西の世界樹とソフィアの復活
ソフィアの墳墓は円憤で円錐形、ちょこんと建っていた。円墓といったほうがいいか。
その円墓には厳重な結界が複数枚張ってある。
私は一つ一つ無効化しながら円墓へと向かう。
全てを無効化し、入り口へと立つ。中は静かなようだ。
「ソフィア、いるか?」
全体は石で作られており、中央に一つ棺がある。ソフィアの体はそこにある。
「いるわよ、エド。この墓の外にはまだ出られないけどね」
そういって私の肩に乗るソフィア。
「このままだと何年かかる予定だい?」
「出るまでに千年、下界に降りるのにもう千年ってとこかしら。みんなとはもう会えないわね」
「今クロエがここに向かってる。彼女から光をもらえば早くなるだろう?」
「え、来てるの? そっか、助けに来てくれるんだ。本当に優しい子ね。うん、クロエから吸収すればすぐに魂は復活するわ。肉体は難しいけどね」
ソフィアの肉体が入っている棺。中では肉体の腐敗が進行し、今頃はゾンビとなっているはずだ。
一万年前の大厄災。その時ソフィアは体を投げ捨てて大厄災から世界を守ったらしい。その代償として不老不死である妖精のソフィアの肉体と魂が分離され、肉体は再生するために棺の中で
「私は世界樹の入り口で待ってますね。来たら案内しますよ」
「もう来るのがわかっているのね。さすが恋人は相方のことがわかるってもんね」
「恋人じゃないですから。彼女の努力を買っているだけです」
「ふーん、でも落下死しちゃうかもしれないわよ?」
「フィーが出ています。運び屋妖精も。もう何度も出動しています。それでも諦めないんですよ」
そっとソフィアを肩からどかして、外に出る。
そうだ、武器の更新をしておこう。
世界樹の左側へ行く。そこには、誰を祭っているかわからない小さな神殿があり、内部にはポップアップモニターがある。そこには出現させる道具の情報が並んでいる。
「中央世界樹と繋がっているはずだから、何でも最高峰の物が手に入る。棒、そしてローブとナイフを交換しますか。ナイフはクロエさんに渡しちゃいましたしね」
ポップアップキーボードを叩き、棒とローブとナイフを出現させる。
支払いは特にない。一般的な良い行いをしていれば大丈夫だ。
犬を蹴り飛ばしている人間は駄目だろうな。でも人を百万人殺した大帝国の皇帝なら手に入るチャンスはある。
良い行いとはそういうものだ。
世界樹の頂上は日光を遮るものがなにもない。テントでキャンプすること二日。万能電探スキル『センシング』に反応があった。
「来たようですね。諦めずに。ソフィアは幸せ者だ」
世界樹のゴールであり入り口に立っているのは着るものがボロボロであられも無い姿のクロエさん。
「ここがゴールです、よくたどり着きました」
「おわったぁ……」
「まずは服かな。そして神水を飲みましょう」
「矢継ぎ早に。早いです。まずはエドリックさま、その胸の中で眠らせて下さい」
「ほぉ。うん、良いでしょう」というと、クロエさんを抱きかかえてテントの中まで案内する。
「え、ちょ、え!?」
「世界樹の頂上にたどり着いたものは祝福と名誉が与えられます。私からあげられるものはクロエさんの願望を一つ叶えることでしょう。さあ、寝ましょう」
「は、はい。じゃあまずはき、キス、ですかね……?」
「いいえ、本当に胸の中で寝るだけです。エッチなことなんて誰がするって言いましたか?」
「ばーか!」
私に軽口をたたけるくらいには成長したんだなと思いつつ、ぐっすりと眠ってしまったクロエさんをおいて、武具出現機でクロエさんの防具を見繕う。まあ以前と同じで良いでしょう。あ、いや、ここなら世界樹のレギンスが穿けるので、ソックスとガーターベルトは止めてそれにしますか。ぽちっと。
クロエさんは一日と六時間ほど寝ていました。相当な疲労だったんですね。
「おきましたか、新しい服はそこにあるので着替えておいて下さい。着替えたら神水を飲みましょう」
「はぁーい」
眠そうなクロエさんをよそに、私は体操を始める。ソフィアは魂だけの復活で復活終了としそうだが、私はクロエさんなら肉体の復活も出来るのではないかと思っている。
そのためには私も協力しなくては。
「これが神水ですか。飲めば強力になれるという」
「そうです。クロエさんなら妖精と精霊の親和性が大いに上がるでしょう。それと、身体能力も」
「飲みます! ゴクリ――とくになにもないですね」
ただし神水を飲んだことでクロエさんの本質的部分が増強されたのは間違いない。
「強化はされましたよ。私からでも良い匂いを感じます。これは世界樹の海で水着デートなんてしたらナンパが多くてしょうがなそうですね。諦めましょう」
「え、行きたい! 行きたい! 行きたいです! 水着持ってませんけど、行きたい! エドリックさまと水着デートしたいですよ!」
世界樹の洋服を作ったのはどこですか! と凄い勢いで圧されて、武具出現機を操作させる。散々悩んだあげく、セパレートタイプだけど露出がそこまで多くない清楚な水着にしたようだ。おへそと腰回りは見えるらしい。試着もして大いに喜んでいた。見せてはくれなかったが。
「それじゃあソフィアを助けに行きますか」
「はい、エドリックさま」
向かった先はもちろんソフィアの墳墓。中でソフィアと再会する。ぎゅーっと抱きしめ合うソフィアとクロエさんをみるのは胸に来た。今までずっと一緒だったから。
「じゃあまずはソフィアの魂を取り戻しましょうか。ソフィア、準備は良いですか?」
「いいわよ。クロエ、今から私は貴女から発する光を食べるわ。食べる際にエーテルも一緒に食べちゃうの。だからエーテルがなくなりそうになったら引き剥がしてね。エーテル欠乏症になっちゃうから」
「エーテル欠乏症、エーテルがあまり補充されなくなって常に疲れちゃう症状ですね。普通は安静にしていれば回復しますけど」
「光と一緒に食われちゃうと回復率があまり良くなくてね。これで人を殺すときもあるわ。食べている最中は夢中になって食べちゃうから、危なくなったらエドが引き剥がしてくれるわ」
じゃあ、といって首筋にかぶりつく。途端、ソフィアの蒼く綺麗な目の色が赤くなり、無我夢中で光を食べ始める。
「クロエ、こっちへ。墳墓から出られない性質を利用して引き剥がしますので。世界樹のモニターデバイスからは異常は見られません」
「はい。ソフィアちゃん自体は軽いからそんなに動けない、ってほどではないですね冷静になればこうやって喋れますし」
五分くらいでモニターデバイスにエーテル残量低下と出たので引き剥がしにかかる。腰に紐をつなげて一気にクロエを墳墓から引き抜いて強制的に引き剥がす、という、単純だが一番効果的な方法だ。
ドスンと腰から落ちたクロエは腰をさすりながら首筋を確認する。
「いったー……。体の方は。――腰は大丈夫ですが、首筋にかみ跡の傷がついてますね」
「腰が大丈夫なら大丈夫。首筋の傷は『リジェネート』で治してしまいましょう」
これを行うこと数回。
「んああああああーーーー!!!!」
と言う叫びと共にソフィアが煌めいた。
「うん、これで体調バッチリ! また旅についていけるわ!」
「よかった、ソフィアちゃん! 体はどうするの? 私まだまだ大丈夫だよ」
「うーん、別になくても。数万年後には元に戻ってるし」
「試すだけ試しますか」
ソフィアの体も復活させる試みを行うことになった。はてさてどうなるか。
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