第12話

 ゲームでは、非戦闘民が数多く逃げ込んだ場所であり、比較的安全とされている地下に、人間たちの拠点が築かれていた。


 大型で強いモンスターは、序盤では地上で多く生息していたため、地下や地中にいるモンスター相手なら、何とか対処が追いついていたからだ。


 非戦闘民といえど、地球文明の名残である兵器の数々だって残っている。それらを駆使すれば、いくら『民』と位置づけされた者たちであっても、戦っていけるというわけだ。


 そんな地下拠点のことを、ゲームでは【アンダーガイア】と呼び、巨大な〝ベース〟として存在していた。


(そこなら情報収集にうってつけだしな)


 大勢が集う場所なので、情報には事欠かない。また〝ベース〟を守る『勇者』もいるし、今のところは一番安全な区域のはずだ。そう判断し、その入り口へと向かった。


「――確かここだったよな」


 瓦礫に埋もれている場所が目に映る。よく探すと、人が通れるくらいの穴があり、下へと通じている階段も発見できた。

 そう、ここはかつては地下鉄へと通じる階段だった場所だ。

 人間たちは、地下鉄を利用して、拠点を形作ったのである。


(けど、問題は……ここが〝ベース〟として存在してるかどうか、だよな)


 ゲームでは、地球変貌が起こって、多くの人間たちがパニックに陥り、ただただ逃げ惑う日々がしばらく続く。


 そして、自然と人間たちは、その逃げ場所として地下を選び、そこに〝ベース〟を作り、モンスターたちと戦っていくのだ。

 突如として終末世界に成り果てた地球で、冷静に行動できる者たちなどタカが知れている。ほとんどの者たちは、ただただ生き抜くために、隠れ場所を探す。


 その流れで、段々と地下には人間が集まって集落ができていくのだ。


(ゲームじゃ、主人公が訪れる際には、もうかなりの人が集まってて〝ベース〟が出来上がってたけど、今はまだ五日だしなぁ)


 人が集まって、そこが集落になるには、相応の時間がかかるだろう。さすがに五日やそこらで、ゲームのような立派な〝ベース〟が出来上がるとは思えない。


(まあ、ゲームで主人公が【アンダーガイア】に訪れるのは、序盤の後期からだしな)


 それはメインストーリーにも繋がりのある流れだ。

 さすがに五日目では、まだ集落としては機能していないかもしれないと思ったが、耳を澄ますと、下の方から人の話し声が聞こえてきた。


(そうだよな。まだ〝ベース〟として成立してなくても、人間たちの隠れ場所としては便利だろうし)


 だから、そこそこの人間が逃げ隠れている可能性が高い。

 十束は、意を決し地下へ降りていくことに決めた。何にしても、ここらで情報収集を優先した方が良いと判断したからだ。


 そうして、狭い通路を静かに抜けると、その先は、鉄パイプなどを繋ぎ合わせて作ったであろうバリケードで塞がっていた。

 だが、そのバリケードのすぐ向こう側には、二人の男が、気軽に会話をしている。先ほどの話し声は、この連中からだったのだ。


 すると、十束の存在に気づいた一人が、「……あ?」と声を上げたと同時に、すぐに警戒し、腰に携えていたサバイバルナイフを手に持ち構えた。その直後に、もう一人の男もまた、同じように十束の気配を感じ、すぐさまナイフを持ち臨戦態勢を見せる。


「ま、待ってください!」


 十束は、即座に両手を上げて、敵対心がないことを示す。


「っ……何だ、人間かよ」


 男たちが、十束の姿をしっかり確認してホッと息を吐く。ここは薄暗く、十束の気配をモンスターだと勘違いしたようだ。


 ただ、こちらも強気には出られない。相手の機嫌を損ねてしまえば、得られる情報も得られないから。だからここはできるだけ穏便に……。


「驚かせてしまってすみません。あの……俺、モンスターから逃げてきて……」


 とりあえず、この世界にまだ適応できていない様子の人間を装ってみた。


「ああ、お前さんも地下が安全だろうって逃げてきた口か?」

「あ、はい。けどこれは……」


 十束は、頑丈なバリケードを見る。


「見て分かる通り、外にいるバケモノどもが通れないようにだよ。ま、他にも変な人間除けって目的もあるけどな。……お前さんは、どっちだろうな?」


 男が、十束を値踏みするように睨みつけてくる。

 彼らの警戒も当然だ。こんな世界になった以上、モンスターを警戒するのは当たり前だが、それと同等に危険なのは同じ人間だ。


 力を持ったクズほど厄介なものはない。もしその見極めができず、自分たちの領域に入り込まれたら、内側からコミュニティが崩壊しかねないからだ。

 事実、ゲームでも、外側から避難してきた奴らを〝ベース〟に招き入れ、そいつがド悪党だったために破滅するケースも存在する。


 ゲームなら、またやり直せばいいが、現実ではそうはいかない。もし殺されてしまえば、それまでかもしれないのだから。


「まず聞く。お前さんは、『勇者』か、それとも『民』か?」


 この五日間で、凡そのシステムは理解したのだろう。恐らくは現段階で、地球人はその二つのどちらかに分かれていると。

 さて、どうしたものか。正直に答えた場合のメリットとデメリットを天秤に乗せて考察する。



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