ぐーぴった!

 トラブルを乗り越えて数日、山も下り、道が見えてきました。ここは整備しているのかな? なんでだろう。

 道なりに進んでいくと、大きな城壁、いや、石壁か。それが天高く並んでいるのを見つけました。


「国境線はあそこですね。高い石壁は飛行生物に乗った兵士も通さないためでしょう」

「大きい城門みたいな門と、警備兵が数名いるぞ。さすがにこっちに気がついていないようだが、どうする? 通過できるのか?」

「逃げる人を通過させるほど優しい国ではなさそうですしね」


 ソフィアが「こういう人どこからから来るの? 道があるんじゃないの?」と聞いてきたが、おそらく転移門などといわれている、遠隔地を一瞬で移動できる装置で繋がっているはず。


「じゃあ、サイレンが鳴ったらその門から追加の人員も来ちゃう訳か。とりあえず私だけ行ってくるね。通れるかくらいは妖精にも話すでしょう」


 そういって一体だけで進んでいったのであった。石壁は大きいから見えるけど、門と警備兵はフィーの目だけで見える距離だから結構飛ばないといけないと思う……。


 二刻後。


 ソフィアが帰ってきた。フラフラの状態で。


「はぁぁぁぁぁ、疲・れ・た。だいぶ飛んだわよ。それで、門なんだけど」


 みんなの目線が集まる。ソフィアはゴホンと咳払いをして述べる。


「そもそも解放されたことがない、ですって。一歩先はアガトー帝国領土で、敵対関係にあるから道も整備してないし、それこそ貿易路もないんだって。鼠一匹通さないみたいなことを言っていたわ」

「そんなことだろうな、とは思っていたが。さすがにがっくりくるな。それでもここから逃げている民がいるってことは、裏道があるんだろ、それを探すか」

「そこは大丈夫、魅了魔法を使って警備のやつらをたらし込んで裏道は教えて貰ってあるわ」

「どこにあるんですか? あと少しなんです」


 なんでも、石壁は国境全てを覆うわけではなく、途切れている箇所があるそうだ。


「そこも崖だから石壁を作れないような厳しい場所なんだけど、渡れる箇所があるんですって。そこから逃げるみたいよ。あの山を越えたあとに石壁が途切れている場所まで行って渡る、こんなことが出来る体力のある棄民は一握りだから放置してるそうよ。ほとんどの民がたどり着けずに死んじゃうみたいね」

「でも、私達なら空を飛べます。石壁の上には警戒・警報スキルが展開されてありますが、その途切れている場所までは飛んで行けますね」

「そういうこと。じゃあ私は特等席に乗りまーす」


 といってクロエさんの服の中に入るソフィア。何やってるんですか1?


「そこが特等席!?」

「そうよ、契約者の心臓に近いところが一番エーテルを補給できるの。今まで補給しに世界樹まで帰ってないのはこのためよ。ふふふ、おっぱいを枕にすると気持ちよく眠れるのよーいいだろ」

「クロエさんもなにをさせてるんですか!」

「え、いや、こういう物だと思ってました。でも別に減る物じゃないですし大丈夫です。風から守られますし」

「お、俺も服の中に入れる子犬になって……」

「誰がクロエちゃんを乗せて飛ぶのよ! エドのフライはまだまだ修行が足りないじゃない!」


 クウゥゥゥゥン。


 仕切り直して。


 石壁が途切れているところまでフライで飛んでいく。

 途切れたところは断崖絶壁で、本当に壁が作れないから放置したというような所だった。


「まあここは俺に任せろ。水平ジャンプで空中を蹴って、壁の隙間を越えられる」


 先ず私とフィーが飛び、そしてフィーとクロエさんが飛ぶ。

 全員石壁の向こう側に行くことが出来た。


「これで無事にブルンツ王国から脱出しましたね。近くの宿場町へ行きましょう。国境近くには大抵ありますから」

「はい! 長かったぁ……」


 アガトー帝国はここまで街道が整備されており、すんなりと宿場町まで行くことが出来た。文明度の差を感じますね。

 門をくぐって入ろうとした瞬間。


 ビーン。


 クロエさんに警告がなってしまった。

 衛兵が駆けつける。


「わわわ、私何かしましたか!?」

「ちょっと待てよ。うんと、人物パターンがクロエ・レイノルズ、アルカニア第一王女と一致してるとのことだ。この国で何か申請したいなら皇帝に面会して申請してくれ。宿場町や町ではなんの申請も出来ん。あと国から離れた場合は逃亡と見なし処刑する、だとさ。難儀だなお嬢ちゃん」

