防寒具

 ソフィアの機嫌を直して山道とやらに到着。ここから山を越えていく、の、ですが。


「道らしい道が、ほとんどないですね。防衛のためにろくに道を作っていないのでしょう」

「標高も高いところまで登りそうだな。足場のある道なりに行くと、うーん、三千はなさそうだが、二千五百はありそうだ。山頂は雪がある。冷える山だぞ」


 といって私たちはクロエさんの方を見る。


「エドは賢者のローブを装備しているから良いが、クロエの服装じゃ無理がないか?」


 そう、私はいいのだ、綿の長ズボンに長袖で。特に上着も着る必要がない。賢者のローブは恒常性を高めてくれるから暑くも寒くもない。

 しかしクロエさんは違う。ただのチュニックにスカートだ。靴はロングブーツだし、全然駄目だ。フード付きクロークも人目から避けるためなので薄い。


「どうしましょ」

「そんなに駄目ですか?」

「全然駄目ですね。二千メロス級でも山を舐めない方が良いです」


 町で買う、というのはちょっと無理な現実だ。

 もう数ヶ月も歩いて移動したので、国内には私やクロエさんの手配書が隈なく届き渡っている。

 この国は町に出入りする際の検問に、マジカル道具の検知器を使用している。クロエさんは体液から個人情報を取られているはずだから検知器に引っかかるだろう。

 つまり、町に出入りできる状況ではないのだ。

 まだクロエさんを狙っているのは気持ち悪いが。

 諦めてくれないものだろうか。


 村は放棄された村を通ってきたので周辺にはないだろう。


「方法は二つ。町に忍び込むか、自作するか」

「どちらもリスクあるわねー。私が本気出せればな。山一つ超えるくらいなら、防寒魔法を発動させ続けられるのにね……」

「私は自作が良いです。町に入って見つかったら血が流れてしまいます」

「じゃあ、自作しますか。裁縫道具は持ってますので。ウカブーの革がバックの中にあったので、それに羽毛を詰め込みましょう。靴はロングブーツを改良するしかないですね」


 放棄された村へと足を運び、そこを拠点とする。全部の家が潰れたわけではありませんからね。

 比較的形が残っている家を簡単に補強して、拠点としました。

 村の倉庫から手から砂が出るスキルブックを入手しホクホク顔。

 さて、鳥を仕留めますか。鴨やダチョウ、アヒルが良いんですが贅沢は言ってられません。


 洗浄と羽毛をふわふわにするのはソフィアに任せて、私とフィー、クロエさんで狩りに出かけます。


「ストーンゴーレムを呼び出しました。この子のストーンバレットで狙撃を試みます!」

「小娘には操作するの無理だと思うがな」

「さて、どうでしょうね。さあ、今まで行ってきた訓練の成果をここで発揮するときです」



 クロエさんに狩りをする際の注意点を教えよう。

「魔物はそうでもないんですが、野生の動物はスキルに厳しく反応します。万能電探『センシング』などを使ったら一発で逃げてしまいます」

「そうなんですね。精霊も駄目なのでしょうか」

「精霊は常在存在なのでそこまで厳しくありません。でも危険と思ったら逃げだします。息を潜め、存在を隠し、ゆっくり近づくのです。このスキルは存在を隠すので有効です、隠れるスキル『ハイドアンドクローク』」


 シュン、と自分たちが自然に溶け込んでいく。数秒で完全に見えなくなった。


「これじゃ二人の場所がわからないので私はもう少しレベルの弱いスキルにしますね、隠れるスキル『クローク』」


 すると私は少しだけ見えるようになった。


「これで探せますね。どうやって探すのですか?」

「しらみつぶしに池などを歩くのも良いんですが、ちょっとだけ便利なスキルがあります。感知スキル『パッシブソナー』。これでこちらに発せられた情報をすくい取れるんです。同期スキル『シンク』」

「うあああ、あたまのなかがぱんくしそう。すごいじょうほうりょうがはいってきます」

「慣れるのも訓練です。ああ、フィーは一羽仕留めたようですね。さすがだ」


 フィーが頑張っているのをよそに、ゆっくりと池に近づく。池には何羽か鳥が水を飲みに来ていた。


「じゃあ狙える位置まで行ってストーンバレットを撃って仕留めて下さい」

「はい」


 そっと動くクロエさん。今のところ見つかっていない。ちょっと遠いところからストーンバレットを撃った。残念、遠すぎてストーンバレットに気がつかれてしまい、逃げられてしまった。

 そっとクロエさんに近づいて話す。


「もっと近づかないと、今のストーンバレットでは速度が遅すぎて当たりませんね」

「難しいです。賢者様はどうやるのですか?」

「そうですねえ、うん、あの鳥は羽毛が柔らかそうです。エネルギーをぶつけるスキル『エーテル・ショット』。――当たった」

「弾速が、速い……! あんな遠くのを」


 何度もストーンバレットの練習をし、一回も当たらなかったけど、私が三羽確保したところで夕暮れになってきたので終了。


「ただいま戻りました。ソフィア、この三羽をお願いします」

「はいはーい。毟って解体ね。そこそこ大きなの取れたわね、ガラ二羽とドガラ一羽か。臭くて食べるのはちょっと無理ね。フィーがトルトル一羽仕留めてきてあるから、今日はそれのシチューよ」


 そうなのである。ソフィアが下っ端、つまり妖精女王よりも下級の妖精を召喚して料理もやってくれているのである。自分はなにもしていないが。洗浄も乾燥も羽毟りも調理も、全部下級妖精にやらせている。なんと、ロングブーツの改良までしている。ゴムの取り替えやくるぶしより少し上でカットして動きやすくしたりとか。妖精って何でもできるんですね。

 なにもしていなくても、下っ端を召喚できるのはもの凄いことなのだから全然良いのですが。

 多分二十体くらい召喚してます。

 ここにクロエさんが加わるといつも以上にみんな元気でニコニコになるんですよね。だから能率がアップします。

 クロエさん、凄い才能を持ってますよね。


「妖精さんがいっぱいだと凄い賑やかで良いですねっ」


 ニコニコ顔で調理に加わるクロエさん。

 本当はこんな感じに人を使う立場なのに。不憫さを感じてしまいます。


 一ヶ月くらいみんなで頑張って、即席の防寒具と山岳ブーツが出来上がりました。

 上下セットでサイズはバッチリ。クロエさんにあわせました。


「ウカブーの革は少々固いですけど熱を通しませんし、中身は羽毛なので大丈夫なはずです。裁縫は私得意ですからね、機械も持ってますし」

「ありがとうございます。これで山越えをして、アガトー帝国へまいりましょう!」

「おー! 妖精達もみんなやる気いっぱいだよ!」

「ワウワウ、グルルル」


 そう唸ってフィーは胸に頭をぐりぐりする。最近わかったんですが、胸をいじってますよね、それ。

 クロエさんも気がつかれているはず。胸が大きい人は大変だ。

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