魔獣・亜獣
魔獣について
第一項:魔獣の定義
第二項:異なる魔獣同士の異種交配について
第三項:ヴァンダルの獣
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【第一項:魔獣の定義】
概要:魔獣はある一匹の粘性生物を起源とする動植物や昆虫の総称である。その粘性生物は、古くは『スライム』と呼ばれ現在の魔獣のように強力な危険性は持たず、核を壊せばすぐに死ぬ非常に弱い生物であったとされる。
このスライムは不定形のゲル状の生物で、核と一つの内臓器官、そして粘性の身体だけしかない巨大な粘菌のような生物であったが、ゲル状の身体の大半は強い酸性で、体に取り込んだものは何でも溶かし取り込んでしまうという食性があった。また、このスライムの身体を構成していたゲル状粘体は、古い文献によると環境に応じて変化する性質があったとされ、その土地の気候や環境に合わせてこのゲル状粘体の粘度や硬度や色などの性質や形状を変える事により、太古の生存競争に勝ち抜いて来たとされている。また、このゲル状粘体は主に核から生成されるゲル状粘体は肉体の修繕に、内臓器官によって生成されるゲル状粘体は獲物を溶かす胃液として使われていたとされる。
生存競争の中でスライムは独自の進化を遂げ、取り込んだ動植物や昆虫の特徴を分析し、自身の肉体の性質変化や形状変化に利用する、という強力な生体能力を得たと言われている。現在では、その生体能力はある条件下以外ではほぼ失われており、仮に他の動植物や昆虫を捕食したとしても、その分裂体が自身と同じ姿以外なる事は無いという。
強い環境適応能力があった反面、核と粘性の身体だけしか内臓器官が無かった彼らは、その体の構造の不完全性さ故に非常に短命であると同時に、種としての力が非常に弱かった為、その土地に住まう生物を取り込むことによって、その土地の環境に最も適した生物に独自進化を遂げて行ったが……彼らの進化は、熾烈な生存競争の中で起こった自然な選択の結果であり、その末に現在のような魔獣と呼ばれる姿に定着したと言われている。
そんな経緯で誕生した魔獣は、その誕生の経緯ゆえに、雌雄というものが存在せず、分裂という形で増えて行く。分裂の仕方は魔獣の種類によって異なるが、基本的には体のどこかしらに『肉腫』が出来上がり、ある一定の大きさまで育った肉腫が魔獣から剥がれ落ちると、時間経過を経てその肉腫が親魔獣と同じ姿の魔獣へと変化して行くという増え方をして行く。
また、彼らはスライムであった頃の生体機能を幾つか残しており、コレの代表例が『核』と呼ばれるものである。この核は、仮に潰されたとしても魔獣が死んだりするような事は無い。その魔獣の生体機能は、彼らの体にある内臓器官の循環系によって維持されているからである。しかし、魔獣の肉体が損傷した際、核はゲル状の粘体を放出し、魔獣の血管を通って傷口を
通常の生物であれば、血液が凝固し少しづつ傷口が塞がって行く。勿論、魔獣もこの血液凝固による傷口の修復機能は持ち合わせているが、この機能は核が潰された魔獣が保険として使用する能力である言われ、核を持つ魔獣たちはこの核から放出されたゲルで自身の傷口を完全修復してしまうと言われている。この再生能力は非常に強力で、通常ならば死んでしまうような傷であっても、早ければ半日で完全に再生してしまうと言われている。
——また、この核は個体ごとに形が異なり、珍しいものになると竜の首のような形をしている個体も存在する。
【第二項:異なる魔獣同士の異種交配について】
概要:上記で説明した通り、全ての魔獣の起源はスライムと呼ばれる粘性生物である為、彼ら一体一体は形状が大きく異なっていようとも、全く同種の生物である。故に、如何に形状が大きく異なっていようとも、同種同士の交配を可能とする。しかし、彼らには生殖器が存在しない為、一般的な動物の交尾などとは大きく交配の定義が異なる。