「は、はい。わかりました。王都に行けばよろしいのでしょうか。私が身柄を拘束されるということは?」

「帝都な。身柄はなにも書いてないから大丈夫だ。この町で引っかかったってことはブルンツの抜け道を通ってきたってことだろ、せっかく逃げたのに、亡命申請をしに帝都まで行くなんて気の毒だな。しかも相手は皇帝様だ」


 よく話を聞くと、反対側の石壁に大きな穴と洞窟があって、結構簡単に逃げられるみたいだ。山も中腹に分岐点があるらしいとのこと。ブルンツ王国は予算が下りなくて放置しているらしい。私達が通ったのは旧道ということになる。まあ、ノーリスクでしたが。


「がんばれよー、お姫様ー」などと応援を貰いつつ真っ先に向かったのはそう。

 宿屋である。

 二階建てだったので、二階の一番大きい部屋を借りる。もちろんベッドは二つだ。

 ぐーぴったをしてどちらが先に風呂へ入るかの権利を掛けて争う。


「最初はグー、ぐーぴった! あいこでた! あいこでた! あいこで――」


 相性がいいのか悪いのか、あいこが出てばかりで決まらない。十三回目のあいこの後、私がグーでクロエさんがチョキを出し、勝負が決まった。


「えーん、賢者様なのにえげつないです。庇護下にある人を優先して下さいよう」

「それはそれ、これはこれです。何ヶ月お風呂に入らなかったと思ってるんですか」


 お湯がたまるのも惜しかったため、水を出すスキル『クリエイトウォーター』、暖めるスキル『ウォーム』でお湯を作り出し風呂にお湯を溜める。そして浸かる。


「はぁぁぁぁぁぁ、癒やされる。ここのお風呂はデカくて気持ちが良い。天国。

 等と思っていると五千年ぶりのトラブルが起きた。


「――失礼しまーす」

「はぁ!? まだクロエさんの順番ではありませんよ!?」

「ここのお風呂は大きいと聞いて入りに来ました。本当に大きいですね。これならい、い、い、一緒に入ることも」

 クロエさんは寝間着に下着を身につけているから多分透けない。下着までは透けるだろうけど。

 一緒に入ることもそう悪くはないだろう。

 健全に過ごせば。

 ただ賢者としてのわきまえというのを示さないといけない。


「いいですかクロエ、いくら一緒に冒険しているとしても――」


「私だって好きな人の一人や二人居るんですよ!!」


静まりかえる浴槽。


「……あ、賢者様の下着を持ってきてないですね。ソフィアさーん」


 なんかどんどんペースに飲まれてるっ!? こういうときの女子って強いですね!?


「はい、下着です。私あっち見てますからその間に」

「はい、はい。穿きました」

「これで一緒にお風呂入れますね。賢者様って我が国の騎士団長より大きいんですねー」

「見てるじゃないですか……」

「あはは、身長です!」


 この後はお風呂に浸かりながら数ヶ月間クロエさんが頑張ったことを褒めたり、身の危険がなくなったので都市に遊びに行けるだろうということを話したり、どうしてもというので体洗って貰ったりしました。

 さすがに洗い返すのは賢者として自制しましたよ、下着と寝間着着てますしね。


 絶対ソフィアの仕業だと思って風呂上がりに問い詰めると、「楽しかったでしょ? クロエはかなり嬉しかったみたいよ」と。そういう問題じゃないんだよなあ。


 次の日馬車屋から話を聞くと、大体一ヶ月で帝都に着くことが出来るそうだ。馬車が鉄道馬車しかないので、遠くとも道が整備されているのだろう。


 お話は聞けたしいいや。ここは辺境伯爵の領地になるので、ちょっと伯爵領の中央都市に遊びに行ってきます。一週間くらい遊び倒しても文句ないですよね。文句ない、賢者が許す。

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