使役
クロエさんがお風呂から上がったので代わりに私が入る。
お風呂の代金は一回0.03ドルエン。シャワーが30分0.006ドルエン。干し肉の塊が大きくて0.65ドルエンくらいだから大分安い。
ちなみに宿泊はギルド会員なら1人あたり2ドルエン、賢者だと無料。お風呂もシャワーも無料。
賢者集団が宿場町ネットワークの維持管理そして輸送のお手伝いをしているので宿場町ネットワークの使用料は格安だし、賢者には特権が貰えるんですよね。
賢者は長老種、つまり、エルフにグランドエルフ、熊人や象人、妖精や自我を持った精霊、中央世界樹の木に存在していると言われる不老の水を飲んだ者、そしてわれわれ不老族などがなれます。厳しい試練を受けて、乗り越えてね。
湯船に浸かったあと石けんや毛髪用石けんなどで体を洗う。注ぐところに手を差し出すとぴゅっと液体石けんが出る仕組みだ。1回0.0001ドルエン。出されすぎ対策として一応お金とるといった程度か。ここら辺も賢者なら無料。
ざーっと洗って綺麗に流し、風呂を出る。そして下着姿で部屋に戻り――
「す、すみません!」
クロエさんにそれを見られて撤退する。
フィーが替えの服を持って近づいてきて股間を噛まれた。ヤメテ!
「す、すみませんでした、ついうっかりいつものパターンで」
「申し訳ありません、私が女の子なばかりに」
「すまんな、小娘。エドは結構あほなんだ」
そうしてフィーはベッドに腰掛けているクロエさんの太ももに中型犬サイズになって乗っかる。
自然とクロエさんが背中を撫でるが、フィーの顔が溶けている。
「フィーがこんなに懐くの珍しいですね」
「ああ、こいつからは良い匂いがする。精霊が好きな匂いだ。この後、精霊呼びをしてみよう。良い精霊を使役できそうだ」
「精霊と妖精呼びですか、クロエさん、やったことはありますか?」
「いえ、ないです。我が国は文明度が高くないので」
じゃあやってみよう!
東西南北に呼び声の魔法陣という紙を置き、真ん中にクロエさんを座らせる。
一度呼べばこういう行為は要らないのだけど、初回は寄せる為の補助があった方が良い。
「では小娘。まずは何でも良いから精霊よ来いと強く念じて、口に出してみろ」
「はい。――――――精霊さん、来て!」
クロエさんの右側にじわーっとだんだん見えるように、女性型で水色の精霊が出現する。30セルトメロスくらいか。音もなく出現しましたね。
「ほう、水の精霊ウンディーネか。空気中の水分を元に出現したな。まだまだ小さいが、これでも十分活用できる。ウォーターボールもこのサイズでなら扱えるし、水を出すだけでも冒険や旅では活躍する。では次だ。エド、火は用意できるか」
「はいはい、マッチのスキル『マッチ』」
私の指先に火が灯る。
「よしそれを目一杯小娘に近づけてから、もう一度小娘、精霊を呼んでみろ」
「はい。――――精霊さん、来てっ!」
また光が集まり、精霊が出る。2足歩行のトカゲだな。尻尾が長い。
「ヒトカゲだな。火は単純に攻撃として強い。個人防御するならこいつだな」
「戻すときは戻って、で良いんですかね。戻って下さい。ああ、戻りました。溶けるように消えていくんですね。これが基本なんですね」
「精霊は精霊粒子の集まりですからね。消えるときは溶けるように、出現するときはじわーっと、という感じなんですよ」
フィーはうんうんと頷く。
「こんな感じで何も考えずに呼べばその近くにいる精霊を呼び出す。ウンディーネよ、来い、と念じれば今の状況でもウンディーネを呼べる。呼び出すには精霊の存在が必要だが、どこにでも精霊はほぼ存在する。しかし2匹呼んでも疲れなかったのか。相当精霊と親和性が高いんだろうな」
クロエはうんうん頷いた後、興味津々な顔で喋る。
「ところでフィーさんは呼べないんですか? 呼べれば最高のボディガードじゃないですか」
