第9話
(三体か……普通のゴブリンみたいだし、何とかなるだろ)
それが十束が、一度ゴブリン討伐をして得た経験からの判断だった。
それに三体とも、それぞれ一定の距離が離れているし、遠距離武器も持っていない。なら各個撃破できるチャンスである。
そう考え、刀の柄を強く握り、その場から一気に駆け出した。
目指すは、一番近くにいるゴブリン。前回と同様に、こちらに背を向けた相手に対しての突撃であり、十束の間を詰める速度が速かったこともあり、初討伐時と同様に、一瞬にしてゴブリンを斬首にした。
ただ、仲間がやられたことを察知した残りのゴブリンたちとは、真正面から向き合うことになる。
「ギギィ……ッ!?」
歯ぎしり音がゴブリンの口から鳴る。同時に、表情は怒りに震えているかのように凶悪に歪んでいく。そして、そのまま二体ともが、十束に向かって接近してきた。
同時に向かってくるのは二体だが、それぞれに距離がある。まずはこん棒で攻撃してきたゴブリンをバックステップで距離を取り、次にすかさず間を詰めて、胸に刀を突き刺してやった。
苦悶の表情を浮かべるゴブリン。血を吐き出しながらも、まだ即死していないようで、刀身を両手で掴んでもがいている。その間に、もう一体のゴブリンがやってきた。
(ちっ! 刀が抜けねえ!?)
このままでは防御もできずに、相手のこん棒による攻撃を受けてしまう。
咄嗟に柄から手を離した十束は、大きく右横に飛んで、左からきたゴブリンの攻撃をかわした。
しかし、ゴブリンは攻撃の手を休めずに、そのまま十束の方へと飛び上がり、全力でこん棒を振り下ろしてくる。
十束は舌打ちをしつつ、《袋》から即座にもう一振りの刀を取り出し、こちらも考える間もなく、力一杯、ゴブリンに向かって刀を振るう。
――ザシュゥゥゥッ!
振り下ろされたこん棒もろとも、ゴブリンの身体を真っ二つにする刀。討伐した証拠として、泡になって宙へと消失していった。
刀を突き刺したままのゴブリンも、いつの間にか絶命していたようで、刀が地面に落ちている。当然、結果的に十束の勝利となった……が。
「はあはあはあ……今のはちょいと焦ったわ」
三体ものゴブリンを、それぞれ一撃で倒す。字面だけで見れば楽勝ではあったが、内容に関してはヒヤヒヤな場面があった。
最後に切断したこん棒の破片が、十束の頬に軽く裂傷を与えていた。十束は、ズキッとする痛みを感じ、滴る血を乱雑に袖で拭う。
「ふぅぅぅ~、まだ敵がいるのに、刀を突き刺したのはまずかったみてえだなぁ」
そのせいで、武器を手放すことになった。まだ《袋》に予備があるから良かったが、なければ、もっと苦戦することになっていただろう。
(こればかりは経験……だよな)
平和な日本という国に暮らしていた一般人なのだ。当然、戦闘経験などない。だからこういう失敗も必然といえよう。
(こうして血も出るし痛みも感じる。つまり、ゲームみたいなアバターじゃないってことか。これはいよいよ、死んだら即ゲームオーバーの線が濃くなったな)
セーブやロードなどの復活設定があるわけではない。ここは現実で、死んでしまえば、そこで人生は終わりを告げる。
感覚的にだが、それを実感し、もっと生存率に気を配る必要があると判断した。
(せっかく俺が作った神ゲーの中に入れたのに、死んだら元も子もねぇしな)
自分で神ゲーなんて恥ずかしいが、そう胸を張って言えるほどのクオリティだと自負しているのだ。だから十束としては思う存分、この世界を満喫したい。
これまで仕事尽くめで、何も楽しいことをしてこなかった人生。学生時代も、輝くような思い出など作ってきていない。
だからこれは、遅い青春とも呼べるような環境だろう。
なら、目一杯楽しみたいというのが、今の十束の原動力となっている。
「……ん? どうやらレベルアップしたみてえだな」
目の前に〝LEVEL UP〟という文字が浮かび上がっていた。
ステータスを確認すると、確かに1レベルから2レベルへと上がっていたのである。
ただ、HPとBP、そしてSPは目に見えて増加しているものの、他のパラメーターには変化はなかった。
こちらは数値ではなく、ランクでの表記なので、そう簡単に変化はしないことは知ってる。しかし、内部ではちゃんと成長している設定なので、若干力が増しているはずだ。
(よし、とりあえずもう少し慎重にレベリングしていくか)
まずは、ここら一帯のモンスター相手になら、油断していても問題ないくらいまでの強さにしたい。
幸いこちらには武器も大量にあるし、どこに何が生息しているか、大体は把握している。その知識を活かして、安全にレベルアップを図っていく。
そう決断し、少し休憩を挟んでから、またモンスター狩りへと足を延ばした。
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