高級ホテル

 今まで高級なのは宿場町の大きい部屋。それが高級ホテルに泊まったら、それだけで大はしゃぎ。

「ベッドがふかふかです。キングサイズベッドが本当に大きいです……」

「ちょっとエド、この檸檬水飲み放題ですって! 全部飲んじゃいましょ!」

「手ぬぐい取り放題だぞ、エド。冒険に使えそうだな」


「止めなさい二人とも、みっともないです。出禁になりますよ」

「……え」

「って、一番最初に檸檬水を飲み干した人はクロエさんですか」

「て、てへ」

「この二匹の行動に引っ張られすぎです」


 ホテルの人に謝罪しなくては。


 ホテルの人を呼び出す。


「すみません、慣れて無くてこういったことを」

「いえ、全然構いません。当ホテルはお客様が快適に過ごせればそれで良いのです」

「申し訳ありません、ありがとうございます」


 事なきを得た。ただやりすぎないようにしなければ……。

一晩寝る。夕食なしにしちゃったのは悪手だったな。

この日くらいクロエさんの夢を叶えてもいいだろうと、手を握って寝ることにした。


「やっと思いが伝わった」


などと泣いていますが、そこまでじゃないですよー今晩だけです。


何事もなく翌朝


「ここは犬が遊ぶ施設ドッグランという物があるとのことです。犬ころ、行ってみたらどうだ?」

「エドと遊んでなにが面白いんだ」

「え、私と遊ぶんじゃ無いんですか? そっかそうですか、ふーん」

「行きます行きます、行かせて下さい」

「ぷんぷん。ふふ、冗談です、遊びに行きましょう。力入れると壊しちゃいそうなので力入れては駄目ですよ」


 まあみんなで行くわけだが。


 ドッグランは結構広くて、大型犬でも遊べそうな施設だった。


「斜面を走りながら紐を引っかけないで障害物を避けて進むんですって。やってみましょう」

「ワンワン! ワオーン!」

「遠吠えは駄目です! オオカミとバレますよ」

「クゥゥゥゥン」


 息を合わせて走る二人。クロエさんも修行の成果が少しずつ出てきて、素早く動けるようになってきたな。


 楽しく遊ぶ二人を尻目に休憩所でゆっくりと紅茶を楽しむ私とソフィア。


「こ、この紅茶美味すぎる」

「ありがとうございます。特選の紅茶を専門のお茶入れ掛かりが注ぎますからね」

「はー私ここに住みたい。妖精女王の祝福があれば商売繁盛間違いなしよ」

「クロエさんがいないといられないでしょうに。クロエさんをここに滞在させられるのなら話は別ですが」


 ぐぐぐ、と苦い顔をするクロエ。ここに一生いることは不可能に近いですからね。


 さて、十分遊びましたかね。クロエさんは汗びっしょり、フィーも満足そうです。ソフィアはもう一杯紅茶頼んでますが。


「それでは最後に朝食を食べて終わりにしましょうか」


 クロエさんのシャワーを待って――最近はソフィアが一緒に入るから犬の入る余地はない――、みんなで朝食に行く。

 朝食はビュッフェ方式という物で、自分で好きな食べ物を取ってきて食べるらしい。

 我々冒険者・旅人が食べる量に周囲が引かなければ良いが。


「野菜食べてなかったから野菜食べたいですね」

「妖精は野菜食べなくても良いんだもーん。甘いもの食べよっと。なにこれクレープだって、蜂蜜とホイップたっぷりで美味しそう、これたーべよっと」

「私はバランスよく食べます。体型維持しないと――賢者さまに嫌われちゃう」

「わんわん!」

「お前は肉だ。質の良い牛肉が食えるぞ」

「わん! わんわんわん!」


 嬉しそうに尻尾を振る黄金色の中型犬になっているフィー。他の宿泊客からかわいー触ってもいいですかなどといわれてナデナデされている。


「凄いもふもふ! なにこれ、綿菓子みたい! すっごいもふもふ!」

「ヘッヘッヘ」

「お手、おかわり、くるっと回ってワン! 凄い、見事にこなしている。躾けが良いんですね!」

「頭良いんですよ。あんまり躾けはしてません。この首輪と紐は保険です。本当に頭良いので。そう、頭良いので女性の所いくんですよ、エロ犬なんです」

「グルルルルル」


 凄いなー凄いなーと言われるフィー。ちょっとした主役だ。


 みんな存分に食べたところで朝食タイムはお開き。いやー食べた食べた。ホテルに申し訳なく感じるくらい食べた。チップは弾んでおいたけど。


 朝食も終わったので出発時刻前に外に出る。ふわふわのベッドは名残惜しいが、二度寝してもう一泊する可能性がある。さすがに困る。


「はーこれからは宿場町の硬いベッドかあ。まあ私はもふもふふかふかのおっぱいベッドだけど」

「それももうすぐおしまいですよ。一週間で出来上がるんですから」

「ふふふふ、宝石ベッドに入った者にしかわからないことだけど、快適度は、申し訳ないけど、ごめんなさいだけど、クロエのおっぱいを凌ぐのよね」

「あの、そもそも私のおっぱいそんなに凄くないです。恥ずかしい」


 顔を真っ赤にしているクロエさん。まあソフィアはお調子者で意地悪な面がありますからね。


「ソフィアもおっぱいベッドが悪いとは言ってませんから」

「――賢者さまもおっぱいベッド体験したいですか?」

「ただの不老族なら体験したかったかもしれないですね。さあ、宿場町行きの鉄道馬車が来ました」


 宿場町直通の鉄道馬車があるなんて。

 戦争の際の住民退避に宿場町は使って良いので即座に移動させたいんですね。

 鉄道馬車は馬を増やせば客席を連結できる。

 本当に戦争に備えた良い戦闘都市だ。

 住民のことも考えているとはね。


 さて、宿場町に到着。宿屋がデカい!こりゃ辺境伯から支援金出ているんだろうな。しかしここまで手厚く、兵士数も分厚く出来るなんて。隣国とは敵対しているし、北は中央世界樹及び大陸を東西に貫くアルキア大山脈に阻まれているのに。お金の出所がわからない。


「ソフィア、この近くに鉱脈とかあるんですか?」

「宝石商が素晴らしいものをずらりと並べたでしょ、あれは多分ここから産出しているものよ。交易貿易じゃ手に入らないわ。あと石炭とか鉄の匂いもするって偵察妖精が言ってる。莫大な鉱物資源があるのよ」

「鉱石か。特に石炭と鉄ね。それで鋼鉄製の鉄道馬車がここまで揃えられるんだな」


 宿場町で各々訓練に励んだり、私とフィーで魔物討伐に出かけたり、蜂蜜かけアイスクリームを食べたりしながら出来上がるのを待つ。

 まあこういうのは良いんですがちょっと困ったことがあって……。


「賢者さま、もうそろそろ皇帝陛下と会います。私怖いんです。一つのベッドで添い寝して良いですか?」


 というね。断るわけにもいかず許したんですが。


 私をぎゅっと抱きしめてくるんですよね。しかも胸が当たるようにね。背中にぎゅってするときは押しつけてきますし、腕だけの時は挟んできますからね。


「クロエさん、絶対わざとですよね」

「え? なにがですか?」


 クロエさんが死にたくなる気持ちをなくし始めているのはわかります。ただ賢者に恋するのはちょっと……。


「クロエさん、賢者の中立性を舐めないで下さいね」

「よくわかりませんけど、わかりました。私も舐めないでください」


 さて、そろそろ宝石が出来上がっているころです。

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