プラトン殲滅戦

「ああ、馴染む、馴染むぞー」

「ふふ、良かったですね、ソフィアさん」


 ソフィアをくるくる回しながら喜ぶクロエさん。


「じゃあこの神水の方をすくって、と。これを持ち帰れば亡命申請も出来ますね」


 私はそのようにいうと、途端に顔が暗くなるクロエさん。


「エドさま、その話しは無しにしませんか。ずっとどこかに逃げ続ける旅をしましょう」


 それも良いかもしれない。クロエさんとの旅はキツいときもあったけど、楽しいときの方が多かった。

 今後続ければ楽しい生活が待っているだろう。


「クロエさんとの旅は楽しいんだけど寿命がね。わずか五十年後には旅が出来なくなってしまいますよ」

「うっ、時の価値観が違いすぎますか」

「五十年なんて我々には一瞬です」


 本当に暗い雰囲気の中、ソフィアが手を上げる。


「はいはいはい、だったらエドのおかーさんを頼りなさいよ。今も通信魔法メッセージアプリでガンガンに連絡来てるよ。エドにも来てるんじゃない?」


 来ている。通信スキル『メッセージアプリ』にガンガンきている。やれ「嫁候補か!?」だの「嫁に早く合わせろ!!」だの「世界樹を登らせた女を嫁じゃないとは言わせないからな!」だの。

 もうクロエさんを嫁にするつもりらしい。


「まあ、会わないと怒られますし、会うだけ会いますか。まずは亡命を優先しましょう」

「いや、会うの優先でも」

「それは出来ません、任務優先です」


 しょんぼりした顔で黙り込むクロエさん。仕方がないんですよ、仕方がない。


「あの、話してるところ悪いんだけど、緊急事態だ!」


 西の世界樹が慌てた声で割って入る。


「どうしました?」

「プラトンが現れたんだ! 突如王都にワープしてきた! 冒険者は全員招集されて軍隊も導入してる! 付近にいた賢者も二名いる! エドも早くプラトン鎮圧に協力してくれ!」

「プラトンが!?」


 思わず叫ぶ私。プラトンはまずい、プラトンは。


「私も手伝わないと! 災害級の化け物よ!」


 ソフィアのエリアテレポートで一気に王都まで降りる。ソフィア、凄い力を持ったなー。


 テレポートされた先は宿場町の宿屋。もう既に大人数の避難者が収容されている。


「賢者のレイドリックです! 付近の担当者はいませんか!?」

「おう、私だ! 賢者殿!」


 三十歳くらいの衛兵が声を上げる。事情を聞くと、王都の南側にプラトンはテレポートしてきて、大暴れしているそうだ。既に南は壊滅しているとも。


「現在精鋭軍隊と精鋭冒険者殿、賢者殿がもっと南に行くように誘導を仕掛けております! 賢者殿も! お願い申し上げます!」

「わかりました、すぐ向かいます。フィー!」


 フィーは外に私の背丈の三倍くらいある大きさで出現した。


「一気に行くぞ」

「お姫様は私に捕まって。両足をぎゅっと」


 フィーの毛皮を掴む。ふっわふわだなあ。等と思っているうちにフィーが最大速度で走り始めた。一瞬で音速を突破する。

 後ろを振り返るとこのフィーの速度に負けない速さでソフィアがついてきているのを視認できた。さすが完全復活しただけある。クロエさんも無事に足にぶら下がっているようだ。この速度では風を避けるスキルを範囲展開させるすべはないのだ。ソフィアが飛びながら風を避ける魔法を自分とクロエさんに掛けているんだろう。


