隠蔽生活編
苦難の始まり キャンプと襲撃
フィーが走れば二日もかからない道を、三ヶ月かけて歩きました。
「この山を越えれば国境だそうです。長かったですね」
「ソフィアさんともなかよくなれたし、私は満足した旅でした」
「そうねー、結構私の力が凄いことを思い知ったでしょう! 妖精は魔力と魔法を使うからね!」
「現代の技術では解明できない力とか、なんかロマンチックで憧れます」
くぅぅん。
「そうですね、フィーとも遊べた旅でしたね」
「ふふ。山を越えるのは明日にしましょう。もう日が傾いてきてます。近くの野営設備で泊まるとしましょう」
野営設備はちょっとした小屋にたき火炉があるだけの小屋だが、雨風をしのげる。
屋根だけがあるもっと簡素な場所も存在する。
宿場町と宿場町までを歩く場合は数日かかるので、こういう場所が設置してあるのだ。
ここはちょっとした小屋だった。雨風がしのげそうだ。
薪を燃やせば暖も取れる。
先客はいない。
私が薪をボディバッグから取り出すと、エッヘンとばかりにクロエさんが三脚と吊り下げ鍋をバックパックから取り出す。
そして薪をノコギリでギコギコやって切り込みを入れ、出てきた細かい粉を集めると、それに向けて火打ち石を改良したものをナイフの背で滑らせて火をつける。
「上手く粉に火が回りましたね。細かい枝はソフィアが今取りに行ってます」
「お待たせー、枝持ってきたわよ」
ソフィアは空中に大量の枝を浮遊させ持ってきた。細かい物はソフィアの独壇場だ。
「はい、フィー、乾燥して」
「俺は眠いんだ」
「クロエちゃん、フィーは食べ物要らないって」
「はーい、わかりましたー」
「冗談だよ乾燥するって! ワンワン!」
フィーがカラッカラに乾燥させた枝。
それを粉の火に近づけて燃やし、だんだん火を大きくしていく。
薪に火がついた。
「よしっ、これで私も一級野営人にっ」
「おめでとー、早速鍋を吊して食材煮込みましょう。エドー」
はいはい、とばかりに食材を出してゆく。
私のボディバックは大型でマジカル強度がかなり強く、なんでも入るし、入る量も潤沢だし、内部空間は時間がほぼ止まっている。
新鮮なお肉や野菜が食べられるのだ。
「今日もシチューですね。食べたら少し薪を取りに行きますかね。フィー、ソフィア、お手伝いお願いできますか」
了解、と言う声と共にシチューが出来上がった。パンはやわらかいロールパンだ。賢者の食卓はどこでも整っている。
「グフーお腹いっぱい。これから薪集めかあ」
「もう手持ちが少ないですからね。森があるうちに集めておきたいです。枝はソフィアの主戦場でしょう?」
「俺はこういうの苦手だからここらで――」
「生木を切り倒すのですから、乾燥させるのはフィーがいないとねえ。生木のまま提供されたら燃えませんけど、クロエさんなら自分の責任だと思ってしょげますよ?」
「しょ、しょげないです。でも燃えない責任は感じるかもしれません」
ワウゥゥゥ。
そんなわけで疲れているクロエさんを残して三人? で出かけることに。すぐそこに森がある。
薪はデカイの二本くらい切り倒せば十分かな、物を切断するスキル『チェーンソー』でサクサクと切り倒す。
どれだけ生木で身が詰まっていても、私のスキルパワーを存分に発揮すれば切れない木はない、はず。
そうしたらフィーが精霊力を行使して乾燥させ、そのあと細かく裁断していく。スキル種類を変え物を分断スキル『チップソー』にすればサクサクと切れていく。ちなみにチップソーは射出が出来る。もの凄い切れ味なので攻撃にもなる便利な物だ。
物を吸引するスキル『バキューム』で、薪と、おが屑を集めたら一丁上がり。
「これで当分は持ちますね、ソフィアの方は――」
きゃぁぁ!
