世界樹でお好み焼き食べよう(たこ焼き派閥です)

 世界樹を見たソフィアはその大きさ、その幹の太さに言葉を失っていた。

 ま、初見は西の世界樹でも大きいと感じますよね。中央はな、うん。


「こんなに大きいのですね。そして人もいっぱいいる」

「観光客ですね、世界樹は途中までは登れるんですよ」

「そうなんですか!?」

「お土産や出店なんかも出ていますし、少し堪能したらどうです?」


 そういって電子決済のお金を少しクロエの冒険者手帳に振り込む。クロエさんお金持つの初めてかもしれない。無駄遣いしないよう監視するべきだろうか。


 クロエは喜び勇んで真っ先におもちゃの屋台が売っているところへ駆け込んでいった。ああ、おもちゃとか縁がなさそうでしたもんね。

 なに買うんだろう

 あ、杖買ってますね。私の棒みたいな。魔法使いの杖っぽくなってますけど、あれおもちゃだからな。

 西を登り切ったら中央まで案内して賢者の杖進呈しようかな。私みたく棒は使わないだろう。


 その後出店で焼きそば、お好み焼き、たこ焼きに唐揚げを食べて異国の味に驚愕していた。文化自体はもう残ってないんですけど、ジャポネーズ由来の食べ物って美味しいですよね。ソースとマヨネーズが美味しいんですよね。


「こんなに美味しいものってあったんですね」

「ジャポネーズの粉物文化は誰もが美味しいと認める味ですよね。このソースとマヨネーズに合わせると格段の味になります」

「そうそう。こんな美味しいソース初めてです。これが庶民の味だったなんて、食生活が豊かだったのでしょうね。私のジャガイモ生活とはまるで違います!」


 そういえばクロエさんは出される食べ物を何でも美味しく食べていたな。幼いころの生活が関係していたのか。

 貧素な体にならなかったのは収穫した農作物を、精霊が祝福して栄養価を高めていたからだろうな。


 綿菓子を食べて「甘い!」と驚いたり、ひょっとこのお面を見て笑ったり。十九歳の女性がそこにはいた。

 なんか安心しますね、年相応の顔を見ると。今まで家のため国のため動いてきましたからね。まあそれが貴族王族の宿命なんですが。

 宿命という言葉も凄いな。命に宿る使命、宿命。命に宿っちゃうんですからねえ。


 もう十分と遊んできたクロエさんと合流し、世界樹の展望台まで登ります。


「結構階段ががキツいですからお気をつけください」

「はい。でもこれくらいならもうへっちゃらです!」

「身体能力が向上するのが早いですねえ」


 クロエさんは何事にも素質があるな。貧困国家じゃなければ、いや、貧困でもいい。大国から脅迫を受けている国家じゃなければ、素晴らしい生活が待っていただろうに。

 そんなことを思いながら世界樹の展望台へと進む。少しだけ哀れな気分になりながら。人の人生を哀れと思ってはいけないんだけども。


「ここは世界樹の展望台です。大きな場所でしょう?」

「はい、何人でも乗っちゃいそうです! あ、また屋台がありますね」

「ふふ、また少しあげますから食べてきなさい。さっきから賢者の耳にはお腹が鳴っている音が聞こえてきます」

「聞いていたんですか!? ばかー! 恥ずかしいじゃないですかっ。でもお金頂いて食べて来ちゃいます」


 そういうとお金を少し分けてもらい、またジャポネーズの粉物文化を堪能するため走り出した。

 いくらでも食べていいですよ、世界はジャガイモだけで回っていませんから。美味しいものは沢山あります。

 美味しそうに頬張る姿も、きれい、だなあ……。

 ぼーっと外を眺めていると、クロエさんが近づいてきてきた。


「賢者さま、あれはなんですか、あの湖みたいな所。神水の湖とかですか?」

「ああ、あそこは賢者の海と呼ばれるところですね。ここの地域一帯は海が無いので、世界樹があそこを海として作って下さったんです」

「世界樹が、作る?」

「世界樹には意思がありますからね。夜間も穏やかな光が溢れているし妖精が警備しているので酷いナンパなどは無くてすごしやすい人工の海なんですよ。お昼は世界樹が人工太陽を作るので、とても明るく夏のよう。日焼けだって出来ます」