 瞬く間にフィーが減速を開始する。目の前には二百メロスあるというプラトンが見えていた。デカいな、本当に。


 冒険者部隊の前に降り立ち、隊長の人と話をする。冒険者階級は少将。相当な手慣れだ。


「こんにちは、賢者のエドリックです。状況は?」

「これで賢者が三人か。だが状況は厳しい。妖精部隊、軍隊の精鋭部隊、我々精鋭冒険者、賢者二名が総攻撃してもやつの回復力を上回る火力を出せないのだ」

「隊長、エドリックって、あの、ストームブレイカーの……」


 補佐官が助言する。


「確かに私はストームブレイカーのエドリックと呼ばれることがあります」

「貴殿があの、ストームブレイカーか。あるいはもしかすると。伝令を出そう。補佐官」

「かしこまりました!」


 今のうちに賢者と挨拶に行こう。最大戦力なのは間違いない。


 今いる賢者殿は……。

 兎人のミメット・フキュウハ殿とゴリラ人のゴルフ・フキュウハ殿か。どちら初対面だな。

 賢者は全員一律でフキュウハ族を名乗る。なぜフキュウハなのかは歴史の中で消えてしまったが、長老なら知っているかもしれない。今考えることではないか。


 賢者の控え室に出向く。冒険者は西側に群れていたが、賢者は東側に控えていた。妖精と精鋭軍隊は北側だね。


「こんにちは、エイドリックです。賢者歴二千三百十二年です」

「おお、ストームブレイカーのミ。ミメットだミ。賢者歴五百四十三年だミ。今回はよろしく頼むミ。今回は南側に押し出そうという作戦だミ」

「ゴルフです。賢者歴百三十九年です。私の肉弾戦では傷つける程度で回復が追いつかれてしまい、力不足を感じていますです。フィーさまと協調できればあるいは、です」

「これで私一人が入って何か出来るとは思えませんが」


 そんなことを喋っていると伝令が来る。もう一度総攻撃をするらしい。

 追加戦力は私とソフィア、そしてフィー。後はクロエさんの精霊か。


 ブラトンは背中に発行するギザギザのせびれを付けており、そこから何らかの物質を励起させ、エネルギーを作り出してビームにする。

 どんな部位も、破壊したとてすぐに再生するのだ。怪獣とはこのことであろう。


「ここから南だと、繁華街を壊すのか」

「壊し満足したら出て行く怪獣だもの、壊す場所を献上しないとね。さ、もうそろそろ出ないと」

「なんとかして倒せませんかねえ」

「私の大技が決まればあるいは。ただ数十秒溜めるから、気づかれて反撃のビームを食らうのよね」


 そんなところで総攻撃。

 妖精の魔法が瓦礫を吹き飛ばしながら怪獣の足に殺到し、各精鋭部隊のスキルがプラトンの頭上に降り注ぐ。嫌がらせとしては完璧だ、南に移動し始めている。

 南に向かってビームを口から掃射する。吐き出されたビームは全てを破壊し南の繁華街を瓦礫の山にする。

 近接部隊は飛んでくる瓦礫から仲間を守るために展開している。今突っ込んでも踏み潰されるだけだ。ここの総司令官はあの皇帝ほどバカではない。


 兎人のミメットさんの超高速スキルラッシュで頭の後ろを押す。

 ゴリラ人のゴルフさんが唯一張り付いて、背中のギザギザの励起物質作製器官を破壊している。


「よし、フィーは背中のギザギザを。クロエ、ソフィア、私は下百メロス部分の部位を攻撃しましょう」


 了解、という声と共にみんなが駆け出す。目標は一ケロメロス先だ。フィーとソフィアで輸送しないとね。


「フィーが食いついた。攻撃開始します。超極太エネルギー波を撃つスキル『エーテル・ストリーム』!!」


 私の棒を空中へ投げる。くるくると回転した棒はだんだんとエネルギーを纏い伸びていく。エネルギーが集まり、それは直径十メロスほどになり、莫大なエネルギーを保有し始める


