく駆け出してきた一人の人物が、そのまま真っ直ぐ作戦本部へと入っていく。
「……及川さん?」
海東と相性の悪い男性である。しかし、その実力は本物で、彼もまた井狩さんに認められ単独行動を許可されている。そんな彼が、表情を強張らせている様子から、只事ではないことが起きたのが分かった。
(また厄介なことが起こったのか?)
何が起きたのか、作戦本部の周辺にいる野次馬たちに詳しいことを聞いた。
どうやら、例の【ブラックハウス】たちに仲間たちが襲われたのだという。
あの〝グルメエリア〟争奪の時以来、この街から出ていったような静けさだったのに。
(やっぱりまだ諦めていなかったってわけか)
恐らくは、この数日間で【アンダーガイア】の情報を収集していたのと、戦力補強をしていたのだろう。そして、すべてが整ったと判断し、いよいよ動き出した。
そこへ、作戦本部から出てきた女幹部である鈴村が、キョロキョロと周囲を見回し、十束を発見すると、「あ、いたいた! ちょっと咲山君! 井狩さんが呼んでるよ!」と大声で手を振った。
嬉しくないお声がかかったようだ。どうせ女性から声を掛けられるなら、もっと色気のある方が良かった。ただ無視するわけにもいかず、皆の視線を受けつつ、若干肩を落としながら作戦本部へと歩を進めた。
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