第11話

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サキヤマ トツカ    Lv:6  NEXT EXP:245


HP:60/60    BP:65     SP:18

ATK:E       DEF:E++   RES:D+ 

AGI:D       HIT:E     LUK:A



スキル:《地図》・《袋》

Bスキル:《自在界入》

称号:界の勇者

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 あれから一日かけてレベリングを行い、ゴブリンやらスライムやら、弱小設定されているモンスターを狩り続けて、ようやく6レベルまで漕ぎつけた。

 お蔭で戦闘経験もそこそこ稼げたし、パラメーターも一見して分かるくらいには成長した。


(そろそろ次に進んでも問題ないんだが……)


 当初の目的である、ここらのモンスターなら軽く攻略できるくらいまではきた。


(まあ、まだ〝イレギュラーモンスター〟には勝てねえけどな)


 先のオーガのような、稀に遭遇する強者である。アレは事故みたいなものだし、初見で確認してから今まで、一度も目にしたことはない。

 ただ、もし遭遇すれば逃げの一手にはなるが。


(メインストーリーを進めるのもいいけど、この世界じゃ、どういった感じで物語が進むのか分からねえしなぁ)


 このゲームはオープンワールドになっていて、基本的には、初期から好きなところまで行くことができる。

 その気になれば、いきなり攻略後半に向かうことになるダンジョンやフィールドにも行くことは可能だ。


 しかしながら、当然その道中には、凶暴なモンスターなどが生息しており、そこに無事に辿り着ける保証はないが。


 ストーリーを進めずとも、永遠にモンスターを狩ったりして遊ぶことができる。オンラインで友人たちとパーティを組んで、ダンジョン攻略に勤しんだり、クエストという人々からの依頼をこなして、魅力的な報奨を入手するなんてこともできる。

 つまり遊ぼうと思ったら、物語を攻略せずとも永遠と遊び続けることが可能なゲームなのだ。


 そして、本題のメインストーリーだが、こちらを進めていくことで、最終的に倒すべき敵が判明し、その敵――ラスボスを討伐し、世界を元に戻すというゴールに辿り着く。


(けど、もし俺以外のユーザーがいたら、ストーリーはどうなるんだろうな)


 通常、ストーリーを進められるのは、主人公ユーザーだけ。だが、先に遭遇した『勇者』たちもまた、十束と同じように、NPCではなく地球人だとしたら?

 そうなると、一つのゲームに主人公が複数いることになる。一人が物語を進めたら、他の主人公の物語はどうなるのだろうか。


 当然、先に進められた物語の中にいるのだから、他の主人公たちは必然的に進められる物語を追うことになる。


 例えば、モンスターに襲われている王女様を救うことから、物語が始まるとする。誰かがこのイベントをこなせば、当然ながら他の主人公たちは、同じイベントをこなすことはできないだろう。現実的に考えて、同じ世界で、同じ時期に、同じイベントが、主人公の数だけ起こるわけがないのだから。


(ならこの世界にはストーリーが存在しない? あったとしても、早い者勝ちってことかねぇ)


 主人公は、次々と起こるイベントをこなしていき、多くの仲間と出会い、艱難辛苦の末、世界の真実に辿り着き、最終的に最強の『勇者』としてラスボスを倒す。これが流れ。


 この流れに乗ることができるのは、早い者勝ちだろう。あくまでも、ストーリーが存在するならば、だ。


 もしくは、ストーリーなんてものは存在せず、ただ単に、十束たちが住んでいた地球が、『ブレイブ・ビリオン』に非常に似た世界感に変貌してしまっただけ。

 故に、主人公という存在はいない。いや、この世界に住むすべての者たちが主人公であり、それぞれの物語を紡いでいく。


 当然、その先に待っているのは、必ずしもゲームのようにハッピーエンドだけではない。悲劇的な結末の方が多いだろう。


(そのためにも、いろいろ確かめないといけないか……)


 この世界が、『ブレイブ・ビリオン』なのか、それとも非常に似ただけの世界なのか。『ブレイブ・ビリオン』ならば、ストーリーはどうなっているのか。


(それを見極めるためにも、まずは俺みたいな奴がいるかどうか……だな)


 NPCではない、十束と同じ地球人。彼らの存在を認識できれば、少なくとも主人公が複数いるという事実を確認することができる。

 その上で、メインストーリーの初期イベントの動向を確認。もう進められているのか、最初からそんなものは用意されていないのか。

 そう考えながら、十束は思わず苦々しい表情を作る。


(けど、もしストーリーがあるなら、ラスボスもいるってわけだよな。……実際に、あんなもんに挑みたくはねえけど)


 開発者としての感想としてはどうかと思うが、このゲームのラスボスは、異常なまでに強い。何せ邪神――神の名を冠する存在だ。生半可な強さではいけないとして、設定上、60や70レベル程度では倒せないようにした。


 まあ、そう指令を出したのは社長ではあったが。

 数多くいる『勇者』の中、文字通り、最強の『勇者』となった主人公が、これでもかというほど育てた仲間と一緒に、武器やアイテムなどを最高状態にし、戦術や戦略を練りに練ってようやく討伐できるという、十束のゲーム歴史上で最難関なボスなのである。


(しかも、そいつの部下とかもチートレベルだしなぁ)


 もちろん部下という手駒もいる邪神。その部下相手でさえ、他のRPGのラスボスを張れるくらいの実力があるのだ。

 そんな連中と、現実に渡り合えるようになれるのか。設定した開発者の一人である十束にとっては、とても今の自分がそこまでの境地に達せられるとは思えないのだ。


(まあ、俺の場合は、いざとなったら能力で逃げられるからいいけど)


 だからこそ設定した称号でもある。それに上手く利用すれば、討伐も困難ではあるが、できないことはないくらいの潜在能力は持っているし、攻略法だって頭の中にある。


(ただなぁ、俺としては、そんなリスクしかない冒険よりも、のんびりスローライフを楽しみてえけど)


 だから、たとえストーリーが存在していても、積極的に進めるつもりは十束にはない。主人公なんてものは、他の『勇者』に任せたい。

 たとえ主人公が自分一人だけだったとしても、できれば穏便に生きていきたいという性分なのである。


 懸念材料があるとすれば、本当に邪神が存在するのなら、いずれ世界は破滅へと向かう。人類もすべて滅んでしまうので、そこは何とかしたいとは思う。


「とにかく、これからの動きを決めるためにも、まずは優先事項を確認しにいくか」


 まずは『勇者』の発見である。本当は、あまり接触を図りたくはないのだが、そうも言っていられない。


 NPCかそうでないか、それを確かめるために、まず向かったのは、【アンダーガイア】と呼ばれる、地下に存在する〝ベース〟だった。



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