大団円に向けて
受勲とバーバラ
瓦礫の撤去などを済ませて、簡易的な国の勲章授与が始まった。我々も簡易的な椅子に座って出席する。フィーは子犬だ。
まずは死者と負傷者の名誉除隊から。女王のセイレラリス・パスティアからなんたらかんたらと言葉が発せられる。
これが重要なんだよな。死ぬまで責任を持つ。死んだら国が責任持って慰霊する。だからこそ兵士は戦えるんだ。
今回は『ノヴァ・ディストラクション』の爆風で死んだもの達なのでちょっと責任を感じるが、あの場では最善を尽くしたと思う。
(改稿メモ。受勲式は上から下。全面的に改稿)
次に兵士達の勲総が配られる。率先して誘導した者、仲間を助けた者、負傷者死者を助けた者、攻撃に参加した部隊……勲章の種類は様々だ。
次に高官だ。今回死者が少なかったのは、街の破壊は切り捨てて徹底して遠距離で攻撃をしたことと初期対応が極めて素早く正確だったからである。
民間人の被害はまだわかっていないが。それも少ない方だろうということだ。ただ、最初にビームで一掃されているのでそこそこ死傷者は出るだろうとのことだが。
「最後に我々ですね、向かいましょう。クロエさん、フィー、ソフィア」
正装をしているみんなが立ち上がる。クロエさんだけは暗い顔をして立ち上がらない。
「立ちましょう、冒険者クロエではなく、クロエ・レイノルズ。アルカニア第一王女」
ようやく立ち上がると、ゆっくり、ゆっくり、歩み出した。
「此度は貴殿達の活躍によってこの国は守られた。よって最高勲章【パスティア大褒妖精章】を授ける」
まずはソフィアから。以前来たときとは力関係が違う。勝ち誇るソフィア、手が震えているセイレラリス。
「私に歯向かうとどうなるかわかった? 申し訳ないけど貴女が生きている年数なんて私にとっては端数なの」
「素晴らしい必殺技でありました」
「復活した私の通り名が【妖精を統べるもの】と呼ばれているソフィアを舐めないことね。じゃあね」
次に私だ。
「貴殿が来なかったらプラトンの被害はいかほどだったか。心より感謝する」
「お力になれて何よりです」
最後にクロエさん
「貴女は本当に強くなられた。貴女の補佐で何万人の兵士を指揮することが出来た。貴女はこの国の国賓だ。貴女を追うものは我が国の国賊だ。何かあったらこの国を頼り、なにもないときはこの国でゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」
深々とお礼をし、笑顔で握手する。ただ、震えているのがわかる。
受勲式が終わって王城の一室。今日は泊まっていって祝賀会にも参加してほしいらしい。
久しぶりの豪華な食事を期待していると、コンコンコン、とノックが。「はーい」
「クロエです、入ってもいいですか」
「どうぞ」といい中へ招き入れる。黒のドレスが綺麗だな。祝賀会といっても死者が出ているからね。黒くなる。
「どうかしましたか?」
「あの、その」
クロエさんは私を見ずにもぞもぞと手を揉むだけだ。
「エドさん!」
「は、はい」
決心したかのようにクロエさんは私を見る。
「ま、まだ、旅を一緒に続けて下さい――」
本心をはっきりと述べたのだろう。顔は紅潮し、決意の目には涙が浮かんでいる。
「クロエさん、賢者の務めは終わりました。あなたは危険の無い安息の地を手にいれられたのです」
「でも、もう少し、もう少しだけ、旅を、お願いします、旅を、一緒に」
「クロエさん――」
その時だった。
「じゃかっわしいわこのクソガキがぁぁぁぁ!!」
突如ジーパンにTシャツというロン毛のねーちゃんが私の右目の前に出現して、思い切り私の顔をぶん殴ったのだ!
