クロエと風邪の仲間(トールキン風)

 通常の道らしい道がない中、逃亡者が作ったであろう小さい道を発見。国として放置して良い物なのかと思ったが、逃げる民など相手にしてないのかもしれない。


「やはり山の高所を通過しますね、この道は」

「小娘、俺に乗っておけ。山登りは相当疲れる。足を引っ張ることになるぞ」

「ありがとうございます、フィーさん。お言葉に甘えて乗らせて頂きますね」


 じゃあ、山登り開始です。


 フィーが言ったとおり、道が狭くて石もゴロゴロ転がっているため、これをクロエさんが歩いて行くのは相当疲れますね。

 即席山岳ブーツは保険ですね。

 勾配もキツく、まさに逃げるための道。こんな道を武装した兵士が登るのは難しいでしようね。


 早いペースで登って行ったのですが、クロエさんにちょっとトラブルが。


「クロエさん、これは高山病ですね。まだ登りますし一度引き返してまた登り直しましょう」

「頭痛いのと吐き気だけなので我慢すれば」

「高山病は死ぬ。さっさと下りるぞ。エドのペースが早すぎたな」


 一度下山することに。


「高度順応した方がいいかもしれませんねえ」

「ああ、身体を慣らさないと突破できないかもな」

「フィーの目測でどれくらいあったの? フィーは私より目測が上手いわよねー」


 フィーはふふんと鼻を鳴らす。クロエさんや私にはみせませんけど、意外とプライド高いんですよね。精霊王だから当然かもしれませんが。クロエさん相手にはただの犬になってますが。


「一番近いところまで進んだ際の目測だが、予想した二千五百を超えていそうだ。逃亡者の道を使うと三千超えちまう」

「逃げる民の死体も結構ありましたね。標高の高さに耐えられなくて死んでしまわれたのでしょう」

「エドー、フライで飛んでいけないの?」

「私一人なら出来ますが、今以上に早く上昇するんです。クロエさんが持ちません。歩くしかないです。ただ横に進める場合はフライを使います。高度が上がる方が怖い」


 空を飛ぶスキル『フライ』はスキルとしては原理が解明できていない。

 妖精の飛翔魔法を真似たものだ。速度調節がかなり大雑把にしかできない。

 浮遊するスキル『ホバリング』と掛け合わせればいいのかもしれないが、スキルが反発しあって上手くいかない。もっと年数を生きてスキルの熟練度が上がらないと無理だ。

 年数を生きている母や、わが都市の衛兵は使いこなして飛び回っているけれども。


 高度順応は山に登って数日過ごし標高に体を慣らし、それを繰り返しだんだん高いところまで行けるようにする登山方法だ。


「ゆっくり登る、というだけなんですが、相手は山ですからね、悪天候に見舞われるのは覚悟しなければ」

「何しろクロエちゃんよね。エリアシールドで雨風から守りつつ、フィーに温めてもらいましょ。テントはエド持っているんでしょ?」

「エリアシールドは雨風しのぎますが、しっかりとエーテルを込めない限りは完璧ではないです。テントは持っていますし寝袋もありますが、高山向けではないです。それでもある程度はしのげます」

「悲観的ねえ! エーテル毎回完璧に込めなさいよ! テントの中を暖めるスキルくらい持ってるでしょ!? あんた膨大な量のエーテル持ってるし回復力もめちゃ高いんだから! 質素倹約なんて言っている場合じゃないの! ハンマーで殴ってやろうか!?」


 怒られた。でも正論なので言い返せませんね。エーテル使います。


 もう国境前、日数もかけられないと判断して登山開始。

 フィーの目測で五百メロスおきに高地順応しつつ進んでいく。

 今回は高山病にかからずにすみそうだ。


「もう二千五百メロスに来ましたか。何度か酷い吹雪に見舞われましたね。うーんこの標高だと酸素が薄いから薪が燃えにくいですね。意外と海抜は高いのかもしれない」


 薪が燃えなくても、スキルで燃やせば良いんです。


「火炎が地面で燃えるスキル『ファイヤサークル』で煮炊きしましょう。スキルパワーをコントロールすれば小規模でよく燃える火炎になります」


 そんなことをのんびり考えていると。


「エド、クロエの様子がおかしい。風邪でも引いたんじゃねえか」

「ちょっと私に見せて、簡易診察魔法メディカ。うん、風邪ね。汗もかいてる、熱があるのね。クロエ、高山病は大丈夫?」

「はい、高山病は大丈夫です。私の体調は気にせず進んで下さい」

「アホ。熱を放っておいたら死ぬぞ。山を舐めるな。エド、ここでキャンプだ。寒いがファイヤサークルで熱は発生するだろ。テントを用意しろ」


 すぐにテントを取り出し、組み立てる。小さいテントだけど私とクロエさんが寝るくらいなら優に入れる大きさだ。一人分は荷物置きとして、三人くらいは入れるような感じだろう。


「クロエ、すぐにテントに入って。エド、汗を拭くからタオル。薬草はある?」

「はいタオル。薬草は種類は少ないですが持ってます。風邪薬なら作れますよ」

「じゃあ調合が得意な妖精を召喚するから作らせて。テントの中は見ちゃ駄目よ」

「ちょっと待ってください、フィー、テントに入る手頃な岩を持ってきて下さい。あと寝袋を先に」


 フィーが動きすぐに持ってくる。岩が多い山ですからね。


「ありがとうフィー。暖めるスキル『ウォーム』。スキルパワーを調節して。こんなもんか。クロエの近くにこれを。寒さをしのげます」


 大量に召喚した妖精達に運ばせるソフィア。私とフィーなら軽々と持てるこの岩も、妖精じゃ重いですもんね。


「この中は女の園よ。絶対覗いちゃ駄目だからね」

「わかりました。クロエさんをよろしくお願いします」

「俺がいなくてさみしくないか? 子犬になって寄り添おうか?」

「女の園って言ったでしょ馬鹿犬!」


 マジカルハンマーを呼び出し思いっきり頭をぶっ叩くソフィアであった。

 まあ、叩かれるのもしょうがないですね。


 三穀六草で作られた薬を飲ませたり、暖かい汁物とやわらかいパンを食べたりして看病されるクロエ。

 ただ、スキルを常時展開しているのでそれに釣られて魔物が寄ってくる。


「スキルパワーがある場合、初歩スキルが一番便利だったりするんですよね。エネルギーをぶつけるスキル『エーテル・ショット』」

「俺は空中を蹴って駆けることが出来るからな。雑魚相手に後れは取らん」


 次々に魔物を落としていく私達。

 ただ、夜間はやっかい。寝ないといけませんからね。二交代と、攻撃が強い妖精で対処する。

 夜中起きないといけないのは眠くてしょうがない。でもクロエさんのためだ、頑張ろう。



 三日後。


「元気になりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「なに言ってるのクロエちゃん。私達は仲間じゃないの」

「仲間……ですか」

「そうだぞ、仲間だからみんなで助けたんだ、小娘」


 クロエさん、なんだか嬉しそうですね。今回のトラブルも結束を深めることになったんじゃないでしょうか。


「それじゃあまいりますか。もうすぐ道の頂上付近ですし、後は下山するだけですのでなんとかなるでしょう」


 フィーだけじゃない、多数いる仲間の旅っていいもんですね。

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