「私も海での行為は聞いたことがあります。水着、波打ち際のかけっこ、美味しい氷菓子……。エドリック様と、ウフフ、アハハ」

「頭の中変なこと考えてませんか? まあソフィアさんを助けたら行ってみましょうか」


「はい、行きましょう、賢者さま!」と凄いやる気になって展望台を離れ、上方へと駆け上がる私達。

 衛兵傭兵さんがいましたが、既に世界樹の意思が伝わっているようですんなりと通してくれた。


「ここから一気に厳しくなります。世界樹に登るとき、最初だけは介助をヨシとされません。その人その人に合わせた限界まで難しくされた段差や障害物が待ち受けています。私はもう応援することしか出来ません」

「わかりました! 落ち着いて頑張れば、落ち着いて……」


 目の前のことに夢中でクロエさんは気がついていない。ここから頂上は約千メロスあるのだ。


 最初の試練は壁登り。

 いつもは私やフィーが後押ししていた。今回はそれが無い。


「普通のジャンプじゃ手の先しか壁に引っかからなくて落ちる。勢いつけて、はいっ! う、うでまで……」


 しかし腕から登るすべを知らない彼女はそのままずり落ちてしまう。

 なにも言えないのが本当にもどかしい。


 それでも何度も何度も挑戦するクロエさん。二十回くらい挑戦して、なんとかコツを掴んだのか一つ登った。


「これが、あと何段もあるんですか」


 試練は今、始まったばかりだ。



 壁登りはなんとか終わり、もう傷だらけになりながらも次の挑戦へと挑むクロエさん。

 次は戻る方向に動く床をそれ以上の速度で駆け上がる試練だ。

「んんんん! ん!」


 今回は一回で駆け上がれた。が。


「ええ、休憩時間二十秒でまた走るの!? ちょ、回復の、えっと、妖精さん来て下さい」


 妖精を呼び出し契約。ちょっと回復したところで二十秒経過。


「えええええい! これは、やらないと、心が折れる。あと、少し! よっし!」


「次はなだらかだけど動く床の長い道が続いてる。長距離走か。回復の妖精さんいっぱい来て」


 ボワンと二十体くらい出現する。次々に契約していって回復して貰う。


「ありがとう、妖精さん。試練が始まると契約解除されちゃうんだよね。また来てね。回復したし、頑張ろう!」


 延々と走り続ける。延々と。ゆっくりと前に進んでいる。なんメロス走れば良いのか。わからないまま走り続ける。

 ずっと遠くで見守っていたが、唐突に上空、世界樹の頂点まで移動させられる。


「世界樹よ、この行為はいかにして?」

「やあエド、久しぶりだねえ。どうも彼女は君を見て力を振り絞っていたからね。悪いけどそれもなくしてもらうためにここまで呼んだんだ」

「本当に厳しいですね」

「中央よりはマシだよぉ。精霊が全域にわたっていないからフィーくんだって出せないし、年間何十人死んでるのかっていうレベルじゃない。ソフィアの墳墓は中央右側にあるよ。棒を取り替えたかったら中央左側の神殿に。神水を使いたかったら中央の池にどうぞ」


 まずは神水を汲む。これは私のように何度も飲んだ生き物にはたいした効果は無いが、それでも非常に強力な万能薬になる。飲めば回復薬に解毒、掛ければかかった部分の悪いところを全て直す。持っておいて損はない。


 そしてソフィアの墳墓へと向かう。ソフィア、元気かな。

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