思い出作り

 貯金崩すぞーと向かった先は、そう。


「ほ、宝石店ですよここ」

「そうです、妖精や精霊は宝石の中に眠るんです。良いの買いましょうね」

「ええええ、えええええ、なんか私が装着するみたいになってますけど、私じゃないですよね」

「クロエさん意外誰が付けるんですか? ソフィアと契約しているのは誰? 私? 違いますね。そもそも質素倹約が基本の賢者はつけませんよ」


 ええええ、とまだ言うクロエさんの背中を押し、宝石店へと入る。


「こんにちは、賢者のエドリック・フキュウハです。冒険者手帳に入っている貯金がこれくらいあるのですが、良いもの買えますかね?」


 そういって非現金決済の読み取り機に手帳をかざす。


「こんなに……当店の品なら何でも買えますよ。店頭のではなく、奥から商品をお持ちます」


 そういって慌ただしく駆け回る店員。大物の買い手が来たので大騒ぎになっているようだ。


「ああ、店閉めないと」

「お客様、なにか甘いものでもどうでしょうか?」

「今店長と鑑定士をお呼びいたしますね」

「どういったものをご要望ですか?」


 フィーは黄金色の犬になっているし、妖精を連れて歩くことはそこそこの文明度なら珍しくないので店内に入れてある。


 場を取り仕切るのはソフィアだ。


「アイスクリームが食べたいわねー、ある? それと妖精の寝床を作るから、大きくて傷がついていない、固い宝石が良いわね」

「ワンワン!」

「ええ、フィーは消えれば良いじゃない。あと最後まで着いてくる気?」

「ワゥゥ」

「つまりは妖精女王が休む場所なのよ、探してるのは」


 商談が始まる。さすがにこれは男性にはついていけない。見た目を見て良いかどうかはわかるが、それ以上のことはさっぱりだ。

 今回はなるべく大きくて固い方が良いという縛りもあるし。

 間違っても、大きければ何でも良くない? とは言ってはいけない。それだけはわかる。何せ六千数百年生きてるから。


「このダイアモンドはいかがでしょうか」

「うーん、ダイアは総じて大きさがねえ」

「大きさだけならエメラルドもございますよ」

「エメラルドは壊れやすすぎるから駄目ねルビーやサファイアはない?」


 店員が奥の部屋へと向かう。倉庫に見に行っているのだろう。


「ソフィア様、アルカニアには大規模なルビーとサファイアの鉱床があります。その二つは母国に帰ってからでも良いのではないでしょうか」

「アルカニアは宝石が生まれる国として有名でございますね。存続が怪しいと聞いておりますが。あそこなら巨大なルビーもサファイアもあるでしょう」

「と言うことにはここには?」

「申し訳ございません」


 難しい顔をするソフィア。

 次の質の宝石を用意してくれるみたいなので紅茶を飲んで待つ。


「紅茶は久しぶりに飲むなあ。いつもは道草に生えている草を煎じて飲んでますからね」

「私は初めて飲みました」

「アルカニアには無いんですか?」

「いえ、あるのですけれど、私は飲めなかったというか。アハハ」


 むう? 何か深い理由がありそうですね。


「第一王女が飲めないってことは何か理由が?」

「そのー、私あまり望まれて生まれてないんですよ。兄弟姉妹の仲で一番上なんですが、まずは男が欲しかったみたいで。特にスキル資質があるわけでもありませんでしたし」

「でも妖精女王を呼び出せるのに」

「我が地方では妖精や精霊ってあまり信じられて無くて。だからこそ必死に語学や王室マナーを勉強したのですが。両親はなんとも。でも容姿が良かったので、良いところへ出せる、良い材料になる娘だと思っていたみたいです。それでー」


 それで? と促すソフィア。


「はい。六歳で王室巡りをしたのですが、私を巡って傷害事件が起こりまして」


「その美貌じゃ男も寄ってくるよなあ」とつぶやく私。「しかし望まれていない理由はまだ無いですよ」


「ええと、その際に農家行きになって貧困農家で生活することになったのです。その後も婚約希望が殺到したんですけど、それはそれで良くて。良いところに嫁げれば王女としての役割は果たせますし。ただ、ブルンツ王国が私を出汁に三回ほど戦争を仕掛けてきまして。内容は婚約したのに他の国と婚約しようとしている、とかでしたかね。それで懲罰という名の侵攻です。だいぶ土地と民と私の信用を奪われました」

「酷いわね。私だったらボコボコにしてやるのに!」

「私の国じゃ敵いませんからね。近くの同盟国と組もうと思ったらブルンツ従属から離れるつもりかと言って土地を焼かれました。アルカニア王国は独立国家なんですけれども」


 次の宝石を持ってきた店員までも真剣に聞き入ってしまっている。


「それで、災いの元だからと完全に王室から追放されて。一応十六歳で社交界デビューしたんですけど、誰も私なんか相手にされなくて。ずっと壁組でした。練習は農家にいても常日頃していましたが、踊ったことなんて一度もありません。勉強は本が無いため、持ち込めた私のノートでこれまでの復習しか。両親はなんでこんな美貌を持って生まれてきたんだと罵倒するばかりで。お前が生まれたからこの国は衰退したんだと毎日言われていました」


 涙出てきた、ハンカチはあるかしら、と涙を拭うソフィア。黙って聞いているフィー。どちらも思うところがありそうです。


「それで婚期としてはもう遅い十八歳までなんの話も無かったんです。そうしたらブルンツ王国第三王子との婚約が決まって、これ幸いとゴミ捨てのように送り出されたら到着と同時に牢屋に入れられ、手を後ろ手に縛られ、毎日殴る蹴るの暴行を受けて……性的暴行は試験みたいな物がちょっとだけ。第三王子より先に致す訳には行かなかったのでしょう。それで、二週間くらい繰り返されたと思います。一日一回臭いごはんは出たので日数をなんとなくですが覚えています。ごはんは痛みで食べられませんでしたけれども。ブルンツ第三王子が牢屋に来て、やらせろって言われて、痛くて難しいです、って述べたら、ふざけるな! 婚約破棄だ! とお怒りになって。そして骨や歯をバキバキにおられてあの処刑のシーンですね。紅茶を飲む機会が無かったのがおわかりになりましたでしょうか」


 ソフィアがそっとクロエさんを抱きしめる。私もその輪に加わる。フィーも頭を突っ込んでくる。


「大変でしたね。安心して暮らせるところまで必ずお連れします」

「私はずっと一緒よ。だって契約したんだもの」

「わぅーん」


 賢者としては未熟だが、だいぶ感情移入してしまった。幸せにしないと。あの助けた瞬間が転換点だったって思わせないと。


「そ、それでは次の商品をご覧下さい」


 そのかけ声を合図に商品選びが始まる。喧々囂々けんけんごうごうの話し合いが再開される。



 数刻経ったがまだ決まらない。うーんと、今並んでいる商品を眺めてみる。おや。


「この翡翠さ、綺麗だし色合いも良いんじゃないかな。なんだっけ、ぺんとんととして胸付近につけるのじゃ駄目?」


 ふーん、とフィアが見定める。


「ペンダント、ね。翡翠は硬度がちょっと足りないのよね。宝石としての質もちょっと落ちる。でも大きさとこの宝石自体の質は十分ね。ペンダントにしたとして、隠せるの? こんなの見せびらかしていたら野党にいくつ出会っても足りないわよ」

「単純ですが、服の中に隠しましょう。次のお洋服代ももちろん貯金から崩しますよ。コーディネーターソフィア様がいらっしゃるんですから」


 私とソフィアはハイタッチをする。私は本当疎いから頼んだ。


「じゃあこれをかなり頑丈な装飾で覆って。これつけたまま戦闘もするからさ」

「かしこまりました」


 出来るのは大体一週間後だそうです。かなり早く装飾つけてくれるみたいですね。

 伯爵領中央都市の高級ホテルに泊まって、ゆっくり体の疲れを癒やしましょうかね!


「今日は高級ホテルに泊まりますよ!」


ソフィア、フィー「わーいわーいわーわーわー!!」

クロエ「だ、だいじょうぶなんでしょうか……」

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