「俺は腐っても精霊の王だ。呼べる奴は存在しない。唯一エドだけが呼べる、絆の力でな」
「そうなんですね、――来い! フィー!」
呼んだ瞬間、フィーの姿が消えて、クロエさんの目の前に子犬のフィーが出現した。
「これは……呼べた?」
「呼ばれたな、呼ばれた。正直驚いている。俺はエド以外には呼ばれたことがない。普通なら呼ばれても無視できる。素晴らしい才能だぞ」
「これで危ないときもフィーさんが守ってくれますね!」
「まあそうだが、精霊は妖精とは違って呼び出している間は自分のエーテルを消費するから、っと」
クロエさんがふらふらっと倒れる。私がしっかりと抱きしめる。
「気絶したか。精霊王を呼んだんじゃエーテルがいくらあっても足りない。エドリックと俺のように絆があるか、ぶっ飛んだエーテル回復力がなければな」
その夜は休んでクロエの回復を待ち、翌日は妖精召喚の訓練をすることに。ブルンツ王国内から早く去りたいから、やれるときにやってしまいたい。
「妖精は簡単です。来て下さい、と念じながら妖精さん、来い!と思いを声に出すだけです。しっかり念じた方がよい精霊が呼びに答えてくれますよ。大体その場で妖精契約を結んで、一緒に行動し始めます。クロエさんはどんな妖精が来てくれるんでしょうね」
「やってみます。――――妖精さん! 来て!」
ぽわわわーんという効果音と共に、きらびやかな服、六枚の羽根に身を包んだ、小さな妖精が出現した。大変綺麗で荘厳だ。
「こんにちは、私は妖精女王のソフィアよ。呼ばれたのなんて何年ぶりかしら」
ええ、ソフィアが呼ばれた!?
「ソフィアですか!?妖精女王を呼ぶなんて!」
「嫌な女が来たな」
「あら、エド、フィー、お久しぶり。あなたたちの従者が呼んだのね? ふうん。貴女、お名前はなにかしら。匂いからして王族よね。貴女の持つ、凄く綺麗な光が見えたから来ちゃったわ。なになに、胸もほどよく大きいし顔も凄くいい見た目じゃないの。エドの性的な奴隷にでもされたの? ――あ、違いそうね。それでそれで?」
クロエの周りをパタパタ羽を動かしながら浮遊して喋り続けるソフィア。喋りを止めないと。
「ソフィアはしゃべり出すと止まりませんね、本当。さあ、クロエさん、ご挨拶を」
「クロエ。クロエ・レイノルズです。アルカニア王国第一王女です。皆さんとお知り合いなのですか?」
「知り合いも知り合い、フィーの遊び相手ですよ。よくフィーがマジカルハンマーで殴られていました」
「嫌な思い出だ」
顔をしかめるフィー。犬の鋭い歯が見えている。
「そうね、昔はそうだったわ。さて、昔話はこれくらいにして。私を呼んだということは、私と契約するのよね、クロエちゃん」
こくこくと頷くクロエさん。びっくりして声が出ないようだ。
「じゃあおでこ出して。うん、そうそう。ちゅっ、っとな。これで契約は完了よ。私も一緒に旅が出来るわ。いやーみんなで旅だなんて何年ぶりかしら。4000年ぶりくらい?外って気持ちいいわね」
本当、この三人は久しぶりだ。
あの頃は若かったな。
今は少しだけ年をとった。
「ああそうそう、ソフィアは故あって契約者のエーテル回復力を少し頂かないといけないんですよ。後出しで申し訳ないですね、クロエさん」
「いえ! 女王様と一緒に行動できるなんて光栄です! いくらでも吸って下さい!」
「私も王女と行動できるなんて幸せよ。本当の子どもみたい」
「無理があるだろ」
「マジカルハンマー! だりゃあ!」
その三十セルトメロス程度の体格からとは思えないほどの大きな金槌がソフィアの手の中に出現し、フィーの頭にめがけて振り下ろされる。
キャウーン!
朝っぱらから騒ぎすぎて宿屋の店主に怒られる始末でした。
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