第29話
「……ん? どうやらまたお出ましみてえだ。綿本は下がっててくれ」
「は、はい! その、お気を付けくださいね!」
木陰に身を潜ませた彼女を一瞥してから、新たに現れたモンスターを見てニヤリと笑みを浮かべる。
十束の目前に立ち塞がったのは、体長が一メートルほどもある赤毛の鳥。
「さっそくエンカウントしたか。悪いが狩らせてもらうぞ、鶏肉!」
そう、コイツ――レッドコッコを仕留めれば、美味い鶏肉をゲットすることができる。
(それにコイツはレアドロップも持ってるしな)
レアドロップ――その名の通り、稀少なアイテムなどを落とす可能性を持つ。もちろん確率は低いが、それでもゲーマーとしてはレアという言葉に興奮を覚える。
レッドコッコの鋭い眼光が輝くと同時に、十束に向けて翼を払うようにして動かし、羽毛を複数飛ばしてくる。
(確かコイツの羽は特殊効果持ちだったな!)
特殊効果とは、武器に備わる副次的な効能のことである。スキルに似てはいるが、対象そのものに付与されている効果で、誰でも使用可能であり、BPを必要としない場合が多いから使い勝手が良い。
この羽毛には、刺さったターゲットにバッドステータスを与える効果があるのだ。
バッドステータスには色々あり、毒、睡眠、麻痺、ステータス減少、五感異常など多種多様だ。どれも非常に厄介で、解除するには相応のアイテムを使用するか、一定時間が過ぎるか、とにかく戦闘中では大きな不利となる。
故に、序盤のモンスターの中で、レッドコッコは強敵として位置づけられている。
(まあでも、バッドステータスっていっても、コイツのは一時的に攻撃力が低下するってやつで、あまり気にする必要もないけどな)
そもそも攻撃速度はそんなに早くないので、ちゃんと見極めれば回避可能であり、相手の攻撃力も低いので、ここらへんは序盤戦の仕様となっている。
十束は、相手の羽毛を回避しながら進み、すぐさま背後に回り刀を一閃。またも一撃で討伐することができた。そして、ドロップの鶏肉もゲットだ。
(ちっ、レアは手にできなかったか)
そう都合よくはいかないようだ。ここは完全に運なので仕方ない。
(それにしてもまた一撃だったな。攻撃力が上がってる……ああ、そっか。奴らを倒したからレベルが上がったんだった)
奴らというのは小磯と瀬戸である。彼らもまた『勇者』であり、レベル的には十束よりも上だった。だから倒したことで、多量の経験値を獲得することができたのである。
(おお! 目的だった10レベルに達してんじゃん!?)
――――――――――――――――――――――――――――――
サキヤマ トツカ Lv:10 NEXT EXP:876
HP:91/91 BP:100 SP:30
ATK:D-- DEF:D RES:D++
AGI:D+ HIT:E+ LUK:A
スキル:《地図》・《袋》
Bスキル:《自在界入(バグ・ボーダー)》
称号:界(さかい)の勇者
――――――――――――――――――――――――――――――
思わず十束がほくそ笑む。その視線の先には、SPが映っている。
これまで十束は、1ポイントもSPを消費してこなかった。
SPを使えば、より戦闘や探索に有利なスキルなどをゲットすることができ、攻略を優位に進めることができるにもかかわらず、だ。
他のスキルを我慢してでも、あるスキルを最速で手に入れるために、10レベルまで温存してきたのである。
十束は、システム画面のスキルツリーを開く。
このツリーには、大きく分けて五つのジャンルが存在する。
戦闘系・ステータス系・生産系・支援系・称号系
ほとんどが字のごとくなのだが、戦闘系は、攻撃や防御など戦闘に必要とされるスキルを獲得できる。攻撃力・防御力強化や、身体・武具強化など。
この戦闘系に特化してスキルを獲得していくだけで、基本的には攻略に支障はないだろう。いわゆる火力馬鹿としての名を欲しいままにできる。
ステータス系では、パラメーターを直接上げたり、取得経験値倍加やBP消費量減少、幸運上昇などの恩恵を受けられる。スキル獲得やレベルアップを早くしたいというなら積極的に上げた方が良い。
生産系は、最も多くスキルを獲得することができるジャンルだ。それこそ探索に有利なスキルや、武具やアイテム創作、〝ベース〟発展など、ゲームでの生活を存分に楽しみたい人向けだ。
支援系というのは、《地図》や《袋》のような、冒険や生活などに役に立つスキルが多い。楽に、そして安全に物語を進めたいならオススメしたいジャンルだ。
最後に称号系は、それぞれの『勇者』にしか取得できないスキルの昇格や新スキルを取得できる。『勇者』として成長させたいなら、当然獲得しておくべきジャンルである。
この世界を十全に楽しみたい十束として考えるなら、生産系がベストのように思えるだろう。拠点を手に入れ、ゆっくり成長させていき、様々なクエストやイベントをこなしていきたいなら生産スキルは合致している。
しかし、忘れてはならないのは、このゲームには裏技が存在すること。もちろんこのスキルにも、十束が設定した裏技が存在する。
実はこのスキルツリーには、隠しジャンル――六つ目の項目があるのだ。
(それを表示するには、このスキルツリーのジャンル選択画面で、コマンド入力をすれば……って、あ……)
そう、普通なら手元にはコントローラーがあり、十字キーやボタンを駆使してアバターを動かす。だがここは現実で、そんなものは所持していないのだ。
(まさかこんな落とし穴があったとは――っ!?)
思わず四つん這いになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます