帝国領内編

謁見

 辺境伯領土の中央都市まで馬車鉄道で行く。


「全然揺れないんですね。凄い」

「レールの上を走りますからね、揺れないし普通の馬車より速度が出るんですよ。歩くのより全然良いですね」

「妖精と犬の分までお金取られそうになったのはあれですけどね」

「消えて貰いましたからまあ、なんとか。人数と言われれば人数ですからね」


 フィーは良いが、ソフィアは呼び直して契約をし直さないといけない。

 貯金下ろせば良かったかなあ。うん、辺境伯のところで寝床買うか。思い出の品になるだろうし。

 首都で買うのもいいけど、アガトー帝国内は鉄道馬車で移動するわけだし毎回消えて貰うわけには行かない。あれでも身辺警護の役割を果たしてるしね。

 兵士に見つかったとき真っ先に殺しにかかってたなあ。

 魔法は発射までの速度が速い。

 対応もさせない速度でのファイヤトルネードやアイスブリザードで焦げカスや挽肉にしてましたねえ。


 さて、鉄道馬車で辺境伯領土の中央都市まで到着しました。

 降りてまずするのはソフィアの呼び出しと契約。


「クロエさん、大丈夫ですか? ソフィアの呼び出しはかなりエーテルを使うでしょう」

「疲れますけど、修行です。何事も修行なんですよね? 賢者さま」

「そうよねえ? け・ん・じゃ・さ・ま」

「なんですかソフィア、言い方が変ですよ。何かあるんですか?」

「いーえ、なんでもなーい」


 さて、都市ですのでワンコになって登場して貰いますか。


「フィー! 来い!」


 じわっと音も立てずに、瞬時に登場するフィー。黄金色こがねいろの大型犬の姿で登場しましたね。これなら噛み殺すことも可能だ。殴って胴体真っ二つは出来ないけど。


「ハッハッハッ!」


 といって抱きつき、胸のあたりに前足をやるフィー。どんどんエロくなってるな……。

 クロエさんがしゃがんだら今度は胸のあたりに頭をぐりぐりするフィー。


「フィー、こっちを向きなさい」

「キャウン!?」

「あとでお仕置きです」

「クゥゥゥンクゥゥゥン」


「私はなんとも思ってないですよ! 大丈夫ですよ!」とクロエさんは言うが、言っている時点でセクハラされていることには気がついてるんですよねえ。



 さあ中央都市です。山を削って作られた、いくさをかなり意識した造りになってますね。家は石造り、障壁を貼るスキル『魔導障壁』で全体が覆われています。都市内部も鉄道馬車が敷き詰められており、人員物資の移動がかなり早くできますね。

 ここの領主は本気でブルンツ王国と戦う準備が出来ているようです。


「まずは真っ先にソルナリ・アレイシア辺境伯の宮殿か。まさかアルカニア第一王女と面会がしたいなんて言われるとは」

「武装の携帯を認めて下さったので、それだけでもよろしいではありませんこと? 最悪賢者さまはわたくしが守りますわ」

「おお、タクシア共通語による上流階級の言葉。準備は万端ですね」

「アガトー帝国語はちょっとしか話せないので、ご挨拶だけしか出来ませんことよ」


 おおー! 王女だ、王女ですね! あとは私が補佐して舐められないようにしなくては。頑張るぞ!


 宮殿へ入り、領主殿の面前へ通される。――その前に。


「クロエさまは少々きわどいお召し物を着ている模様ですね。こちらでドレスを用意いたします。平均的な人間のサイズですし、合うものはございましょう」


 ああ、執事さんに言われるまで気がつかなかった。クロエさんの洋服がボロボロなことに。

 数ヶ月野営して、厳しい山にも登ったんだ。洋服が破れるのなんて当たり前だった。

 なまじ私の洋服が『耐摩耗』の効果付与がかかっているので全然壊れていなかったために、ソフィアでさえ気がつかなかった。

 チュニックは首回りが弛んでいて胸が見えそうになっており、下着はよくぶち切られなかったというレベルの状態だ。

 スカートはボロボロに裂け、パンティーがチラチラ見えそう。チュニックの丈が長いからなんとかガードしているが。

 靴はボロボロでロングブーツの形状をなしてない。

 髪の毛だってボッサボサで伸び放題。

 これじゃ高貴な方への面前になんて立てない。


 急いで髪をカットしドレスをお借りすることに。髪の毛は長くないと貴族王族としての風格はないため、腰のあたりで綺麗に切りそろえてくれた。ブラッシングと熱の手入れで見違えるほど綺麗になった。

 ドレスはシンプルな白色と黄緑色のワンピースが体にフィットした。専門家の目利きなので大変綺麗だがシンプルだけど、腰元に絞りがあるので、三角形の頂点となってしまって胸が目立つ。セクハラ野郎でなければ良いが。

