第28話

「……お?」

「どうしたんですか……っ!?」 


 足を止めた十束を見て、小首を傾げた綿本だったが、すぐに前方にいる存在に気づき身体を硬直させた。

 そこには、明らかに元の地球には存在しない生物がいる。


 モグラのような身体つきだが、その体格はモグラの三倍ほどあり、面白いことに背中には、どう見ても人参にしか見えないものが複数突き刺さっている。


「出たな、キャロットン」

「キャ……えっと、あの動物が食材モンスター……ですか?」

「ああそうだ。倒せば人参をドロップする。けど気を付けろよ、結構好戦的な奴で、背中の人参は――」


 説明しようとするが、キャロットンがこちらに背を向け――――人参を放ってきた。

 十束は綿本の手を取り、その場から左へ駆け出した。


 弾丸のように飛んできた複数の人参は、地面にぶつかると小さな爆発を引き起こす。


「ば、爆発しました……!?」

「その通り、アイツは背中に生えた人参を飛ばしてくるんだ。しかも何かに命中すると爆発する。いわゆる――人参爆弾だな」


 そのまま過ぎてセンスの欠片も存在しないネーミングだが、そう名付けたのは社長なので文句があるならあの人に言ってほしい。

 すると、キャロットンが再び十束たちに背を向け、尻をフリフリと揺らし始める。


「あ……何だか可愛いですね」


 確かに小動物が躍っているみたいで可愛い。しかし、相手はモンスターだ。

 放射し、背中の人参を失ったキャロットンを見て、綿本はホッとしているが、モンスターとの戦闘はそう甘くない。


 尻を振っていたキャロットンの背中から、ニョキニョキっと次々と新しい人参が生えてくる。


「え、ええ!?」

「綿本! お前はここにいろ!」


 そう言いながら木の陰に彼女を押しやり、その場から駆け出す。

 またも発射された人参が十束へと迫ってくるが、蛇行しながら進み、障害物である木々を利用し接近していく。


 キャロットンがまたも尻を振って、再度充填しようとするが――。


「人参爆弾は厄介だが、充填には時間がかかるのと、その場から動けないのが弱点だ!」


 素早い動きでキャロットンに肉薄した十束は、そのまま持っていた刀で切り裂いた。


「ピギィィィッ!?」


 少し可哀そうになるほどの甲高い悲鳴を上げたキャロットンが、そのまま泡になって消えていく。どうやら討伐成功だ。


「お、終わったの……でしょうか?」


 恐る恐るといった様子で、十束のもとへやってきた綿本に、ドロップした人参を《袋》から取り出して見せた。


「わぁ! ほ、本当に人参さんですね! しかもとっても大きいです!」


 十束から受け取った人参をマジマジと見ながら感嘆している。確かに彼女の言った通り、普通の人参と比べてもかなり大きなものだ。食い応えが十分にありそうである。


「ここらのモンスターがドロップする食材はどれも新鮮で大きい。だから〝ベース〟……コミュニティを持つ奴らは、こういった狩場を確保しておく必要があるんだよ」


 多くの人がいるということは、それだけ多量の食材が必要になるのだから。


「人参さんは煮ても焼いても、サラダにしても美味しいですし、栄養も満点ですから、本当に助かりますね!」

「……もしかして料理できるのか?」

「あ、はい! 家事は主に私がやっていましたので」


 店を切り盛りする両親のために、率先して行っていたようだ。


「俺は料理ができねえからな。素直にすげえわ」

「ふふ、覚えれば誰にでもできますよ。良かったら今度お教えしましょうか?」

「えー……面倒だからいいや。てか、あんま食に興味はなかったしなぁ」


 仕事に追われていて、食は手軽でエネルギーになれば何でも良かった。ここ数年、心底美味いと思った食事などしていない。


「もう、もしかしてカップラーメンとかインスタント系ばかり食べてたんですか? それじゃ栄養が偏っちゃいます! それにお金もかかりますから、自炊するのが一番良いんですよ!」

「は、はい……」


 物凄い圧だ。少し前まで弱り切っていたとは思えない。

 これがもしかして女子力ってやつなのだろうか。何か違う気もするが……。


「せっかくこんな素敵なお野菜が手に入ったんです。これからはちゃんとした料理を作って食べましょうね!」

「えと……はい」 


 返事をすると、圧が弱まりホッと息を吐く。


(意外だったな。熱い面も持ってるじゃねえか)


 全体的にひ弱で、物静かなタイプかと思いきや、予想外の一面を見て、思わず面白いと思ってしまった。



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