「プラトンよ、私の大技だ! 全エーテルを食らうがいい!! いけぇ! 発射!」


 直径十メロスのエネルギービームがプラトンの下半身を襲う。さあ、効いてるか。


 数秒後、右足が、落ちた。効いた。


 遠くから飛んできた超巨大なフェニックスが頭を炎で焼く。これは、クロエさんの? すごいな、もう高位の精霊使いじゃないか。訓練初めて一年ちょっとだぞ。


 あたまから脳味噌が現れる。短距離通信スキル『テレパシー』で全軍に脳味噌を叩けば死ぬかもしれないと告げる。

 全軍総攻撃の指令が下った。


 私の役目はとにかく足や腕を壊して暴れる部位を減らすことだ。『エーテル・プール』が消えたので真神水を飲む。『エーテル・プール』がまた現れる。

 まだエーテルは大丈夫だ。やれる。


 フィーが心臓に食らいつく。動かせないようにするつもりだ。賢者の二人はエーテルが切れてしまった。

 私の所に来るように『テレパシー』を送る。なにせ真神水はびっくりするくらいある。

 あ、クロエさんが口づけしてるからコップ用意しとこ。

 走って数分かな。賢者なら時速百キロメロスは出るもんな。


「いっくよー! 食らいついてるみんな離れてー! 巨大宝石励起ガンマ線極大砲バースト!!」

 私の『エーテル・ストリーム』なんて目じゃないほどの巨大エネルギーがプラトンを襲う。


「第二斉射ー! 宝石が壊れたからここまで! これ以上はないよ!」

「これはケリがついた! さすがのプラトンも全てが破壊されただろう!」


 弾く歓声、叩かれる武具。


「まだです、ソフィアちゃんが言うには完全に消滅させないと最終的には復活するって!」


 音を伝える精霊かな。かなり遠くまで届く音で状況を知らせるクロエさん。

 何でも使いこなしている。世界樹の修行は相当な効果を生んでいるようだ。


「なら、これを使うか。これは試したことがない。アガトー帝国の宝物庫からフィーが持ってきたものだ。指定した場所を中心に莫大な破壊力を生むとのこと。みんな、退避しながら防御障壁を張ってくれ」


 叫んで遠くに声を飛ばすスキル『メガホン』で声を飛ばす。クロエさんとは大違いの荒々しいスキルだ。


「宇宙の真理を解放するスキル『ノヴァ――」


 両手にスキルパワーを込める。両手の中心に光が現れる。

 目を見開き、目標をしっかりと見据える。目を外したらどこにこの破壊力が飛んで行くかわからない。

 確かにプラトンは再生を始めている。粉々になった細胞が急速に集まり元に戻ろうとしている。

 この一撃で消し飛ばさないといけない。エーテルを込めろ、スキルパワーを最大にしろ。

 両手を頭上高くにかがげ、体をかがめ、手を体の中心で挟む。


「――ディストラクション!」


 そのスキルの威力は絶大だった。

 まず空間が圧縮された。フィーが間に合わず空間の圧縮に捉えられ消滅した。まあすぐに後ろに出現したが。

 次に、小さく圧縮された空間が黒くなり、上空に莫大なエネルギーをエネルギー波として放出した。これはあふれ出たんだろう、内部に溜め込められなかったエネルギーが。

 そして、黒くなった空間の、大爆発。

 爆風はもの凄く、中心部からはキノコ雲があがった。

 その後、プラトンを中心に半径百メロス程度の抉られた地面が出現した。

 万能電探スキル『センシング』で走査する。プラトンの反応はない。


「勝ったな。完全に消滅した」

「――すっご。私の方が強くなったって喜んでたのにぃ。魔法障壁が足りなかったからちょっと私とクロエちゃん負傷しちゃったわ。すぐ治せるから大丈夫よ。でも無くなっちゃったわね、翡翠の宝石」

「強すぎてどこで使えば良いのか。傷の方は了解。後で『リジェネート』をかけよう、傷跡も残らない。今は爆風で吹き飛んだ負傷者の救出を最優先にしよう。宝石はまた買おう」


 死傷者は死者十四名、負傷者五百四十六名。みんな『ノヴァ・ディストラクション』の爆風およびそれに関するものによる。


 しかし、我々は超巨大怪獣プラトンという未曾有の危機に対して、

 完勝した。我々が加勢してからなにもさせなかった。


「飲むぞ! 我々の勝利だ! 祝勝会だ! 万歳! 万歳! 今日は無礼講だ!」


 総司令官は飲み過ぎて急性アルコール中毒になり治療されていた。

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