叶わぬものだから
死神王
本編
「また凹んでるの?」
笑う茶髪のボブカットの女性は私に向かって嘲た。
「辛いけど、仕方ないんだよ。言わない方が自分に正直じゃない。言いたいことはハッキリ言いたい。」
いつものように強気に喋る私は確かに失恋して凹んでいたけど、実は少し元気だったりしていた。
「あんたも大概にした方がいいわよ。そんな気持ちがコロコロ動いているようじゃ、恋愛も上手くいかないよ。」
君に痛いところを刺されて、
「あ、う、うん。」
と答えるしか無かった。
スマホをタップすると、「時刻は22:55」終電間近のチェーンカフェは人はもう居なく、店員もどんどん片付けを進めていて、私たちもそろそろ帰りなさいよとでも言うような感覚だった。
「べ、別に」と口が走る。
「別に惚れやすいわけじゃないよ。」
そう応える。
「ただ、寂しいんだよ。朝食は菓子パンよりかはちゃんとした手料理の方がいいとか、夜はつめたいから独りよりも二人の方があたたかいとかそういう感覚と同じだよ。今よりいい未来があるならそれを見てみたい。」
「また始まった。漠然としたよく分からないもの。」
辛辣なコメントにふと目を逸らすと彼女の耳のピアスに目がいった。
「そうやってカッコつけて言っても、私の言ってることとは違い無いわ。もっと純粋な恋愛した方がいいわよ。」
「じゃあ、貴方はどうなのさ。」
私は震えながら尋ねた、そんな気がする。
「私? 私は付き合うとか興味無いから。」
キッパリと答えられてしまった。
「暖かい家があって、美味しいご飯が食べられて、そこそこお金があればいいから。別に彼氏とか、まあ、居てもいいけど興味そんなにないんだよね。」
「それは、凄い現実的だね。」
「なにそれ、うざ。」
そう笑う彼女を横目に、私は皮肉っぽく答えるしか無かった。咄嗟にスマホをタップすると時刻はそろそろ23:00を迎える。
「そろそろ帰ろっか。」
そう言って彼女は立ち上がった。私もそれに追いかけるように立ち上がった。
帰り道の駅について、
「ここで別れるよね。今日はありがとう。またね。」
そう言って手を振る茶髪を見て、
「あのさ、」
言葉が漏れた。
「やっぱり、俺はそばにいて欲しいと思ってるよ。」
それだけ伝えた。ただ、それだけ伝えた。
彼女は「何それ」そう笑って、
「新しい出会い見つけなよ。」
それだけ返されて、それだけで、別れた。
乗った地下鉄のシートはぺたんこで、身体の重みがよく伝わった。私はまるで風船から空気が抜けるように萎れた。萎れた感覚がした。ああ、また、言えなかった。本当は誰も好きじゃないって事。今こうやって過ごしているのがとても落ち着くという事。ただ、そばに居て欲しい事。
でもきっと彼女は「興味無い」と答えるだろうから。最善の選択をしたつもりだった。だってずっと友達でいないと今の気持ちは続かないから。付き合ったら、いつかは別れるから。地下鉄を抜けて駅に止まり自動ドアが開くと、冬の冷気がやって来て、固まった心を更に冷凍してくれた。
家に着く。ドアを開けると暖房の熱が私を迎え入れた。母のもとに行くと「ご飯あるよ」とだけ言われて晩御飯を食べた。
ご飯はいつものように美味しかった。
美味しかったけど、ただ寂しいと思っていた。
叶わぬものだから 死神王 @shinigamiou
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