何かを考える前に体が動き出す。目指すは野営設備の小屋。
「乗れ!」
フィーが併走し騎乗を求めてくる。それに飛び乗る。
猪突猛進で小屋へ向かう。小屋の扉を開く。
誰もいない。
「匂いでいけますか?」
「わからん。ただ、雨は降っていないしそう遠くにはいってないはずだ」
物を探知するスキル『ディテクション』を使う。
「足跡が見える。匂いはこっちです。嗅げればクロエさんの匂いを追っていけるでしょう」
私の指示した方向をクンクンと探すフィー。首を振る。
「袋に入れられたか。匂いを感じない。男の匂いはわかるが。総合電探の『センシング』は使えないか?」
「相手の構成がわからないと厳しいです。逆探知されるとクロエさんに被害が及ぶかもしれません」
「仕方ねえ、お前を乗せるからディテクションで指示してくれ。俺よりスキルの方が正確だ」
ディテクションと、まだ近くにいるだろうとのことで聴覚上昇のバフ『イヤー・バフ』をかけて発進。
どんどんと森の中へ進む。
「鬱蒼とし始めましたね、ちょっと負担が大きいですかスキルを同期させるスキル『シンク』をかけます」
「ほいきた。いやあ足跡がよく見えるし男のくせえ匂いがよくわかる。これなら見失うことはないぜ」
足跡を進んでいくと、かすかに声が聞こえる。
「殴っても殴っても刃向かう奴だな! 殺しちまえ!」
「……の精霊さん、来て!」
「誰でも――妖精さん来て下さい!」
「フィー!」
フィーは腹の底からうなり声を上げると、
「俺を呼べええええええ!!」
と叫んだ。
「私は走っていきます! 先に安全の確保を!」
「任せろ、よし、呼びそうだ!」
次の瞬間、ヒュン、と、フィーが消える。無事に意図が伝わったようだ。
遅れて私も現場に到着した。どうやら山賊の小屋らしい。
中では暴れ回っているフィーの音が聞こえる。
私もドアを蹴破り中へ入る。
自動で各種スキルを使うスキル『オートスキル』が発動し、体中の能力を引き上げる『オール・バフ』、棒の表面に『粉砕エネルギーが張られる』。防御は『メイジアーマー』だ。
一階は血の海だった。六体ほどフィーの本気パンチで胴体が粉々になった後がある。三体ほど囓られて下半身が消えて呻いている人物がいる。
クロエさんとフィーはもう既に一階にはいない。二階か。
二階へと脚を進める。二階はそこまで血ぬれではなかった。
聞き耳を立てると、奥の部屋から声が聞こえてくる。
「あと少しだったな怪物。この気絶した娘がどうなっても良いのか。駄目だよなぁ? じゃあ俺の言うことを聞きな」
「グワァァァ!!」
中で膠着状態に陥っているようだ。どうするかな。ふむ。
「総合電探スキル『センシング』。目標を補足。どっちにかかっても膠着状態は解除されるから……人と人を取り替えるスキル『スワップ』」
ヒュンッ。
成功、クロエさんを外に出した。
と同時に杖についているエネルギーでズタズタに引き裂いて決着。最後はあっという間だったな。
「お疲れ、フィー」
「今回は遅いぞ、エド」
お互いの手でハイタッチして、クロエさんを山賊小屋の外へ運び出したのでした。
その前に宝箱漁ったけども。誰の物でもないし、山賊の宝のままじゃもったいないし。最後この小屋燃やすし。
「踊るスライムを召喚するスキル『ダンシングスライム』だそうですよ、今回の戦闘もこれで価値が出たという物です」
「どうでも良いスキル集めるの好きだな、本当に」
「まあ、趣味みたいな物ですから」
後は小銭くらいしか良いのがなかったので、業火を発するスキル『インフェルノ』を使って三分ハウスザファイヤー。
オイルポーションもぽいぽい投げ込んで燃えーろよー燃えーろよー。
山火事にならないようにしつつ、燃やしきりました。
「んん……ここは」
「野営小屋の中です。そして英雄フィーのもふもふの中ですよ」
穏やかな声でそう答える。
「あ、賢者様……。フィー……呼べって言われたから呼んだんですが」
「素直に従ってくれて良かったぜ。精霊は、召喚者のエーテルとは別に自分自身のエーテルが尽きるまではその場に居ることが出来るんだ。俺は精霊王だからな、三刻四刻くらいはあの場で暴れ回れる」
クロエさんはやわらかーい笑顔になって、
「ありがとう、フィー。来ると思ってました。モフモフが暖かいなあ」
「普通は温度なんてないが、暖めてやろうと思ってな」
なんか暖かい空間ですね、薪も燃やしてますし。一ヶ所だけ猛吹雪ですが。
「なんで私を呼ばなかったのよー!! 私今回枝いっぱい拾っただけじゃないの!!」
「呼んで、妖精さんはきましたけど、ソフィアさんではなかったですね」
「ムキー!」
ソフィアのご機嫌取りも含めて、山越えチャレンジは数日後かな。
まあ少し休める期間だ、と思うことにしよう。
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