彼ら魔獣にとって多くの場合、交配は必要ない。何故なら彼らは単一生殖が可能であり、粘菌などのように分裂によって増殖していくからである。だが、彼らは極度のストレス環境下に置かれ続けると、そのストレス環境下に適応する為に『過食』と呼ばれる暴走状態に陥る。過食状態にある魔獣は、辺り一帯にあるモノを区別なく食い散らかし始め、猛烈な勢いで分裂を繰り返して行く。専門家によれば、過度なストレス環境下に置かれた魔獣が自らの子孫を残そうとする生存本能の暴走現象であると言われ、この状態にある魔獣は、たとえ同種の魔獣同士であっても捕食する。
過食状態にある魔獣は非常に凶暴な為、最優先の討伐が推奨されるが、その一番の理由は凶暴さ故ではなく、魔獣同士の共食いを真っ先に止める為である。魔獣同士の共食いは別に珍しい事ではなく、姿の異なる魔獣同士であれば一般的にも見られる現象である。……しかし、魔獣同士の共食いが起きる場合、彼らには必ず超えてはならない不文律のようなものが存在していると言われ、魔獣は例えその骨の髄までを食らったとしても、核だけは何故か食べないのである。
この理由は長い間、研究者たちの間でも謎であったが、過去に過食が起きた地域で死んでいた魔獣を解剖した所、胃に核があった魔獣がいたり、二つの核が融合ししかかった状態の魔獣、他にも通常よりも巨大な核を持つ魔獣が確認された。また、この過食があった地域で、奇妙な形状をした魔獣を見たとの報告が多数上がり、その魔獣と思わしき個体による被害が多発した事があった。
最終的にこの魔獣は冒険者達によって討伐されたが、討伐されたその魔獣の姿は非常に奇妙なものであったと言われている。ライオンの頭と犬の頭の双頭に山羊の胴体、そして背中には蝙蝠の羽が生え、蛇の尻尾が生えていたと言われている。まるで幾つもの生物を混ぜて作られたようなその魔獣はカーメイラと名付けられたが、この事件により一説の仮説が研究者たちの間で立てられた。
それが、過食状態にある魔獣が異なる魔獣の核を捕食する事により、その捕食した魔獣の特徴を取り込み、分裂した子供に自身の生物的特徴と混ぜた上で、形状を引き継がせるのではないか? という『混核説』と呼ばれる仮設である。
この仮説を実証する為に、とある研究者たちが実際に檻の中に過食状態にある異なる魔獣たちを入れ観察してみる、という実験を行った。
この実験は成功し、最後に残った魔獣が分裂をすると、その分裂して誕生した魔獣は捕食された全ての魔獣の特徴を引き継いで誕生した——
『ヴェルデッド・アンチャーグの大黒犬』と呼ばれるこの魔獣は、その圧倒的な危険性だけでなく、非常に厄介なことに驚異的な再生能力を有していた。勿論それだけでなく、生物としては常軌を逸した代謝能力を有しており、コレによって発生する代謝熱を体内で生成したゲル状粘体に吸収させて、体外に発射するという熱線攻撃を持ち合わせていた。また、キメラへと成長する事により、スライムであった頃の能力が幾つか復活しており、核が無くともこのゲル状粘体を体内で生成する事が出来るようになっている為、核が潰された後もこの熱線攻撃は多くの人々を塵一つ残さず消滅させた。
多くの犠牲を出しながらも、この大黒犬の討伐後、あらゆる国で魔獣に関しての法律が出来上がり、当時のルネサンス期に流行していた魔獣闘技場が全て閉鎖された。
また、これ以降、研究者たちの間でこの混核によって誕生する魔獣は、一番最初に発見された混核魔獣であるカーメイラに因み、『
【第三項:ヴァンダルの獣】
概要:魔獣が過食状態に陥るように、キメラもまた過食状態に陥る事による核の捕食を行う事がある。このキメラの共食いによって誕生したキメラを超えたキメラこそが、『ヴァンダルの獣』である。
