4話 祈り


"ハゲワシと少女"。有名な一枚の写真がある。

あの写真とおんなじような地域の

どこにでもあってはいけないけれど

どこにでもある紛争地帯のお話。


どこにでもいる少女が、か細い祈りを捧げたけれど

全部裏切られてしまったお話。

少女はそこにいた、年端もいかない子供だ。

少女はぼろ布をまとっていた。

けれども信心深さは誰よりもあった。



戦争屋が安上りの銃弾と兵器を売りさばき。

少女は"運悪く"それを担いで構えて訓練をして

隊列を組んで、武装していた。

少女には同じ"運悪く"似たような境遇の友達がいた。

男の子でも女の子でも、その日のデザートの

チョコのかけらが少し多かったとか


そんなちょっとのことでも真剣に大笑いした。


ある日少女はまたしても"運悪く"大人たちの言う

ムズカシイ作戦に参加させられた。

理由なんかどうだっていい。

ちょっと足が遅いとか。


ごはんを食べるのが遅いとか。

銃の組み立てが遅いとか。


作戦ははじめからうまくいく算段がついたものではなかった。

音が先なのか光が先なのか、もの凄い爆発のあとで少女ははぐれた。

戦場において隊列からはぐれて、隊長の指示を仰げないということは

直結してこれから死ぬということを表す。

銃弾の連続した素早い音に恐怖した。


しかしなによりも恐怖したのは何もできないということだ。

そして何も救ってくれやしなかった神様への気持ちに絶望した。

その時少女の信仰が死んだ。



すべてを頼って、いつかなんとかなると思った。

だって私が死ぬはずないもの。

だって私は私なのよ。死ぬってどういうこと、

殺してしまうってどういうこと。

どうして争うの。どうして戦わなきゃいけないの。

私がなにをしたっていうの。

彼女はより長く生きながらえるために、それを心の中でさんざんわめいた。


――ああ、神様。どうか私を助けてください。


鉄が鳴り石が砕ける音が近づいた。


ここまでが全部裏切られてしまったところまでのお話。

お話には続きがある。



そして少女は為す術なくガタガタ震えながら銃を握りしめた。

「チョコレート。」

カタコトの私が知っている言葉で話しかけられた。

意味がわからなかったし、いつ死ぬかわからない事に戦慄しきっていた。

「チョコレート。タベル。」

"敵"だって聞いていた兵隊がとってもぎこちない笑顔でそういっている。


ああ、チョコレート。


多いか少ないかそんなことで騒いでいたチョコレート。

そのチョコレートを受け取ったかわりに銃を捨てた私は今。

大学でどうやったら平和な世界にできるか、学問の道に進んでいる。

唐突だけど、私はそれはもう文字の書き方から言葉通り死にもの狂いで勉強した。


だって私は知っているもの。戦争がいけないことだって。

きっと、神様はいるんだと思う。

私の知っている神様は私にチョコレートをくれたもの。

神様は私に人間の御遣いをくださったんだと思う。

みんな悲しい終わりを迎えてしまったけれど。

そのみんなに一つずつ花をそえるような、意味を与えていきたいから。

だから私のお話はまだ続く。道のりは険しいけれど、まだ続く。


神様。

どうかお願いします。

平和な世界を。

祈りが届きますように。

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