やるしかないんです
「じゃあ俺とソフィアで棺を開ける。飛び出した瞬間に光の大きいクロエを認識してかじりつこうとするからそれを受け止めるんだ」
「はい! 頑張ります!」
「だいぶ腐敗しているだろうから、凄い形相になってると思うわ、臭いかも。無理はしないでね、魂だけでもなんでも出来るんだから」
「お願いします!」という言葉と共に棺を開ける。凄い腐臭があたりに立ちこめる。
これは相当だな。腐臭の中から少女が飛び出す。実体は妖精なのだが、三歳くらいの少女のように、体がパンパンに膨れ上がっている。
「ぐう、臭気が。クロエ、逃げな! 無理する必要ない!」
「大丈夫ソフィアちゃん。この子、愛が欲しいだけだよ。エドさん、神水の用意を! どんどんエーテル補給しますから!」
「エドさん、か。わかりました! すぐ汲んできます!」
ソフィアの本体がクロエさんに噛みつく。ジュワッと血がにじむ。クロエさんは回復魔法をソフィアにかけて貰い、噛みちぎられるのを防ぐ。
神水をガラス瓶に補充し、墳墓へ持って行く。まずはソフィアを回復させてほしいとのこと。ソフィアに神水を飲ませ、また取りに帰る。
「自転車操業ですねこれ」
「もう私はかなりがぶりと噛みつかれています。無理に引き剥がしたら皮膚が深く千切れます。やるしかないんです。神水を下さい、光の量が落ちてきているみたい。光より血を吸ってる」
「最悪破壊しちゃっていいよ、またやり直すだけだから」
神水を飲ませ、様子を見守る。光はしっかりと回復したようだ。
しかしクロエさんの体力が回復した様子はない。神水なら全てが回復するのだが。ゾンビソフィアが体力を吸っているのかもしれない。
「持ちますかね、これ」
「やるしかないんです」
「
半日ほどこれを続けた。
「はぁ、はぁ」
「クロエ、もういいよ、やめようよ」
「やるしかないんです」
「うーん、もううちの神水じゃ効果が無いね。武具作成機から無限の水差しを作って、中央の神水をもらってきた方が良いよ」
世界樹がそう助言してくれる。
「わかりました、行ってきます。ソフィア、躊躇しないでくれよ」
「わかってるよ。わかってる」
無限の水差しを作成して、中央世界樹への転移門をくぐった。
中央世界樹の頂上にたどり着いた。ここは標高なら海抜三万メロスを超える。ほとんど宇宙に近い。
もの凄い広大な頂上。そこは広場になっていて中央に池がある。真神水だ。他に中央世界樹で作る武具作成機などがあるが今はそれを使うときではない。
「来たか、待っていたよ」
そういうのは百七十セルトメロス程度の、人間族だと高身な女性である。
真っ白な肌で、一枚布を羽織い、杖を持っているだけで、大変秩序に悪い。
胴体から下は木の幹なのだが。
それでも秩序に悪い雰囲気を醸し出している。
「事情をわかっておられますか、世界樹様。すぐに許可が欲しいんですが」
そう、彼女は世界樹そのものだ。植物人であるドリアードが彼女である。
彼女曰く気がついたら世界樹になっていたらしい。
世界最強のドリアードが世界樹だ。
世界樹が意思を持っているのはドリアードだからだ。
「気持ちはわかるよ、君の気持ちは。すぐに汲んで彼女の所に行ってあげてほしい」
「では、すぐにでも」
行こうとする私を手で制する世界樹。
「でもね、それ以外の気持ちも考えてほしいんだ。彼女はソフィアちゃんにはなにが足りないと、なんて言ったか覚えているかい?」
「確か……愛だと」
「そう。彼女が失っているのは愛そのものでもあるんだぞ。それを誰が補充できるかわかってるか? いや、賢者に固執している君ではわからないだろうな、へっ」
「ではどうすれば」
「えっへん、一つ助言してあげよう、真神水を飲ませたらそのままクロエくんを抱きすくめるんだ。ソフィアちゃんの体ごとね。相当臭くてヌルヌルしているだろうけどやり遂げな、多少はマシだよ」
「わかりました。では」
「ローブは脱げよ、素直になれ」
そう言って世界樹様と別れ、真神水を汲む。池の半分ほどの水が吸い込まれた。池とはいうものの、内海と言っても良いくらいの大きさがあるんだけどな。
「ああああ半分も飲まれたあああ飲みすぎだばかぁ!」
絶叫しているドリアードをよそに転移門で西の世界樹へ戻り、ソフィアの墳墓へ戻る。
「戻りました!」
「クロエの息がだいぶ荒いわ。もう私は魔法を溜めてる。すぐに飲ませて」
「わかった。クロエ、真神水だ、飲んでくれ」
ごくごくと水差しから直接水を飲むクロエ。
にっこり笑って「少し落ち着きました」と言う。
「真神水でも少しか。なにが足りない?」
「体は大丈夫なんですけど、ソフィアちゃんも臭くないでしょ? だいぶ戻ったんです。でも、心が消耗しているというか」
「心か」
クロエは言う、「愛が足りていないみたい」だと。
世界樹様は言う、「彼女が失っているのは愛そのものだよ。それを補充できるのは誰だい?」と。
愛、か。
ローブを脱ぐ。そしてソフィアとクロエに覆い被せる。
「私が出来るのはこれしかない。クロエ、ソフィア、死なないでくれ」
そう言ってソフィアを抱いているクロエごと二人を抱きしめた。
「ああ、エドさま……。エドさまの心が私とは違っても、それでも私は幸せです」
一気に墳墓内が光り輝く。
「今だあぁぁぁぁ!!!!」
ソフィアが自分の体に突入していく。
「ぐう、ぐうううう!!」
「ソフィアちゃん頑張って! もっと噛みついていいよ! エドさまも、ほら! フィーも呼び出して!」
「わかった、フィー! 頑張れ、ソフィア!」
「数秒しか持たねえぞ、がんば――」
「ぐうううううううう!!」
「あああああ!!」
ソフィアが齧り付いていたクロエの腕を噛みちぎる。
即座に超蘇生魔法『フル・リジェネーション』を掛ける。
「うああ!! ああ!」
フル・リジェネーションの強烈な回復でクロエに激痛が走る。
「クロエ、もうやめよう! ここまでよく頑張った!」
「やるしか、ないんですうううう!!」
まぶしくて前が見えない。光がどんどん強くなっていく。
風を感じる。世界樹の表面に出たか? 墳墓が消えたのか。
「ソフィアちゃんーー!!」
「クロエちゃんの光から回復のエネルギーを感じるよ!」西の世界樹がそう言う。
「もうわかった、ソフィア、このまま行こう! 終わったら海に行こうな!」
「海! 海! 行きますうううう!! うわあああソフィアちゃん!!」
光が極限まで増加され、世界樹全てを覆い尽くした。
「あ、あ、わたしは、そふぃあ」
「ソフィアちゃん?」
「戻ってきた、一万年ぶりに。この体に。ありがとう、ありがとう、クロエちゃん。本当に、ありがとう」
「癒やしの究極魔法、そうだなあ、『リザレクション』とでもつけようか。なんかそういうのを習得したみたいだねえ。おめでとう、クロエちゃん」と
西の世界樹が言う。
ソフィアの体と魂は、一万年ぶりに、一つになった。
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