初めて人の歴史にヴァンダルの獣が登場したのは、ダンジョンが現れてから数百年経ったあるの日の事、当時レムリア大陸の覇権を握っていた侵略国家ヴァンダルシアの近郊に存在するダンジョン——最果ての扉より現れた『ヴァンダルシアの悪夢』と呼ばれるキメラが最初である。その姿は文献曰く、幾つもの首を持つ竜で、ムカデのように地を這い、ミミズのように地面を泳ぎ、一晩と経たずにヴァンダル人の国であったヴァンダルシアを滅ぼしてしまった。その後、多大なる犠牲を出しながらも、残ったヴァンダル人の英傑たちによってヴァンダルシアの悪夢は討伐されたものの、これにより不毛の土地と化したヴァンダルシアに、二度とヴァンダル人の国が栄える事は無かったという。このヴァンダル人たちの偉業に因み、キメラの共食いによって誕生したキメラを、ヴァンダルの獣というようになった。
このヴァンダルの獣が誕生する経緯が判明したのは、その更に数百年後の事。ヴァンダルシアの悪夢が討伐された後も、最果ての扉からは何体ものキメラが排出されるところをヴァンダル人の末裔たちが目撃しており、何体ものキメラ達による熾烈な縄張り争いの末に、過食状態に陥ったキメラ個体が目撃されたという。その目撃から数日後、史上二体目のヴァンダルの獣である『レムリアの大災』が現れた事から、当時の研究者たちによってヴァンダルの獣は過食状態に陥ったキメラ達の共食いによって誕生するあらゆるキメラ達の最終到達地点であると結論付けられた。
また、キメラとの最大の特異点として『キメラは全て姿形が異なるのに対して、ヴァンダルの獣は姿形が同じである』という点が挙げられる。
通常、キメラは元となった親魔獣の形状と性質を受け継いで誕生するが、ヴァンダルの獣は全ての個体が若干の際はあれど、全ての個体が同じ姿形になる。これは、歴史上で確認された二体のヴァンダルの獣が、同じく多頭の蛇が根っこで繋がったような形状をしており、頭がまるで竜のような形状をしていた事と、今まで発見されて来たキメラが、取り込んだ核が多ければ多い程、ヴァンダルの獣と同じように多頭の竜のような姿になっている個体が多かったからである。研究者たちの仮説によれば、全てのキメラが一つの形状に収斂進化していくのは、それが彼らにとって最も生存に適した形だからであり、彼らにとってその姿こそが最強の生物である事の何よりもの証明だから、との事である。
が、何人かの研究者たちはこれに反対しており、「あれがキメラの収斂進化の結果である事は同意するが……あの形状が生存に適した形だからああなった、とは到底思えない。どちらかと言えば、何かの生物を真似ようとして失敗したかのようだ」と評しており、ヴァンダルの獣の姿形が、とある一匹の超常生物を真似たが、完璧には模倣し切れず、しかし何とかある生物の内臓器官や身体能力に近づけようとした結果、ああいう歪な形状に進化してしまったと主張している。また、このある生物こそが、魔獣の始祖であるスライムが思い描いた最強の生物であり、あらゆる魔獣たちの王——『魔王』と呼ぶに相応しい存在であると主張している。
ヴァンダルの獣はキメラ達と同じように凄まじい再生能力を持ち合わせており、核を破壊しない限りは殺す事が出来ないと言われている。また、ゲル状粘体に体内の代謝熱を吸収させて放つ熱線攻撃も使用できるが、通常のキメラとは比べ物にならない程の威力を誇る。
そして、ヴァンダルの獣が持つ切り札として、『涙』と呼ばれるモノが存在する。
魔獣の体内で生成されるゲル状粘体は凄まじい熱量エネルギーを吸収する事が出来るとされ、限界まで吸収すると、少しの衝撃を与えただけで大爆発を起こす爆弾になるという。ヴァンダルの獣にまで成長したキメラは、この爆弾を生成できる程の代謝熱を体内で作る事が可能となる。
一説によれば、レムリア大陸最大の湖であるウェージャ湖も、この涙によって形成されたクレーターに、雨水が溜まって出来たものだと言われている。
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