5話 世界は素晴らしい

世界は残酷だ。

しかしそれゆえにきっと戦う価値があるんだと思う。

私は学問の道にすすみ、私の"友達"は死んでしまった。

花には花言葉という、二つ目の意味があるという。


それならばたまたま"運悪く"命を奪われてしまった私の"友達"の死に。

二つ目の意味を与える事はできないだろうか。

きっと平和のために、私が"運良く"できることはこれしかないんだと思う。

だから私は学問の道で、今度は銃をとらずに戦う必要があるのだと思う。

世界は素晴らしい。それゆえにきっと戦う価値がある。


最初に文字を教わった時、私はミミズが紙の上を這っているとか。

なにかの汚れだとか本気でそう思った。

最初に本を読んだ時、そこに描かれていた世界が壮大である事に涙をこぼした。

最初に勉強をした時、わからないということがわからなかった。


最初に学校に行った時、すっごく緊張した。

最初に試験を受けた時、ほとんど解けない事が悔しかった。


初めて勉強で友達と競って、初めて友達よりも成績が良くて。

初めて先生に褒められた。

そして私はどんどん勉強が好きになって、

ある日先生に飛び級をすすめられた。


孤児院では、それはそれはとても珍しいことだって騒いで。

まわりの驚きように私はすっごく驚いた。


そして私にとってはすべてが新鮮ですべてが色鮮やかで。

そのすべてがとてもとても美しかった。


私にはやらなくてはならない事がある。

私には学校に行く前にも友達がいた。


今はもういない友達のために、その友達の分までなにがなんでも

平和な世界の実現を目指す必要があるからだ。

もう、私たちのようにお金に困った親が子供たちを軍隊に売らない。


そんな世界の実現のために、

いまでも私はこの身を神に捧げているつもりだ。


しかし未だ世界は暗く、地獄はそこらへんにあって天国への階段は見あたらない。


イギリスのとある大学に入った私は、NPOの設立準備をすすめながら主席で卒業。

大学院に進学した私は国際情勢と哲学を学び。

そのまま国際平和にむけて研究者として、とあるセンターで研究員をしている。


一歩一歩。


過去の自分に後悔をすることすらできない程の圧倒的時間を

世界平和のために注いでいる。


私はみんなの人生を背負っている。

その気持ちでいっぱいだ。


ある日、実地での研究調査としてとある中東の村にきていた。

少年に案内をされてあたりをまわる。



少年と、ある事がきっかけで仲良くなり、

とっておきの場所へ連れていってくれるといわれた。


そこは急峻な高い崖で上から村を一望できる場所だ。

上空では一羽の鷹が飛んでいる。

あの鷹を目で追うと自然。見下ろす形になる。


ここは最初に本で読んだ世界よりもとても広大だった。

村の建物はとても小さく点在し、遠くでは山々が緑に生い茂る。

さらに裏側では地平線に近い水平線がどこまでもどこまでも遠く広がる。


こんなにも人々がいて、こんなにもその人の世界があって。

私が守らなくてはいけないのは、きっと生きている人の世界の方だ。


自然と涙が流れた。

少年は私を見て歯をだして笑っている。

ああ、世界はやっぱり残酷だ。しかしそれゆえにきっと戦う価値があるんだと思う。

世界はやっぱり素晴らしい。だからそれゆえにきっと戦う価値がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る