第8話
眩い光が収まると、そこは元の行き止まりの通路だ。
(どうやら問題なくイベント終了したようだな)
早速、購入した食料を《袋》から取り出す。コンビニでも売っているような弁当とサンドイッチである。その場に座り込んで、勢いよく飯を食らっていく。
四日ぶりの飯は、空腹だった身体に存分に染み渡る。
「うんまっ! 美味過ぎるっ!」
夢中になって、五分ほどですべて平らげてしまった。最後にペットボトルの茶で喉を一気に潤す。
「っぷあはぁぁぁ~! 生き返ったぁぁぁ!」
プクッと膨らんだ腹を擦りながら、今後のことを考える。
(これで序盤の準備は整った。あとはレベリングするだけ。けど期間限定イベントとかは参加しておきたいんだよなぁ)
ゲームの中には季節設定もあって、その季節特定のイベントなども用意していた。そのイベントでしか手に入らないものもあるから、参加するメリットはある。
(それにイベントで手に入るものは、基本的にレア度高いしな)
武具、アイテム、情報など様々だが、どれも役に立つものが多い。
「でも季節って……」
ゲームでは、オンラインも対応していることから、季節はリアルとリンクさせていた。
(俺がここに飛ばされた? のは、五月だったけど……)
体感的にも気温はちょうどいいくらいなので、恐らくは現実時間とリンクしているのだろう。
(五月っていえば春だし、桜モンスター討伐とかあったはずだけど……)
春限定に現れる〝桜モンスター〟と呼ばれる存在を、制限時間内までに一番多く討伐した者に賞品が与えられるのだ。
(けど、ここに来るまでにそれらしいモンスターはいなかったしなぁ)
桜モンスターは、全身桜色に染まっているので、一目でソレと分かる。しかし一体たりとも発見していない。
(ならイベントは過ぎ去った後なのか、それとも元々イベント自体がないのか……)
考えても答えは出ないので、とりあえずイベントのことは置いておくことにする。
ということで、まずは手頃なモンスターを狩っていくことに決めた。
十束は、《袋》から刀を出して手に持って、その場から歩き出す。
(ここがゲームそのものなら、あちこちに〝ベース〟が作られていくと思うけどな……)
『ブレイブ・ビリオン』では、〝ベース〟と呼ばれる拠点が存在する。モンスター襲撃から身を守るために、人間たちが作りあげた住処だ。
非戦闘民だけで構成されていたり、『勇者』が率先して作り上げているものもある。
ゲームでは、主人公は〝ベース〟を作ることもでき、住民を募って発展させていくことも可能なのだ。住民の好感度を上げることで、様々な恩恵を受けることもできる。
拠点があった方が冒険はしやすいし、仲間も集めやすいので、ゲーム攻略がスムーズに進む。
(けど〝ベース〟作りってめんどいしなぁ)
人見知りというわけではないが、コミュニケーション能力に適した性格もしていないので、今はソロプレイでいいかもしれない。
それに集団生活は便利なこともあるが、何かと問題も起こったりする。住民同士の衝突や、他の〝ベース〟とのいざこざなど、拠点を安全に維持し続けるには、相応に気を遣う必要があるのだ。
(村づくりもののゲームとか得意な奴なら喜んでするんだろうけどな)
ただ、ゲームに限らず、こういった終末的な世界では、人間たちは集って生活している場合は多いので、情報収集などは、そういう拠点を利用してもいいだろう。
「……ん?」
路地から出ると、遠目に複数の人間がモンスターと戦っている姿を捉えた。
武器を持って、器用に動き回っていることから、恐らくは何らかの『勇者』なのだろう。
三人の人間が、互いに声を掛け合って、ゴブリン数体を討伐中だ。
武器の扱いも、そこそこ慣れている様子から、十束が停滞していた四日間で、レベリングをしていたことは容易に窺える。
ここで二択。接触を図るか、そのままスルーするか、だ。
情報を共有するメリットはあるかもしれないが、ゲーム知識において十束より熟知しているとは思えない。それに下手に接触して、逆に利用されるだけのパターンもある。
さらに十束が危惧しているのは、こういう世界になって、当然のように出てくる厄介者たちだ。
突然強い力を持ち、それを自在に振るい、弱者の権利を搾取する連中が出てくる。
この世が無法地帯となってしまったせいで、モンスターだけでなく、人間にも気を付ける必要あるのだ。
(ゲームじゃ、死んでもデスペナを払って蘇ることができた。けど今は……試すわけにもいかねえしなぁ)
ここでの死が、現実での死に直結するのならば、おいそれと危険に足を踏み入れるのは軽い気持ちでできない。
故に、本当に信用できる相手かどうか見極めなければ。油断して寝首をかかれるのだけは勘弁だ。
(俺が知ってるNPCなら楽なんだけどな)
彼らのことなら、誰が信用できて、誰が裏切るのかなど知っている。だが、知らないNPCや、十束のような地球人たちが『勇者』化した者たちだとすると、判断には慎重にならざるを得ない。
よって接触を図らずに、その場を去ることに決めたのであった。
そうして、今はできるだけ人との接触を避けて探索していると――。
「――ゴブリン見っけ」
身を潜めながら見る視線の先には、またもゴブリンがウロウロしていた。見たところ、その数は三体。
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