脳までもクラッシュしたその一撃は、しかし同時に拳に乗せられていた『ミラクルオリエンタルウルトラ・リジェネート』によって即座に再生される。猛烈な痛さと共に。
「世界樹で嫁さん紹介したかと思ってずっとお前のことみていたらなんだいこの仕打ちは!! 嫁をいびるのがあんたの仕事なのかい!?!?」
「あ、あの、どちらさまで」
「ああ、嫁ちゃんにはまだ私がわからないよね。ごめんねえいきなり。私の名前はバーバラ・フキュウハ。このクソガキの母親さ」
鬼の形相かと思えば、急に猫なで声で綺麗な顔立ちへと変貌する。七変化能力を持つ母上。
「え!?」
「嫁ちゃんの名前はクロエだろ。クロエちゃんか嫁ちゃんって呼ぶから私のことはバーバラちゃんとか、バラちゃんとか、そう呼んでいいからね。もうお義母さんって呼んでもいいよ、ウフフフフ」
もの凄い勢いで喋る母上に圧されるクロエさん。
「母上、クロエさんが固まっております。あと、この後祝賀会があるので少々お待ちください。くれぐれもこの部屋を出ないようにお願い致します」
「バーバラ様、もの凄くお若い。エドさまと同じくらいに見えますね」
「あらやだー可愛いわねクロエちゃんは。私これでも五百万歳を超えてるのよ。五百万四千三百七十九歳よ」
「ご、五百万……本当に不老族なんですね。エドさまの家系は」
「ウフフ。さあ、クロエちゃん、貴女が嫁になることは私が後ろ盾になるから。まずは祝賀会に参加してきなさい。このあとちょっと大変なことをして貰わないといけないからさ」
そういってまだクラクラしている私とクロエさんを部屋から追い出した。
「あの、本当にお母様なんですか?」
「本当に母上です。五百万年生きているのも本当です」
「わぁ……化け物級ですね」
そんなことをいうクロエだが、さっきより幾分顔色が良い。母上が一撃お見舞いして、後ろ盾になるという言葉が少しは効いているのだろう。それが半信半疑でも。
祝賀会の内容は覚えていない。なんか隣に座ったクロエが人気だったのだけは覚えている。
「帰ってまいりました、母上」
「あー、おかーさん! 来てたの? お久しぶりー!」
「嫌な奴が現れたな」
「ただいま戻りました、バーバラ様」
みんなそれぞれ挨拶をする。ソフィアは誰とでも仲良くなれるな。フィーは相変わらずだ。
「ちょっと来てたのさ、クソガキを殴りにね。ちょっとクロエちゃんを上まで送りたいんだけど、協力してくれるかい?」
「私は良いけど、中央世界樹に登るってことだよね? 殺しはさせないけど登頂まで何ヶ月かかるか」
「中央には言っておいてあって、殺さないように頼んである。だから死なない設計なんだけど、協力しないとまず突破は不可能なんだ」
「俺は構わないぜ。クロエが強くなれば俺も強くなる」
「私も参加するわ! ソフィアちゃんビームで魔物は余裕よ!」
「私は、難しいですね」
視線が私に集まる。説明は母上がしてくれた。
「こればかりは本当にしょうがない。賢者は手伝えないんだ。でも道具を貸し出したりすることは出来る。真神水や賢者のローブに棒なんかは貸せるだろ、中央世界樹の頂上で嫁ちゃん用に作り直してもいい。そして嫁ちゃん、一つ重大な変化が起きるんだ」
「なんでしょうか」
「中央世界樹を登った人間は人じゃなくなる。寿命が千年二千年延びる。エルフになるんだ。人を超えてしまうけど良いかい?」
クロエは力を込めて言う。
「もう人には飽きていましたから大丈夫です! あ、奇跡の子はどうなるのでしょうか」
母上が話を引き継ぐ。
「それは体質だから大丈夫だよ。ま、嫁ちゃんにはもっと長生きして貰うけどね」
「母上、まさか」
「お前には教えねーよ! じゃ、お話を済ませてから宿場町へ戻ろうか。そこで中央世界樹の麓まで一気にテレポートするから」
こうして中央世界樹登頂への道が始まったのであった。
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