 足下は短い刺繍が豪華に入ったソックスに高級革のパンプス。ヒールの高さはさすがの六セルトメロス。履けるかなあ。

 どれもありものを調整して貰ったので、これだけで一日遅れでの面会となってしまった。


 そして領主殿の面前へと立つ。

 ハゲているがわざと剃って禿げにしていることがわかる。ガタイもかなり大きい。

 自ら率先して訓練に励んでいるのがよくわかる。兵士は気が抜けないだろうな。


 クロエさんは跪いて面を下げる。よかった。高いヒールでも履きこなしている。

 私は、どうしようか思案したものの、賢者という立場なので規則正しく立つだけにした。


「そなたがアルカニア第一王女か、面をあげい」

「ソルナリ・アレイシア辺境伯閣下におかれましては、たいへんご機嫌麗しゅうかと存じます。お目にかかれて光栄です」

「ほう、アルカニアは地図では遠い国、しかも小国と存じ上げている。アガトー帝国語を習得しているのか。聡明なお方だな」

「ここからは共通語ではなさせて頂きますわ。アガトー帝国語は挨拶が出来る程度ですわ」


 アッハッハと大笑いする辺境伯。


「共通語の方が変であるな。逃走劇で一般共通語を使い慣れたのであろう。気楽にして欲しい。別にとって食ったり、ブルンツに突き返したりなどせんから」

「そうですか、ありがとうございます。この賢者エドリック・フキュウハも安心するところです」

「賢者殿はさすがの流ちょうなアガトー帝国語であるな。ドラキア上級語は出来るか?」

「もちろん。伊達に賢者やってませんよ」


 知らない言語に困惑するクロエさんを尻目に、私とソルナリ辺境伯との話は続く。


「クロエ嬢のことだが、皇帝に面談しても良い結果は生まれないと思う。ブルンツとは敵対しているので突き返すことはないだろうが」

「それはなぜです?」

「ブルンツの失態を我が国で引き受けるとなると、緊張が高まる。アルカニア王国という小国の、王族の子娘一人の安全と、我が国が戦争になる可能性を天秤に掛けたら、どちらに傾くと思う?」

「明らかに戦争になる可能性ですね。小国の小娘で戦争になるのはいやでしょう」


「そう、我が国としては他に投げたい問題なのだ」、とソルナリ辺境伯は言う。


「この国にいるだけというのは……、引き渡し要請が来るか。敵対国とはいえ引き受けた方が安全か」

「そうなのである」

「やはり私は死ぬべきなのですね」


 急に割って入るクロエさん。


「ソルナリ辺境伯殿、今すぐ私を突き返して下さい。それで私の国も助かります。帝国とブルンツとのいさかいも起こりません」

「知らない振りはブラフであったか。よく出来た王女であるな。そして命を差し出すことも構わない覚悟。フフフ、アハハハハ!」


 急に笑い出すソルナリ辺境伯。


「こりゃ一本取られたわ。儂が一筆書こう。この国にいることは出来ん。しかしブルンツの影響範囲外の他国へ逃げれば良いのだ。皇帝陛下に、下手なことはするな、ブルンツの影響外である他の国へ押しつけろと書いてやろう。儂の文はそこそこ効くぞ、なにせブルンツの最前線だからな、最も忠義に厚い男の進言だ」

「ありがとうございます、閣下」


 なんでも、私達が通らなかった石壁が崩壊しているところはこの辺境伯が行っているらしい。あそこから転移門を奪取してブルンツ王国首都へ一気に責め立てる用意がある、とのこと。そうでなくとも、平原でブルンツ王国と地続きで繋がっている。ここもブルンツが巨大な石壁を建設したとのこと。


「よし、書いた。封蝋もしてやったぞ。アガトー帝国は最近通信が開発されてここから帝都まで通信とやらをすることも出来るが、やはりまだまだ文が効く。達者でな、上手く生きろよ」


 こうして辺境伯との面会は終わった。

 ワンピースはシンプルだったので外でも使える。高貴な人ってドレスなどは一回しか着ないから、このワンピースは廃棄処分になる。だから貰うことも簡単だった。

 冒険者ギルドで購入するまでは先ずこれで凌ごう。皇帝陛下に会うときもこれでいいだろう。冒険者や旅人は荷物を嫌いますからね。

 そしてこれから行くところにはこっちの方が似合うな。このまま行ってしまおう。


「はー、肩がこりましたね。次はソフィアの寝床を探しに行きましょう。宮殿から出る前に執事に聞いたのですが、ここは交易と鉱床で良い物があるそうです」

「良い物? なんですか?」


「それは行ってからのお楽しみです。貯金崩すぞー」

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